今、熱い下町の横丁! 北千住、新宿ゴールデン街、赤羽へ急げ! 横丁ブームの正体を探る
更新日:2017/11/8

いつからだろう。私たちが最先端技術の果実を享受しながら、「昭和」という時代を見直し始めたのは。そして、ほんのひととき、便利すぎる物たちと馴れ合いになってしまった生活から、パソコンもスマホもAIも消えてしまえばいいのにと思うことがあるのは…
初めて来たのに、懐かしさを感じる場所、初めて会う人たちがすごくあったかい場所。そんな昭和の象徴のひとつが「横丁」だ。最近、横丁が賑わっている。東京の立石、赤羽、大井町、蒲田、横浜の野毛、北千住、吉祥寺…。かつての労働者の街が、今や安くて安心して飲めると、若い世代を惹きつけているという。子供の頃から清潔で整然としたものばかりに囲まれて育った世代には、横丁の猥雑さはかえって新鮮に映るのかもしれない。
『横丁の引力』(三浦展/イーストプレス)は、デジタル全盛のこの時代に生き残る、人の温度と人情が支える横丁の歴史と魅力をリアルに伝えている。前半は横丁の成り立ち、都市の暗部と横丁ブームについて、後半は実際に横丁で店を持つ人たちの生の声、心ならずも去る人を追っている。
横丁のルーツは、戦後、正当ではない方法でコメなどを取引していた旧闇市、アメリカ兵のために遊郭、キャバレーなど「特殊飲食街」として認可された「赤線」、無認可の「青線」、料亭、置屋、待合の3つの業種が存在した三業地。横丁はそんな場所の跡地にできた。かつては男性しか近寄らなかった店に、今や若い女性がやってきて、ホルモンや生肉を食らう。「残業のあとはおしゃれな店じゃ酔えない!」のだそうだ。
さらに本書では、現在の日本の土地に対する価値観についても論じられている。手塚治虫の『鉄腕アトム』の世界のような原子力の力を信じた近未来的なものと、宮崎駿のアニメのような、自然への畏敬に基づく近代以前のものとに分かれる。バブル期に再開発の名のもと、完膚なきまでに破壊された戦後の東京の風景。皮肉なことに、破壊されることによって横丁路地や商店街が原風景として認識され、近年はこれらの街並みを壊すことへの反発が加速しているという。
横丁っていうのはどんな姿であっても、横丁を名乗る以上は「運命共同体」なんだと思うんです。(中略)助け合いがないとダメなんです。
と本書に収録されたインタビューで、ある横丁の店主は答えている。
横丁はその町の顔であり、象徴だ。しかしそれは、レトロな昭和的外観だけの話ではない。集う場所があって、そこに人が集まって初めて「横丁」が形成される。SNSでかりそめの友だちばかりを増やさずに、あたたかい匂いがする「横丁」の店のきしんだ戸をがらりと開けて、こちらに迷い込んでみてはいかがだろうか。
文=銀 璃子
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