絵本作家・鈴木のりたけ「子育てで一番重要なことは、忍耐・待つこと」。大ヒット絵本「大ピンチずかん」シリーズに続く最新作『たれてる』誕生秘話
公開日:2024/11/15
楽しんでくれれば、絵本を読んでくれなくたっていい

――『たれてる』を読み聞かせする大人に伝えたいことは?
鈴木 とにかく楽しく読んであげてほしいです。冷静に「たれてる、たれてる」とか言っても楽しくないじゃないですか? 「うわー! たれてるー!!」とか「た、たれてる…」とか、読むたびに言い方もどんどんアレンジしてほしい。楽しんでさえくれれば、僕の絵本なんて読んでくれなくたっていいです。
――よ、読まなくてもいい?
鈴木 全然いいですよ。表紙だけ見て「そういえば、駅前にドーナツ屋できたねー」「今度買ってきてよー」とか会話が始まってもいいし、どんどん関係のない話に脱線してくれてもいい。この本が親子のコミュニケーションのきっかけになってくれたら、僕は嬉しいですよ。
――鈴木さんも子どもに読み聞かせをする時に、脱線することがあるんですか?
鈴木 あります、あります。世の中には残念ながら“駄作”とされている絵本もあるわけじゃないですか? でも、我が家ではそういう作品も独自に楽しんでいて、途中まではいつもどおりに読んでいたのに、最後のあんまり面白くないオチのページのところで「なんだこりゃー!」って本を投げ捨てたりします(笑)。いまいち読む気になれなかったら「あれ? なんかこの本ページが開かないぞー!」とかふざけたり…。メッセージをちゃんと汲み取ることだけが絵本の楽しみ方ではないと思っています。
子育てで一番重要なこと
――お子さんが3人いらっしゃいますが、子育てで大事にしていることはなんですか?
鈴木 「忍耐・待つこと」、これに尽きますね。うちの子は小学校入学して1週間ぐらいで「学校に行きたくない」って言い出したんです。もちろん親としては行ってほしいですが、でも強制するのはよくない。なぜなら、「行きたくない」も立派な自己主張なんですよ。それを認めなかったら親子の関係としてダメじゃないですか?
――親としてはなかなか難しいところですね…。
鈴木 だから「忍耐」という言葉になるんですよ。僕の人生ではなく、あくまで子ども自身の人生です。最終的に全部責任を負うわけにいきません。もちろん「学校楽しいよー」とか促すことはしましたけど、それでも強制はしませんでした。最初は家でずっとゲームしたり、ダラダラしたりしていて、もうどうしよう? って感じだったんですけど、時間が経つにつれて子どもに勉強への意欲が出てきたんですよ。
やっぱり、やらされるのと自分からやるのでは、吸収力が違いますよね。週に1回だけ個別指導の塾に行かせたら、それまで何も勉強していなかったのに、すぐに同じ学年の学習進度に追いつきました。自分の判断で人生を歩んでいくために、親が強制や先回りをせずに見守ることは非常に大事だと思います。
――他にも「忍耐」が必要だと感じたことはありますか?
鈴木 学校に行く行かない、となると難しいテーマになってしまいますが、日常的な場面でもたくさんありますよ。例えば、子どもが牛乳をこぼすじゃないですか? 案じて先回りしてタオルで拭くのは簡単ですが、こういう時も、待つことによって考えさせる機会になるんです。子どもは、はじめはどうしていいかわからないから、ティッシュをたった1枚持ってきて、それで拭いてみるんです。でも、それでは全然足りないことを学んで、ティッシュを捨てようとゴミ箱に持っていく時に、その牛乳が床にたれることを学ぶ(笑)。
――うわー、口出したくなっちゃいますね(笑)。
鈴木 でも、最終的には大人が拭けばいいだけですから、大したことではないんですよ。「こぼさないで!」「早く拭いて!」と思わずに、「いったいこの子はどうする気なんだろう?」という目線で見れば、待つことはそれほど難しいことじゃないです。むしろ失敗して少しずつ学んでいく子どもの姿を見るのは喜びでもあります。そっちの方が、僕も子どもも楽しいですしね。