間寛平を陰で支えたマラソントレーナー・坂本雄次。その波乱に満ちた半生と亡き妻への思い
公開日:2024/12/26

目標に向かって真っ直ぐ突き進む姿、困難にみまわれながらも多数の声援に支えられ、自分に打ち勝ちゴールインするランナーの勇姿は私たちに感動を与えてくれる。そんな彼らの走りを支えているのがランニングトレーナーという存在。『天国ゆきのラブレター』の著者である坂本雄次さん(77)は、間寛平さんのウルトラマラソン初完走をはじめ、多くのランナーたちをゴールに導いてきたランニングトレーナーだ。このほど、その波乱の人生を振り返ったエッセイが出版された。
実は坂本さんは学生時代に競技経験があったり、プロのランナーを目指していたりしたわけではない。走りはじめたきっかけは、社会人になって「ちょっと太ってきたこと」への危機感というありがちなもの。独自に研究して走っていたら距離も伸び、走っていることを知っていた会社の上司から、たまたま職場(東京電力)の事業所対抗駅伝大会のために陸上部の監督を頼まれることになったのだ。努力家の坂本さんは独自の指導で好成績を残し、その後15年監督をつとめて注目の存在になる。そこから間寛平さんが挑戦するギリシャでの過酷なマラソンのサポーターを頼まれ、その縁から著名人を支えるマラソントレーナーとなり、東電を退職してマラソン運営専門会社を設立。決して「狙って」積み上げたキャリアではなく、あくまで「ご縁」と本人の努力が重なった先に「今」があることに驚かされる。
そして、そんな坂本さんを、長年陰に日向に支えたのが妻の節子さんであり、本書では坂本さんはその人生を「節子さんと歩んだ61年」として振り返るのだ。坂本さんと節子さんの出会いは、15歳の坂本さんの修学旅行の時。旅先の京都でバスガイドをしていた5歳年上の節子さんに一目惚れした坂本さんは文通を申し込み、なんと結婚までの6年間に337通ものラブレターをやり取りした。最初こそ中学生に思いを寄せられても真剣に受け取れない社会人だった節子さんだが、坂本さんの熱意は「愛」を育て、ついにふたりは結婚――。本書にはそんな愛情あふれるラブレターの中身も一部公開されている。真剣にお互いへの思いを綴りあうふたりは、まるで古い純愛映画の主人公たちのよう。いまどきのメールやLINEでは決して伝わらない行間ににじむ「愛」の輝きがまぶしい。
旅をし、家を建て、会社を立ち上げ、マラソン大会を立ち上げ――喜怒哀楽を共にし、人生のステージを二人三脚で進んできたふたり。しかし2010年に大病をされてから節子さんは自宅で療養生活に入り、そんな節子さんを労って坂本さんは介護を中心に、どうしても自分が必要な場合だけ仕事に出かける生活に切り替えた。節子さんの調子のいいときにはなるべく旅に出て大切な思い出をひとつずつ増やし、丁寧に日々の暮らしを楽しんでいたが、2024年1月、節子さんは転倒から骨折、入院、そして思わぬ別れの時がやってきてしまう。
本書のタイトルに「ラブレター」とあるように、実は本書は節子さんに捧げられた長い長いラブレターのような一冊だ(坂本さんご自身も「節子への最後のラブレター」と書いている)。節子さんを失ったことで生きる気力を失いかけていた坂本さんは、かつてのラブレターを読み返し、節子さんとの日々を振り返ることが一筋の光となってこの本を書き上げたという。この本が心にしみて、「長く連れ添う伴侶」への思いを抱き締める方もきっといることだろう。
文=荒井理恵