「好きだったドラマに「?」が生まれたら」作家・柚木麻子が語る、時代を映す鏡としてのドラマ【インタビュー後編】

文芸・カルチャー

更新日:2024/12/27

柚木麻子さん

小説家として活動する傍ら、ドラマファンとして、元脚本家志望者として、そして原作者として、「anan」で10年間にわたりドラマを語り続けてきた柚木麻子さん。この長期連載をついに1冊にまとめた『柚木麻子のドラマななめ読み!』(フィルムアート社)が10月26日に刊行された。

ダ・ヴィンチWebでは刊行を記念して、インタビューを実施。前後編の2本に分けてお届けする。

インタビュー後編では、ドラマと社会の関係に焦点を当ててお話を伺った。

advertisement

――『柚木麻子のドラマななめ読み!』では、宮藤官九郎さんと坂元裕二さんについて、対比的に語られていたのが印象的でした。

柚木:私、クドカン(宮藤官九郎さん)のことは大好きなんですよ。本書でも折に触れて書いているように、彼の作品は私の血肉となりすぎていて、どうしたって今後も嫌いになることはできない。

 でも、インティマシー・コーディネーターやフェミニストを不寛容な愚か者として描いた『不適切にもほどがある!(ふてほど)』は、受け入れることができなかった。先人たちが身を切る思いで獲得してきた権利を、すべて、茶化してなかったことにするような作品だったから。ただおもしろくなかったとか、とんまな展開が続いたとか、そういう作品を叩く必要はないと私は思います。だけど、『ふてほど』は愛してきたからこそ批判的な姿勢でいなきゃいけないと思って、書きました。対して、坂元裕二さんは一作ごとに別人のように価値観をアップデートさせているんですよね。

――『東京ラブストーリー』の脚本が坂元さんだと知って、驚く人は多いでしょうね。

柚木:そうなんですよ。『西遊記』を書いた人が『大豆田とわ子と三人の元夫』を書くなんて、宇宙人に人格を乗っ取られたと思わなきゃ整合性がつかない。いったい彼の頭のなかで何が起こり続けているんだろう、と考えた結果、彼は徹底してプロの職人仕事をしているのだと思うようになりました。

 自分が書きたいものももちろんあるだろうけれど、それ以上に、時代の要請にあわせて、求められる王道を模索しているんじゃないのかな。だから、異なる世界線を生きているように見える、織田裕二さんと満島ひかりさんを、それぞれ最大限に輝かせるドラマを作ることができる。

――そのおふたりを並べると、確かに不思議な気持ちになります。でも、主体性のある女性を描くという点においては、『東京ラブストーリー』から一貫している気もしますね。

柚木:『東京ラブストーリー』も、鈴木保奈美さん演じるリカにすべてを持っていかれますからね。その対応力は、若くしてデビューしたゆえの結果でもあると思いますし、おそらく一作ごとに反省も深いんじゃないかと私は考えています。反省して、考えて、次に活かすことができるから、常に時代に添ったアップデートを重ねていくことができる。

 今は、簡単に答えを出さない結末を描くことが多いですけど、映画に進出していらして、海外からの評価がさらに高まったら、もっと明確に答えを出すような物語を描いていくかもしれませんね。というのも、やっぱり欧米においては日本ではよくないとされる「言い切る」ことが大事なので。

――柚木さんは最近、イギリスで講演などもされていますが、その体感から感じることでもあるのでしょうか。

柚木:そうですね。日本だと私は主張が強すぎると思われがちだけど、イギリスだと「勇気がある」という扱いを受けるんです。フェミニズム作品においても、メッセージ性が強すぎないことは日本では誉め言葉になっても、欧米では、いったいどの立場から発言しているのかと問い詰められかねない。どうとでもとれるような表現を、読者が好まないんですね。

――逃げの姿勢ととられるわけですね。

柚木:もちろん、今の坂元作品も私は好きですけどね。ただ、たとえばセクシャルマイノリティを描くにしても、映画『怪物』みたいに死を予感させるラストよりも、社会的な権利をしっかりと得た彼らが、おじいさんになってもカップルとして健やかに幸せに長生きしていく、みたいな物語もいずれ描いてくれるんじゃないかなあ、と。それを私は、できれば地上波で観たいと思うんですよね。

 Netflixのほうが予算もあるだろうし、おもしろい作品は作れると思うけど、比較的開かれている、地上波でこそそういう作品は流れてほしいなと。

柚木麻子さん

――10年の連載をまとめているので、本書を読むだけでも、いかに社会の価値観が変化してきたのか、ドラマがどのような役割を担っていたかがわかっておもしろかったです。

柚木:ありがとうございます。ただ、1冊にまとまったことで、主に男性俳優の性加害や薬物が原因で再放送も配信もされなくなった作品が相当数あることに、改めて驚かされました。

 たとえば、朝井リョウさん原作であり、Juice=Juiceにとって初の地上波主演作品であるドラマ『武道館』。私の大好きなともさかりえ主演の『春ランマン』。キリがないですよね。配信NGになる俳優さんって、いろんな作品にちょこちょこ出ていたりもするから……。

 女性は、不倫問題で降板とかはあるけど、配信がストップされるほどの性加害で訴えられたりしない。ドラマファンにとっても、いちばん厳しい目を向けなくてはいけないのは、性加害する俳優だなと思います。

――柚木さん自身、長年、香川照之さんの大ファンを公言されていました。そのことについて語る本書の〈私はここから、自分の悲しみや傷を、茶化さずエンタメ化せずにただ向き合う、といった日常にだんだん慣れていかないといけない〉という文章は、他人事ではなかったです。

