体罰、ネグレクト、子どもの前での夫婦げんか…。不適切なかかわりが子どもの脳を変形させるという事実
公開日:2017/11/1

体罰に世間からの厳しい目が向けられている。しつけが目的の体罰は必要悪なのか。どのようなケースでも体罰は間違いなのか。
『子どもの脳を傷つける親たち(NHK出版新書)』(友田明美/NHK出版)は、客観的な理由で体罰にNOを突き付けている。体罰は「脳を変形させる」というのが理由だ。
本書は、体罰を含む「強者である大人から、弱者である子どもへの不適切なかかわり方」を「マルトリートメント(maltreatment)」と呼ぶ。1980年代から世界で広く使われるようになった表現で、日本語では「不適切な療育」と訳される。虐待、言葉による脅し、威嚇、罵倒、無視、放っておくなどの行為のほか、子どもの前で繰り広げられる激しい夫婦げんかも、その範囲に含まれる。
本書によると、マルトリートメントによって、子どもの脳は物理的に傷つき、変形する。結果、衝動性が高まりキレやすくなる、喜びや達成感を味わう機能が弱くなるせいでより刺激の強い快楽を求めるようになり、アルコールや薬物に依存するようになる、自己肯定感や自立をつかさどる機能がうまく働かずに抑うつ状態になったり自傷行為を繰り返したりする、などの影響が表れてくるという。
本書はいくつかの研究データなどの根拠を示している。
例えば、2003年にハーバード大で行われた実証研究。
・体罰の内容:頬への平手打ち、ベルト・杖などで尻を叩かれるなど
・体罰を受けた年齢:4~15歳の間
・体罰を受けた相手:両親や養育者
・体罰を受けていた期間:年に12回以上で、3年以上
上記の条件に当てはまる18~25歳の男女23人と、条件に一切当てはまらない同23人の脳を、高解像度の核磁気共鳴画像法・MRIで撮影。VBM法という脳皮質の容積を正確に解析する手法を用いて、両グループの脳皮質の容積を比較した。
わかったことは、体罰を受けたグループの前頭前野の内側部の容積が平均19.1%、同前頭前野の背外側部の容積が14.5%も小さくなっていたこと。これらの部位は、感情や思考をコントロールし、行動抑制力にかかわるといわれている。
また、集中力や意思決定、共感などに関係する右前帯状回は16.9%減少していた。うつ病の一種である気分障害や、非行を繰り返す素行障害につながることが明らかになっている部位だ。
友田氏は、体罰等によってもたらされる痛みに鈍感になるようにと、脳が適応した結果である可能性だと考えている。自分にとっての危険や不安の原因が、いちばん頼りにしたい親や養育者である、という事実。自らの力で脅威を打開しなければならない子どもは、防衛本能・生存本能から、脳そのものを変形させて対応する。マルトリートメントを受けた人は、性的な行動が通常よりも早く始まる傾向が見られることも、子孫を早く残そうという本能ではないか、と本書は推測する。
本書は、「子どもはつまずき、失敗しながら大きくなっていくもの」であるから、いかなる理由があっても「脳が変形するほど」のマルトリートメントは必要ない、としている。
文=ルートつつみ