心をほっこり満たす一冊。『札幌あやかしスープカレー』を召し上がれ!

文芸・カルチャー

公開日:2018/7/21

『札幌あやかしスープカレー』(佐々木禎子/ポプラ社)

 あったかい食べ物で、緊張していた心と身体がほっこりと癒された……そんな経験はありませんか。わたしはあります。きっとみんな、あるでしょう。ということは、『札幌あやかしスープカレー』(佐々木禎子/ポプラ社)に描かれている物語には、みんなが共感できるはず。

 物語の舞台は、タイトルにあるとおりの札幌。主人公の藤原達樹は、とある特異体質のせいか、コミュ障で根暗、他人と向き合うと極端に緊張してしまう自分のキャラをどうにかすべく、姉に「人に話しかけられやすい」メガネを見立ててもらい、高校デビューをもくろんでいる。

 しかし、チャラい見た目のクラスメイト・ヒナに話しかけられて焦ったことで、計画は崩壊寸前。しどろもどろになってしまい、あわや高校デビューは失敗か、と思ったところを爆笑されて、ヒナとの距離が近づいた。

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 ところが、クラスのムードメーカーであるヒナとのコミュニケーションは、根暗メガネの達樹にはハードルが高かった!

 ヒナとの会話に苦心していた達樹は、ある日の帰り道、いきなり自分を突き飛ばしてきた人物──限りなくヒナに似ている──を追ううちに、あやしげな店にたどり着く。一見すると雰囲気のある民家だが、大きな木造のドアに「スープカレー まちびこ」と書かれた板が貼りついている、飲食店だ。勢い足を踏み入れた店内で、達樹はこれまた不思議な佇まいの店主が出してくれた、特別なスープカレーを口にすることになる。

「ぐっ……辛っ。辛い……けど」
 美味しい……。
 食べると口のなかが辛くなる。辛いけれど、辛いだけじゃなくちゃんと美味しい。
(中略)
 店のドアを開けたとき同様に身体がかっと熱くなっている。スープカレーのスパイスが、舌だけじゃなく、身体全部──いや、身体を超えて心に至るまで染み渡っているみたいな、変な高揚感があった。

 もしかしたらあとちょっとだけ、どこかをゆるめたり、違う方向に進んだりしたら、なにかが変わるのかもしれない。そんなふうに感じた達樹は、なりゆきで、「スープカレー まちびこ」でアルバイトをすることにしてしまう。

 スパイスが引き出した決断で、達樹は自分を変えられるのか? それは、あとがきで著者がスープカレーについて「百聞は一食にしかず」と語るように、一読にしかず。「スープカレー まちびこ」というお店に一緒に入れて煮込むうちに、可愛い見た目と中身になかなかのギャップがあるヒナも、スープカレーを愛する店主も、お店のマスコット的存在の美幼女アメも、それぞれ味わいが変化する。素材と素材が引き立て合って、全体の味が変わっていく。だから料理も、人と人との関係も、奥が深くておもしろいんだなあと思わされる。

 あったかで、登場人物が抱える事情や、あやかし要素のスパイスが利いていて──読み終わるころには、胸がほっこりと満ちている。至福の一皿みたいな一冊だ。自分の感性という名の舌で、ぜひ味わってみてください。

文=三田ゆき

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