柚木:加害発覚後、たぶん本人より私の方にたくさんメディア取材が来たんじゃないかな? こんな風に語ってほしい、書いてほしいというオーダーが先月だけでも1、2回ありますね。そして、今も私は、香川照之のことを考え続けていますよ。『20世紀少年』における香川の役割とか、香川ベスト10作品は何かとか……でもそれは性加害を許容したということではまったくなくて。私、推し感情が高じて、香川照之の似顔絵を100号の油絵で2枚描いたんですけど、それだけはまだ捨てる勇気がなくて、手元に置いてあるんですよね。割といろんな人から譲ってくれと言われていますが、渡していない。私なりの決着の仕方を今も考えています。

 こういう風にこの話題で取材が来るということは私には、きっと、いずれ、香川照之との対談みたいな話も持ち込まれると思うんですよ。でもそのとき、大和田常務のごとく気迫で「死んでも嫌だねえ!!」って言ってやりたい。そのときのために生きていると言っても過言ではありません。もはや、私のなかに香川照之が数多の役で演じてきたキャラが宿っているも同然なんですよ。

――香川照之という役者を愛していたからこそ、彼のしたことを徹底的に否定して、拒絶する。それはものすごく、苦しいことですよね……。

柚木:そうですね。みんなそう言いますね。でも、こうして私に取材がたくさん来るというのが1つの真実だと思います。みんな元推しとのベストな向き合い方が知りたいんですよ。まだそのモデルやプランが存在しないから。私、映画『あしたのジョー』の香川照之がものすごく好きだったんですよ。それこそ俳優ありきで、名作に仕立て上げようなんて気概はおそらく制作陣にはなかったと思うのですが、彼はなんかとんでもない準備をして役に挑んだ。なんでこの人だけは満身創痍で実写映画のクオリティを上げ続けるんだ、と画面越しからも伝わるその気迫で作品をなんとかした彼の姿勢に、私は救われてきたんです。斜陽産業と言われ、夢を持って飛び込んでも投げやりになりがちな出版業界で、それでも準備とやる気だけは完璧にして、書き続けてやろうって……。

 だから、香川の性加害についてもぶつかるしかないんですよ、私は。いずれ対談のオファーがきても、目を逸らすのではなく正面から見据えて「お前の才能が生んだモンスターが私だからな」って言ってやりたい。

――「好きだから」でなあなあにしない。自分が性加害したわけじゃないから、といって逃げない。その覚悟が、エッセイからも伝わってきました。

柚木:自分の推しが性加害をしてしまった、あるいは関わっていたことがわかってしまった、と苦しい思いをしている人はたくさんいますよね。

 ジャニーズがずっと好きだった人たちは、きっと未だに、どう向き合っていいのかわからない人がほとんどじゃないのかな。ジャニーズも、基本的に薄味である日本のエンターテインメント業界のなかで、満身創痍でギラギラしながら道を切り開いてきた集団ですし、女性が加害される不安に怯えることなく、安心して推すことのできるメジャーなコンテンツでもあった。ただ彼らの場合は被害者であるから本当に複雑ですよね。

 だからこそ、推しから受け取ったものを、血肉として蓄えられたものをもってして、現実に向き合っていってほしいなと。

柚木麻子さん

――ドラマは、まさに時代を映す鏡なのだなと、本書からも、今日のお話からも感じました。今、国内外の情勢がさまざまに揺れ、不安やおそれを抱える人も多いなか、ドラマを通じておすすめしたいことはありますか。

柚木:今、世の中全体に絶望感が漂っていますよね。私も、どうしたらいいんだろうって、目の前が真っ暗になるような気持ちになるときはあります。

 でも、そういうときこそ、一度、過去のドラマを観てみてほしいなと思います。もうね、びっくりするほど非常識で、ハラスメントの嵐みたいな作品も多いんですけれど、その作品があったからこそ「今」があるのも確かなんです。

 今とその時代との間でどんな法律が生まれ、どんな社会運動が起きていたのか。その影響によって、どういう変化が起きたのか。ドラマを通じても発見できるものがたくさんあると思うんです。

――動けば社会は変わるという希望と、今後変えていくためにはどうすればいいのかのヒントが見つかるかもしれない。

柚木:そう思います。たとえば『TVタックル』に出ていた当時の田嶋陽子さんは、ヒステリーな女性として扱われていたけれど、今観ると、全然そんなことはなくて、単なる印象操作だったことがわかります。

 同じように、「昔はみんなが納得して受け入れていた」みたいな有害性のある思い込みが、実はそうでもなくて、抗って戦う人たちがたくさんいたのだという証も、ドラマのなかには残っていたりする。今の時代に作られた良質な作品だけでなく、20年くらい前に、当時の女性たちが絶賛していた作品に触れると、逆にエンパワメントされるものがあるはずだと思うので、配信などでぜひ探してみてください。

柚木麻子さん

取材・文=立花もも、撮影=金澤正平

柚木麻子さんからのお知らせ

■トークイベント『「小説家とプロデューサーがドラマについて語らう夜会」柚木麻子さん×佐野亜裕美さん 『柚木麻子のドラマななめ読み!』(フィルムアート社)刊行記念トークイベント』
日時:2025年1月9日(木)19:00~20:30
場所:ジュンク堂書店池袋本店
登壇者:柚木麻子、佐野亜裕美
HP:https://online.maruzenjunkudo.co.jp/products/j70019-250109?variant=44440054366394


■トークイベント「柚木麻子×吉田恵里香「私たちは日本のドラマによって作られてきた」『柚木麻子のドラマななめ読み!』(フィルムアート社)刊行記念」

日時:2025年2月8日(土)11:30~13:30
場所:本屋B&B
登壇者:柚木麻子、吉田恵里香
HP:https://bb250208b.peatix.com/


【特集】女性たちの物語

あわせて読みたい