いよいよBOOK OF THE YEAR 2024 スタート!昨年のエッセイ・ノンフィクション・その他部門を振り返る——あの闘病記がトップに。
公開日:2024/9/5

『ダ・ヴィンチ』の年末恒例大特集「BOOK OF THE YEAR」。2024年の投票は現在受付中! 各ジャンルの「今年、いちばん良かった本」をぜひ投票してみてほしい。ここで改めて、2023年の「エッセイ・ノンフィクション・その他」部門にどんな本がランクインしたのか振り返ってみることにしよう。
1位『くもをさがす』西 加奈子
2位『たゆたう』長濱ねる
3位『祖母姫、ロンドンへ行く!』椹野道流
4位『母という呪縛 娘という牢獄』齊藤 彩
5位『激ヤバ』伊藤幸司
6位『京大中年』菅 広文
7位『彗星交叉点』穂村 弘
8位『無人島のふたり 120日以上生きなくちゃ日記』山本文緒
9位『月と散文』又吉直樹
10位『メメンとモリ』ヨシタケシンスケ
11位『ある行旅死亡人の物語』武田惇志、伊藤亜衣
12位『屋上とライフル』板倉俊之
13位『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』小野寺拓也、田野大輔
14位『古本屋は奇談蒐集家』ユン・ソングン:著、清水博之:訳
15位『へんなの』国崎☆和也
15位『ポンコツ一家』にしおかすみこ
生きることについて、死について、今一度問い直す一年だったのかもしれない。1位に輝いた『くもをさがす』は、コロナ禍の2021年、滞在先のカナダで乳がんを宣告された西加奈子さんによる日々の記録。がん治療中、自分が乖離していく感覚を味わいながらも、〈私の体のボスは私〉〈私は、私だ。私は女性で、そして最高だ〉と自身の体のありようを選択する姿に、「これまでの小説とはまた違う、生きることの力強さを感じる作品だった」「西さんの言葉ひとつひとつにぎゅっと抱きしめられているような気持ちになり、言葉に支えてもらう、言葉に力をもらうことを実感しました」と励まされた読者が多かったようだ。
時を同じくして、ステージ4のすい臓がんと診断されたのが山本文緒さん。コロナ禍の自宅で夫とふたり、無人島に流されたかのような日々を綴った著書は、8位にランクイン。最期まで一心に書き続けた言葉に心が震える。他にも、生きる意味の必要性を問う『メメンとモリ』、身元不明の死者の素性をたどる『ある行旅死亡人の物語』と、生死について考える作品が高評価を得た。
2位は、本誌連載エッセイを著者自ら厳選した一冊。悩みや葛藤など、ありのままをさらけだす素直な筆致に共感を寄せる読者が多かった。

3位は、若かりし頃、祖母のロンドン旅行に同行した著者の回想エッセイ。自己肯定感の高い祖母の言葉、ファーストクラスのCAや高級ホテルのバトラーたちのホスピタリティに心打たれる。

4位は、いびつな母娘関係を炙り出したルポルタージュ。医学部受験を強いられ、9浪した末に母親を殺した事件について丁寧な取材で真実をひもといていく。あまりに衝撃的な現実に、打ちのめされた読者も多数。
コロナ禍で文章を綴る芸人が増えたこともあって、5位以降は人気芸人のエッセイが続々ランクイン。5位、15位にはランジャタイのふたり、6位にはロザンの菅さん、12位にはインパルスの板倉さんと続くほか、芥川賞作家の肩書を持つ又吉直樹さんの10年ぶりとなるエッセイも読者の支持を得た。異彩を放つのが、母の認知症を機に家族と同居を始めたにしおかすみこさんの介護エッセイ。過酷な日々を笑いに包んでカラッと伝える、芸人ならではの語り口が評価された。
他にも、たまたま出会った言葉に詩を見出す穂村弘さんの『彗星交叉点』、絶版本を探す人々のさまざまな事情を聞き取る『古本屋は奇談蒐集家』のように、言葉や本をめぐるエッセイも人気。13位は、ネットを中心に広がる「逆張り」の主張に対し、専門家が真摯に向き合った解説書。SNSにあふれる間違った情報や怪しい俗説に惑わされず、歴史や社会を読み解く力を養える、今の時代にふさわしい一冊だ。
文=松井美緒
※この記事は『ダ・ヴィンチ』2024年1月号の転載です。