超絶型破りなうそつき夫、野坂昭如と過ごした波瀾万丈の53年
公開日:2017/11/27

野坂昭如。作家であり、作詞家であり、歌手であり、タレントであり、政治家でもある黒眼鏡の男。2015年に他界した型破りな彼を思い返して懐かしい気分になる人も多いのではないだろうか。彼のことを知らない若い人も、こう言われたらさすがにピンとくるだろう。童謡『おもちゃのチャチャチャ』で日本レコード大賞作詞賞受賞。小説『火垂るの墓』『アメリカひじき』で直木賞受賞。
野坂の並々ならぬ波瀾万丈の人生をいちばん近くで支え続けたのは、妻の暘子さんだった。彼女が「永遠の少年」野坂昭如を振り返り描いたノンフィクション、『うそつき―夫・野坂昭如との53年』(野坂暘子/新潮社)をご紹介したい。
■うそつきとの53年
21歳の元タカラジェンヌである暘子さんが飛び込んだのは、想像もつかないような波瀾万丈の新婚生活だった。
気が小さい、気が弱い、ついでに僻み嫉み妬み、これはぼくのキャッチコピー。努力、忍耐、根性は到底似合わない、いつか人生のどこかで辻褄が合えばそれでいい、と私に語っていたあなた。酒の力を借りながらその都度いろいろなものを捨ててきたとも。浴びるように流し込んでいたアルコールも黒い眼鏡も隠れ蓑。嘘ばかりついていたら何が本当やら、気づけば狼少年が狼爺いになって本当に逝ってしまった。お調子者、いいかげん、ドン・キホーテ、いいじゃない、夢を追いかけて突っ走る男の姿は魅力があったけれど、妻の役は正直冗談じゃなかった。(9~10頁)
暘子さんは生前の夫をこう振り返る。執筆を投げ出し、酒におぼれて逃げ回る夫に代わって編集者に頭を下げ続けたのは彼女だった。
■三島由紀夫と野坂昭如の類似点
敗戦七日目に野坂の妹は餓死した。
「自分は急速に大人びたと思う」という彼の言葉が胸に残る。妹の亡骸を焼いた帰り、よろづ屋で黄楊(つげ)の櫛を十円で買った。妹の髪には虱がたかっていた。櫛があればとずいぶん考えていた。(94頁)
野坂は1945年の神戸大空襲で養父を、疎開先の福井県で下の妹を栄養失調で亡くしている。直木賞を受賞し、後にスタジオジブリでアニメ映画化された『火垂るの墓』は、野坂の忘れられない少年時代の実体験をベースにして描かれている。
野坂は三島由紀夫、美輪明宏とも交友があった。三輪は野坂と三島の決定的な類似点として「二人共に妹を亡くしたための原罪意識が常に尾を引いている。知的圧迫感、情の細やかさ、全く申し分のない理想的な兄を感じさせてくれている。」と述べている。
壮絶な時代を生き抜き、生涯“うそつき”で“飲んベェ”だった野坂昭如。彼は亡くなる直前まで精力的に「反戦」を訴え続けていた。天衣無縫の極みのような存在だった野坂が世間に出続けることが出来たのは、彼の根底にある真面目さと人間的魅力、そして妻・暘子さんの存在も大きかったのではないだろうか。
文=K(稲)
レビューカテゴリーの最新記事
今月のダ・ヴィンチ
ダ・ヴィンチ 2025年6月号 伊坂幸太郎/東村アキコ
特集1作家生活25周年 伊坂幸太郎 次世代に受け継がれる物語/特集2 東村アキコのはじまりを マンガと映像でうつし出す 『かくかくしかじか』 他...
2025年5月7日発売 価格 880円
人気記事
人気記事をもっとみる
新着記事
今日のオススメ
-
レビュー
糖尿病専門医が教える、無理なくやせる食べ方とは?“血糖値スパイク”を防ぎながらダイエットする方法とレシピを紹介【書評】
PR -
レビュー
鈍感女子に振り回されるチャラ男子が尊い! 元男子校に入った超真面目女子と元弓道部男子の王道ラブストーリー【書評】
-
レビュー
鬼上司の「不意打ちな優しさ」が心臓に悪すぎる! クール男子と不器用女子の両片思いなオフィスラブ漫画『営業部の高杉さんは心臓に悪い』【書評】
-
レビュー
余命5日、でも強気。龍へ捧げられる生贄少女とギャップがかわいい皇子のラブファンタジー『雨の皇子と花の贄』【書評】
-
レビュー
8歳下の女の子に惹かれ、別れた元恋人が失踪。そして関係者たちは“ある土地”へと導かれる——。直木賞作家・白石一文の長編小説『つくみの記憶』【書評】
PR
電子書店コミック売上ランキング
-
Amazonコミック売上トップ3
更新:2025/5/21 21:30-
1
ブルーピリオド(17) (アフタヌーンコミックス)
-
2
薬屋のひとりごと~猫猫の後宮謎解き手帳~(20) (サンデーGXコミックス)
-
3
魔導具師ダリヤはうつむかない ~Dahliya Wilts No More~ 8巻 魔導具師ダリヤはうつむかない~Dahliya Wilts No More~ (ブレイドコミックス)
-
-
楽天Koboコミック売上トップ3
更新:2025/5/21 21:00 楽天ランキングの続きはこちら