殺されるはずだった子犬が、老人ホームで「いやし犬」に。健気に尽くす姿にウルッと…
公開日:2018/3/1

子ども向けの児童書だけれど、大人もうるっときました。
『いやし犬まるこ お年よりによりそう犬の物語』(輔老心/岩崎書店)は、殺処分されるはずだった白い犬「まるこ」が、いやし犬として老人ホームで働く姿を描いたノンフィクションの読み物です。
まるこは「犬すて山」と呼ばれる山梨県の山奥で生まれた野良犬。無責任な飼い主が、自分の飼っている犬を捨てに来ることで有名な場所でした。その数が増えるにつれて、周囲も放置することができなくなり、いよいよそこにいる犬たちは処分されることに。
一方で、犬たちを保護して里親を探す活動も始まりました。
その時子犬だったまるこは、セラピードッグとして活躍すべく、訓練施設へともらわれていったのです。
セラピードッグとは、「こわばった人の心をやさしくほぐすために活動する犬」のこと。人間が大好きで優しい気性のまるこは、なることが難しいというセラピードッグの狭き門をくぐり抜け、「いやし犬」として働くことに。
その後、ご縁があって兵庫県の特別養護老人ホーム「たじま荘」で飼われることになりました。現在もセラピードッグとして、施設を利用しているお年よりや、その家族、また職員たちの心を癒しています。
本書は児童書なので、一番に読んでほしいのは、やっぱり小さな子どもでしょう。
ペットとして飼われ、幸せな一生を送る犬がいる一方で、殺処分される多くの犬がいるという事実も理解してほしいし、そういった犬たちを保護する活動をしている団体があることも知ってほしい。
また、人間の勝手で殺されそうになり、元は人を怖がっていた野良犬で、けれど今は人のために働いているまるこを通し、命との向き合い方を学ぶこともできるのではないでしょうか。
ですが、大人が読んでもグッとくるものがありました。
まるこが「犬すて山」で生まれたのも、殺処分の対象になったのも、セラピードッグになり、たじま荘に来たことも、何もかもまるこの意志ではなく、本当にまるこが幸せなのかは誰も分かりません。
ただ、流されるままに、まるこは生きてきました。
そのことについて、作中ではこう語られています。
まるこの運命は、人の手で運ばれているだけのように思えるかもしれないですが、それでよかったのではないでしょうか。流されるから、うかぶ瀬もあり。
ぼくは、なるようになる、とどんどん流されたくらいのほうが人生はおもしろくなると思っています。(中略)かたの力を抜けば、からだはふっとうかびます。
力さえぬければ、あとは、だれかがあなたのことを見ていてくれると信じて、心を開いておけばだいじょうぶ!
……そうかもしれないなぁ。と妙に感動しました。
これからペットを飼うというご家庭でも、ぜひお子さんに読ませてあげてほしい一冊です。犬を愛するとは、命とは……まるこがその答えを教えてくれるはずです。
文=雨野裾