「復讐したい人」におすすめの小説⁉︎ 凄腕の“復讐屋”から人生のヒントを受け取る、原田ひ香『その復讐、お預かりします』をレビュー
PR 更新日:2025/1/20

『その復讐、お預かりします』(原田ひ香/双葉社)という書籍のタイトルを見て、皆さんはどんな小説を思い浮かべるだろうか。私が想像したのは、いわゆる“復讐もの”である。誰かからひどい仕打ちを受けた人間が、努力の末に復讐を成し遂げていったり、復讐を代行してくれる凄腕のプロのもとに依頼したりする。いずれにしろ、誰かを苦しめた悪者が苦しむのを見て、すっきりするのが復讐ものの醍醐味だ。
さて、前置きが長くなったが、本作は美菜代という女性が“復讐屋”を生業とする成海事務所を訪れるところから始まる。「なるほど、あらすじは依頼パターンだ」と思いながら読み進めた。しかし、私の予想はその後の展開で見事に裏切られることになる。本作は燃える復讐心に新たな解決の道筋を示す、今までなかった“復讐もの”なのだ。
復讐屋を営む成海慶介は、依頼人たちが語る過去や、怒りや恨みに寄り添わない。ひと通り依頼人の話を聞いたら、高額な手付金を要求する。しかし、実務的なことはしない。たとえば復讐するターゲットをロックオンして身辺に潜入するとか、恐怖のどん底に叩き落すための計画を練るとか、そういった類の仕事を一切やらない。
この仕事ぶりを説明すると、「そんなの詐欺じゃないか」と思われるだろう。しかし、成海事務所はすこぶる評判がいい。元依頼人が事務所にあいさつに来るくらい感謝される。いったいなぜなのか。その理由は数々の依頼に対する成海のアプローチを見ていくと、次第にわかっていく。
また、本作は魅力的な“バディもの”でもある。探偵小説の中で、探偵の明晰さを引きたてつつ、ここぞというときに活躍する助手のように、成海事務所にも秘書が登場する。横柄な物言いが鼻につくが、必ず成果は出す優秀な復讐屋と、依頼人の心情に寄り添い、面倒な復讐屋のこともなんだかんだサポートする、人間味あふれる秘書。魅力的な二人が、従来の復讐ものにはなかった味わいを加えてくれる。二人の関係の変化も本作の見どころだ。
人生が熟してくると、復讐したい相手の一人や二人くらいは思い浮かぶ。自分を不幸にした相手が、幸せになることを許せない。その感情を心の中で煮詰めていくと、手段はどうあれ、相手を不幸にしようと必死になってしまう。だからいったん過去や感情を他者に“預ける”ことに意味がある。
本作を読み終えて、あらためてタイトルを眺めると、成海が復讐屋というビジネスにおいて何を提供価値としているのかが、よくわかる。誰かに復讐したいと強く思っている人にこそ、本書をおすすめしたい。いま抱えているその気持ちが、思わぬ形で軽くなるかもしれないから。
文=宿木雪樹
※本書は『復讐屋成海慶介の事件簿』を改題した新装版です。