「ツッコミガチ勢」と名乗る僕が考える「ツッコミ」とは/ツッコミのお作法①
公開日:2024/9/30
ひとつのボケも無駄にしないことを目指す〈ボケロス削減ツッコミ〉
今のお笑い界ではスター性があって自然と前に出てくるフロントマン気質のツッコミの方もいますが、僕はあまり前に出る性格ではありません。一歩引いて、ボケの面白さを汲み取って伝える役割に徹するツッコミが性に合っています。この連載のようにツッコミにスポットを当てていただくこともありますが、あくまで本質的にはボケの人ありき。誰もボケなくなったら商売上がったりの存在です。
だからこそ、どんなボケも絶対に切り捨てたり見捨てたりせずに必ず最後までツッコむと決めています。ボケのロスゼロを目指す、〈ボケロス削減ツッコミ〉とでもいえるかもしれません。
もちろん、今の僕の実力では全てをツッコミで笑いに変えることはできません。僕の知識や経験不足によりお手上げの場面もあります。それはもう多々あります。なんなら昨日もありました。そういうときもどうにかあがいて持ちうる最善の言葉選びをした上で、「すみません、今回は僕のせいであなたの面白さを伝えきれませんでした」と思いながら一緒に散るというのがポリシーです。長々と説明してしまいましたけど、要はいつでも一緒にスベることはできますということです。決して胸を張って言うようなことではないですよね。
以前、『トシちゃんに会いたい』というライブがありました。トシちゃんこと田原俊彦さん愛あふれる7人の芸人が集まり、その中から「本物のトシちゃん」を決めるというベリークレイジーライブで、僕はトシちゃんではなくMCを務めました。それぞれが思うトシちゃんになりきって登場するオープニングから、ダンスを披露する「悩み事を隠すトシちゃん」コーナー、各自による即興コントのはずが勝手に合同コントになった「即興トシちゃん」コーナー、レイザーラモンRGさんがただただ「ごめんよ 涙」を歌いきった「イントロトシちゃん」コーナーなど、2時間以上にわたって繰り広げられた全トシちゃんボケを、僕なりに必死で食らいつきました。ジェネレーションギャップもあって正直なんのことかよくわからないディープなトシちゃんボケにもとにかくツッコんでいたらなぜか最終的には僕がトシちゃんということで幕を閉じました。今でもなぜ僕が本物のトシちゃんになったのか説明できません。
終演後、出演していたハリウッドザコシショウさんから「君、いいよ」と声をかけてもらいました。ザコシショウさんとはその半年くらい前に、Abemaの『マッドマックスTV』という番組でご一緒したのが初対面。ザコシショウさんと永野さんとトム・ブラウンみちおさんと僕がひとつの部屋に入れられ、同時にボケてくる3人に僕がツッコミ続けるという、本来この世にあってはならない企画でした。なので、『トシちゃんに会いたい』の後にかけられた一言は、前回の収録も踏まえて僕のツッコミとしてのスタンスに対して言ってもらったことなのかな、となんとなく感じました。
後日、渋谷凪咲さんとザコシショウさんの番組『凪咲とザコシ』(テレビ朝日系)に呼んでもらう機会がありました。内容は「トンツカタン森本のプロフィールを勝手に予想!」。何も知らされていない僕がスタッフさんから聞かれるままに答えたプロフィール情報がクイズになっていて、それをお二人が当てるという企画です。
その中のひとつに、「芸人としてこれだけは負けないと思うところ=ボケと???する覚悟」というクイズがありました。それを見たザコシショウさんは「心中でしょ」と即答。まるで見透かされているようで気恥ずかしいのと同時に嬉しさが込み上げて来たのを覚えています。
その後、「スベってるボケを捨てないで拾ってあげる、それがたとえウケなくても俺は拾うよ、ってことでしょう」「ボケの芸人からしたら全部乗ってくれて、本当にありがたいよね」と真正面から褒められて、めちゃくちゃ嬉しかったです。そんな話をザコシショウさんにしたことは当然なかったのですが、たった2回の共演でも伝わる人には伝わるんだ、これでいいんだ、と思えた瞬間でした。


森本晋太郎(もりもと・しんたろう)/1990年、東京都出身。お笑いトリオ「トンツカタン」のツッコミ担当。プロダクション人力舎のお笑い養成所・スクールJCA21期を経て、現在はテレビやラジオで活躍中。