第5回「進撃の駅弁」/酒飲み独身女劇場 ハッピーエンドはまだ来ない⑤

文芸・カルチャー

公開日:2024/3/22

怒れる教授と、歌う焼肉弁当

酒飲み独身女劇場 ハッピーエンドはまだ来ない

その日は1限のフランス語の授業の時に友人が帰省したお土産だとちょっと強面な牛の顔の駅弁を差し入れしてくれたの。

いつも購買で豚の生姜焼き弁当ばかり食べていたので、ちょうど違うものを食べたいなと思っていたこともありラッキーと胸を高鳴らせていたんだ。

そのまま、友人たちとは解散し、2限の授業に向かいスマートフォンの電源がしっかり切れているか二重確認を行い準備完了。

この授業はプロジェクターに映し出された昔のアニメーションを見るものだったんだけど、教授がなかなか気難しいの。
スマートフォンをいじったり、アニメーションを遮るような話し声や音を出したら問答無用つまみだされ落単の危機。

…なんだけど部屋が結構暗いので居眠りしていたりこそこそお菓子を食べている人もいたり、なんならいつも炊飯器を持ち込みコンセントにつなげている人もちらほら。

永遠に丸と三角と四角が動いているだけの映像に眠気もさしてきたし、丁度今手元にもらった弁当もあるし、こっそり食べちゃおうと取り出して蓋になっている牛の仮面を持ち上げたんだ。

その瞬間、うさぎ追〜いし、かの山〜♪と一昔前の着メロのようなメロディで「ふるさと」が流れ始めて大パニック。

そういう時に限って、アニメーション静かになるんだよな。
もちろん、教授すかさずリモコンで映像を止めて震度2くらい震え始め、やがて激おこ大噴火。

30秒程度流れた後にメロディは止まったんだけど、犯人探しは止まらない。
「あれほどスマートフォンや電子機器は禁止と言ったはずだ」と一人一人点検が始まった。

当時単位ギリギリを攻めていた自分はどうしても落とすことはできず、名乗り出る勇気はなかった。

私の前に鼻息荒い教授が来たとき、ふざけた駅弁(ちなみにモー太郎弁当というらしい)に気付かれたらどうしようと冷や汗が止まらなかったけど可愛げが全くない真っ黒な牛のビジュアルのおかげかスルーされ安堵。

何事もなく、このままやり過ごせると思ったが、炊飯器ボーイの前に立ち止まったのだ。
机の上から伸びる黒いコードの先には真っ白な炊飯器。

ほのかに漂う甘いお米の香り。

ぼそっと炊飯器ボーイが何かを言った直後、「今炊き上がったから保温になっているんだろうが!!」と教授の声が教室内に響き渡る。

このコンセントは授業中に炊飯器を繋いで置く場所じゃない!!と説教が続き、授業は幕を閉じた。

 

今でも思い出すたびに、彼に対して本当に申し訳ない気持ちで胸が痛い。

いつか焼肉でも何でもご馳走させてください…。

この世の中には音が鳴る駅弁が存在するので食べる時はくれぐれも注意してほしい。

ちなみに甘めの焼肉がぎっしりと詰まっていて、付け合わせもちゃんと入っているので最高においしーーー!!

マーレ産のこの赤ワインにも合うこと間違いない、もう一度、あの駅弁に会いたい…。

<第6回に続く>
さかむら・ゆっけ、●酒を愛し、酒に愛される孤独な女。新卒半年で仕事を辞め、そのままネオ無職を全う中。引っ込み思案で、人見知りを極めているけれど酒がそばにいてくれるから大丈夫。たくさんの酒彼氏に囲まれて生きている。食べること、映画や本、そして美味しいお酒に溺れる毎日。そんな酒との生活を文章に綴り、YouTubeにて酒テロ動画を発信している。気付けば、画面越しのたくさんの乾杯仲間たちに囲まれていた。