「優しい絵」「涙が出る」とTikTokで話題の千広兄弟、初の絵本。森で出逢った卵を持ち帰ると、危険が迫っていて…?
PR 公開日:2025/1/8

肌の温もりが本を通じてこちらまで伝わってくる…。それほどまでに圧倒的な画力を確信させる一冊の絵本が刊行されました。タイトルは『かえる場所』(中央公論新社)。TikTokにタイムラプスで制作過程を投稿し、「優しい絵」「涙が出る」と絶賛されるイラストレーター、千広兄弟さんによる初の絵本作品です。

ある日、森で散歩していたら、木から落ちたひとつの卵と出会った少女。何が生まれてくるのか、少女の想像はどこまでも広がります。もしカメさんだったらどこまでも一緒に旅をしよう。さかなさんだったら泳ぎ方を教えてもらおう…。
日が暮れる前に、卵を大切に持ち帰ることにした少女。しばらく歩いていると、卵を食べようとしているのでしょうか、黒くて大きなオオカミに追われていることに気づきました。どこまでも追いかけてくるオオカミ。やっとおうちに着き、「おとうさん! おかあさん!」とさけびながら、家の中に入りますが…。
たどり着いた家で家族の温もりに包まれた少女は、「この卵にもきっと、自分を待つ家族がいる」ことに気づきます。卵という小さな生命をめぐって大切なことに気づいた少女の成長が、丁寧な筆づかいで描かれています。

かえる場所。それは誰にとっても、生きていくために必要不可欠な心の拠り所ではないでしょうか。絵本の後半には後ろ姿の母親に抱かれる少女の顔が描かれており、いつまでもこの時間が続きますように…と願ってしまうような、形容しがたいほどの温もりが伝わってきます。安心しきって体をまるごと母親に預ける少女に重ねる面影は、幼い頃の自分なのかもしれません。著者の描く絵には、人の心に入りこむ力があるようです。
人の温もりを求める気持ちは普遍的なもの。その愛おしさを絵と物語で表現した本作は、世代を超えて愛される一冊になるのではないでしょうか。また、主に紙とペンで描かれる著者の絵は、アナログ表現の温かみにも注目が集まっています。便利なツールでありながら、その先に温もりを求めると空虚に直面しやすいデジタルに囲まれた今、著者の絵はどうしようもない飢餓感を埋めてくれる存在なのかもしれません。

卵を見つけた少女が想像する、きのこの家を乗せて歩くカメや大きなさかなの絵は、ファンタジーを得意とする著者の真骨頂。けれども、絵本の中には、まっしろな雪に映る太陽のまぶしさ、自分の身を脅かす存在のおそろしさ、人の温もりなどのリアルな感覚も温度感たっぷりに表現されており、ファンタジーとリアルの融合がノスタルジックな気持ちを呼び覚ますようです。
少女の物語は読み手自身の物語と重なって心に刻まれ、本を開けば、大切な人の温もりを思い出す。いつでも帰ることができる、心の拠り所のような絵本だと感じています。
文=吉田あき