開店から愛され続けて14年。“普段着のごちそう”のレストランとは?
公開日:2018/3/17

皆さんにはお気に入りの飲食店はあるだろうか? 筆者には、東京・三鷹で長年通っているお店がある。この“リトルスターレストラン”はご飯もつけあわせの惣菜も美味で、量も質も満足できる。ふつうの定食屋さんのメニューのようでいて、なぜかぜいたく感があるのが特徴だ。お店の空間も明るくて広々としていて居心地もいい。その後、引っ越しをして行けないでいたのだけれど、4年前三鷹に戻ってきて久しぶりにランチへ行ってみると、ほとんど昔と変わっておらず、お店に「おかえり」と言われた気がした。
このお店はネパールにあった小さなお店をイメージしている。そこは、素朴な家庭料理を、手をかけてつくっている。毎日食べたくなる、体がほっとする味だったそうだ。そのネパールのお店の名前をとってゼロからつくりあげたのがリトルスターレストラン。『リトルスターレストランのつくりかた。』(リトルスターレストラン・山本高樹/美術出版社)には、お店の立ち上げから現状、そしてこれからのことが1冊にまとまっている。
■飲食店経営の素人がつくった14年愛されるレストラン
ミヤザキ氏と、のちに結婚するokayan氏。ミヤザキ氏のお母さん。友人のフカザワ氏。この飲食店経営の未経験者4人が、14年前ミヤザキ氏の地元である三鷹ではじめたのがこのお店だ。ちなみにミヤザキ氏は、プランナーでありコピーライターだった。コンセプトをデザインすることに長けていたのだ。
移り変わりが激しい飲食業界で、お店が続いている最大の理由は地元に愛されていることだろう。この本には、14年変わらずお店が続いている理由、いくつかの“お店が愛されるヒント”が語られている。
■手間ひまかけてつくられたお家のごはん
最初に考えたことは、手間をかけてつくられたおいしい家庭料理を食べてもらいたいということだった。そこでコンセプトは“普段着のごちそう”とした。高級食材を使うのではなく、昔から家でつくっておいしかったやり方で、普通の材料を使ってきちんと手間をかけてつくった料理だ。
ごはんは精米したての五分づきのお米。お味噌汁はしっかりだしをとり、具材にあわせて味噌を調整。漬物も自家製。厚焼き玉子にのせる大根おろしは、出す直前にその都度おろしている。
ランチのコーヒーでもおいしいものを出したいということで、地元の自家焙煎珈琲店から良い豆を仕入れ、わざわざネルドリップで淹れている。現在もランチ時に150円で飲むことができる。
普段着のごちそうのおいしさは三鷹に受け入れられ、そこをぶらさずにやってきたから長く愛されてきたのだ。
■ファンを増やすため情報を発信し続ける
お店の外への発信も欠かさない。リトルスターレストランは、14年間フルカラーのフリーペーパーを定期的に出し続けている。お店の外で誰でも手に取れるようになっており、近隣にも配っている。読み捨てられない豪華なものを目指したそうで、いわゆるチラシとは一線を画す立派なものだ。
内容は、メニューの紹介や詳細な説明だけではなく、お店でのできごと、店員の個人的な好み、そして長文コラムなど盛りだくさんだ。つくるのにどれだけ時間がかかっているのかと思わせる。読むだけでも楽しめる、読んでまた行きたくなる。そんなフリーペーパーだ。
またウェブサイトの更新も欠かさない。最初に物件探しなど開店までのすべてを実況中継のように更新した。開店してからは日替わりメニューの紹介とともに、ちょっとしたコラムを昼夜2回アップし続けている。ある時ミヤザキ氏の誕生日のこと、そしてokayan氏とのふたりのなれそめを書いてみたところ、思いがけないほどたくさんのコメントが投稿された。
そのお店や企業を大好きなファンはそのお店などの“中のひと”の情報を知ると、親しみがわき、よりコアなファンになっていく確率が高い。今で
は多くの書籍や記事などで広く共有されていることがらだ。SNSも今ほど盛んではなかった2004年から彼らは更新を続けている。
■さらに愛されるための努力
リピーターを増やすため、したこととしないことがあったという。ホールのokayan氏は“おしゃべり店員”としてふるまった。お客さんに話しかけ、向き合うことで、自分たちを好きになってくれるお客さんを増やそうと思ったのだ。またイベントを開き、常連さんたちと楽しんだりもしている。
決してしないことは、値下げだという。ウェブクーポンなども出さないそうだ。これはいつも来てくれるお客さんがいい思いをするお店にしたいという思いからだ。
顧客満足度を上げ、コアなファンを増やすためにリトルスターレストランが行っていることは、近年では企業やお店が目指すべき形、重要視するべきこととされている。全体の顧客のうちの20%が売り上げを支えるというのは有名な話だが、さらにその20%の優良な顧客は、おすすめし別の顧客を呼んでくる。それはただの新しい顧客ではなく、質の高い顧客と趣味嗜好、考え方が近い質の高い顧客だ。
料理と同じく手間と時間はかかっても、今のお客様を大切にすることをずっと行ってきたことが愛され続けている理由のひとつだろう。
実は筆者はつい先日、また三鷹から引っ越してしまった。けれどこれからも通うだろう。いつ行っても変わらず「お帰り」と言ってくれるようなお店はなかなかないからだ。筆者のように思っている、愛しているひとたちがいる限り、リトルスターレストランはこれからも三鷹にあり続けてくれると思う。
不況や原材料などの高騰もあり、世の中の外食する頻度はこの14年で下がっているそうだ。それでもリトルスターレストランは、三鷹でひとが集まる“小さな星”として輝き続けるだろう。
文=古林恭
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