誰も損せずメリットしかない「上品言い換えツッコミ」/ツッコミのお作法⑧
公開日:2025/1/6
失礼な相手に一言言ってやりたい、そんなときのツッコミ
「いじり」というところで続けると、この連載の第6回で「お笑い以外の世界で、失礼ないじりをされたときに無理してうまくツッコむ必要はない」という話をしました。これについて、その後も引き続き考えてみていたんですが、「自分は今、失礼なことを言ってしまったんだ……」と相手にわからせるためにツッコむという選択肢はありかもしれません。基本は無視したりあしらったりでいいですけど、こちらからもポップにチクっと刺せるもんなら刺したいですもんね。
大して関係性もないのに雑にいじられたとき、無理に乗っかってそこに加担するのは嫌ですよね。でも「そんな嫌な言い方しないでくださいよ」とまっすぐ返すのも、一矢報えてない気がする。せっかくならこっちのムカつきを華麗に跳ね返してやりたいもんです。
「え、どうしたんですか!?ずいぶん調子悪いですけど!」と、相手がつまらないいじりをしたことを真剣に心配するトーンで返すというのはいかがでしょう。向こうからしたらウケ狙いで言ったことが全くウケてない上に心配までされるのは屈辱ですし、「調子悪くねーよ」と言うのも癪でしょう。
もっと煽り成分を増やすと「あれですか?けっこう古の価値観でやられてる感じですか?」くらい言ってもいいかもしれません。このご時世、価値観のアップデートを怠るとどんどん孤立してしまいます。新しい方が良い、古い方が悪いというシンプルなものでもないですが、少なくとも自分とは物事の考え方が違うとハッキリ線引きをすることができます。そもそもの感覚が違う人なんだと割り切れればあまり嫌な思いもせずに済むんじゃないかと思います。
■ツッコミ名称
一矢報いツッコミ■ツッコミ例
「え、どうしたんですか!?ずいぶん調子悪いですけど!」
「あれですか?けっこう古の価値観でやられてる感じですか?」■解説
失礼な物言いやいじり方をされたとき、「ムカついた」「嫌だった」と相手にきっちりわからせるためのツッコミ。
人によっては嫌なことを言ってる自覚がない人もいます。こちらの一矢の報い方によっては相手をハッとさせられるかもしれません。そういう意味ではこちらが飛ばす矢には愛がありますよね。キューピッドが使ってる、先端がハートになってる矢みたいなもんなんですよね、ツッコミって。……なんとか自分の性格を良く見せたかったんですが、無理そうですね。
本気で謝ってほしいわけじゃないけど……
日常生活の中で「一言言ってやりたい」となる場面はほかにもありそうだと思い、この連載の担当編集さんに「何かありますかね?」と聞いてみたら「たとえば相手が遅刻してきたとき、『ごめんごめん〜(笑)』って片手で拝むぐらいの感じで来られると、『本気で謝ってほしいわけじゃないけど、もうちょっと誠意見せてくれよ』って思います」と即答されました。すぐ具体例を出してくれるところ、とてもありがたい反面、ほんのり怖さを感じます。
でもたしかに「一応謝りました」のポーズにモヤッとすることって、結構みんな経験があるんじゃないでしょうか。僕もあります。一緒にトークライブをしている金の国・渡部おにぎりから「次回の日程なんですけど、◯日はいかがですかー?」という連絡が来て、レギュラーメンバーの僕とザ・マミィ林田がナチュラルに既読無視をしてしまい、翌日「寂しいですー!笑」と催促が来て慌ててふたりとも「ごめんごめん!笑」ととりあえずで送っていました。さぞかしモヤっとしたでしょう。あんまないですよね、こういう例えで自分が悪いパターン。
もしそういう人に一言放つとしたら「もうちょっと誠意のトッピングできる?」なんていかがでしょう。「トッピング」というと後乗せ感があるので「本体じゃないけど、あれば嬉しい」というニュアンスを込められそうです。ご自身の調子が良ければ「無料で増量できるって聞いてるけど?」と、スタバ上級者感を出して圧をかけてもいいかもしれません。
ネガティブな感情を、嫌な感じになりすぎないように口に出して伝えるのってすごく難しいですよね。繰り返しになりますが、失礼なことを言ってきた相手に対して面白く返してあげる義理は別にないと思います。だけど一言言ってスッキリしたい!という場合は、今回提案した〈お作法〉を試してみてはどうでしょうか。もしうまくいかなかったときはベンティサイズの謝罪を提供しますので。

(取材・文/斎藤岬)
<第9回に続く>
森本晋太郎(もりもと・しんたろう)/1990年、東京都出身。お笑いトリオ「トンツカタン」のツッコミ担当。プロダクション人力舎のお笑い養成所・スクールJCA21期を経て、現在はテレビやラジオで活躍中。