第3回「ミント・フォレスト」/酒飲み独身女劇場 ハッピーエンドはまだ来ない③
更新日:2024/2/14
地球に直接植えた方がミントたちもよりオーガニックになれるよね。春の植木鉢のクラス替えは終わり、夏を知らせる蚊にキスマークを大量につけられながらも、ミントを転校生として庭に送り出した。勝手に生えて無法地帯になっている雑草にも「ミントをこれからよろしくね」と一言。
自由を手にしたミントたちは、たちまちぎゅっと一気に大きくなり、ミント界のパリコレに出れるくらいの背丈に成長していった。一方、その頃すでに私はモヒートには飽きてしまいミントとは無縁の生活を送り始めていた。
丁寧な生活はそう続かないのかもしれない。私の飽きを悟ったのかミントにも異変が現れ始めた。
本格的な夏を迎え自由を手にしたはずのミントが儚げな少女のようにしおらしくなり、ついにはいなくなってしまったのだ。暑くてアイスクリームみたいに溶けてしまったのだろうか。あれほど植木鉢の中で繁栄していたミント帝国は全滅してしまったのだ。
なんとなく愛し、なんとなく忘れてしまいそうな夏の思い出フォルダに分類したまま、春になった。
暖かい春風が懐かしい香りのする思い出を運んできた。その香りはとても透き通っていて少女漫画に出てきそうな爽やかさ。庭をじっと見てみると、あらゆるところから見覚えのあるミントの姿が垣間見える。
「あの夏、君は死んだんじゃなかったっけ?」とドラマでしか使われなさそうなセリフを現実で使う日が来るなんて。
よろしくねと告げた雑草もそういえば、どこにもいない。たんぽぽやクローバーもいなくなってる。
気付けば庭一面がミントに侵略されていたのだ。ミントはあの夏死んだとみせかけて虎視眈々とこの時を待っていたのかもしれない。
