「ツッコミ」は空気を一変させるキーマン?/ツッコミのお作法⑤
公開日:2024/11/25
不機嫌オーラを発している相手にどうツッコむか
気まずい空気を和らげる必要が生じる場面って、意外とよくあると思います。たとえば、職場でなんとなく不機嫌そうなオーラを発してムスッとしている人がいたら気になりますよね。芸人でいうと、大楽屋に入ったら不機嫌そうな人がいて、周りもそれを察してちょっと空気が淀んでいる……みたいな場面に置き換えられそうです。
僕だったら「これはちょっとインタビュアーの血が騒ぎますね。どうされました?」と、ほんのり茶化しながら声をかけるかもしれません。シンプルに「どうしました?」と聞くよりもコミカルさが出るので、相手も「ちょっと聞いてくれよ」と乗っかりやすい気がします。しかも「インタビュアーの血が騒ぎますね」という言い方には成分として“茶化し”も入っているので、「周りが変な感じになっちゃってるから気をつけましょうね」というニュアンスも込められます。不機嫌になるのは自由ですが、周りにそれが伝わってしまうのはあんまりいいことじゃないですからね。
ただ、念頭に置いておかねばならないのは、機嫌の良し悪しは体調に左右されるところも大いにあるということ。特に何か嫌なことがあったわけじゃなくても、調子が悪いときにご機嫌でいるのは大変です。具合が悪くてパフォーマンスが下がって、自然と不機嫌そうな雰囲気になってしまうのは人間誰しもあり得ることです。僕なんて特にそうです。
そういう人と対峙したときに僕がたまに言うのが「もう少し休んだ方がいい」や「今あなたに足りないのは睡眠だ」というようなツッコミです。めちゃくちゃ売れて忙しくしている芸人とライブや番組などで一緒になったとき、明らかにボケの調子が芳しくなかったり噛みがちだったりしたらこれを言います。お笑いに限らず、仕事に追われすぎて明らかにパフォーマンスが下がっている人、普段の調子を崩している人に対して使えそうです。〈寄り添いツッコミ〉とでも命名しましょうか。
■ツッコミ例
「今あなたに足りないのは睡眠だ」■ツッコミ名称
寄り添いツッコミ■解説
忙しすぎて普段通りの振る舞いができなくなっている人に対して、気遣いつつ不調を指摘するツッコミ。
ツッコミは切込隊長を助けることも
この連載の編集の方と「気まずさとツッコミ」について話していたところ、「自分の一言で場が凍ったとき、『なんかお通夜みたいな空気ですね』って自分で言ってもっと空気を悪くしちゃいますね」と言っていました。ひょっとしたらとんでもない人とチームを組んでしまってるかもしれません。なぜそんなことを言うのか伺うと、「なんか腹が決まっちゃって『もっと言ってしまえ』って拍車がかかるんです」とのこと。世の中には決めるべき腹と決めなくていい腹があるということを学びました。
でもそこまで言われたら、いっそ「誰が言ってんだよ!」とツッコんで空気を変えられるので、こちらとしては逆に楽かもしれません。そこから広げて考えると、もし誰かが何か言いづらいことをあえて言おうとアクセルを踏んでいたら、フォローの意味も込めてツッコんであげるのもひとつの手助けといえそうです。
僕が言われて嬉しい言葉のひとつが、「このボケは舞台でやったことないんだけど、今日は森本がいるから試してみようかな」です。YouTube「タイマン森本」にゲストの方が来てくれて、すでにおなじみの鉄板ボケをやってくれるのももちろん嬉しいですが、この”初出し”もかなり嬉しいです。ボケるのって実はめちゃくちゃ怖いことじゃないですか。しかも人前で初めてやるボケって、スベるリスクも当然あるので絶対に勇気がいることです。それを「この人の前だったらやってみよう」と思ってもらえるというのは、ほかの誰でもなく僕が受け手である必要があると感じられてツッコミ冥利に尽きます。心の扉をひとつ開いてもらえたのかな、と思える瞬間ですね。結局僕がうまくツッコめず、その扉がゆっくり閉まっていくパターンも多々ありますが。
お笑い以外の仕事や環境に置き換えるなら、ボケの人=思い切った提案をする人といえます。そういう人が気まずくなることを恐れずに切り込んでいけるように、場を整える役割を引き受けることもまた、ツッコミのお作法のひとつではないでしょうか。

(取材・文/斎藤岬)
<第6回に続く>
森本晋太郎(もりもと・しんたろう)/1990年、東京都出身。お笑いトリオ「トンツカタン」のツッコミ担当。プロダクション人力舎のお笑い養成所・スクールJCA21期を経て、現在はテレビやラジオで活躍中。