【第17回】ちゃんもも◎『刺激を求める脳』/真理子#6
公開日:2018/9/10

私は高橋真理子。
誰よりも美しくて強い女。
鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?
私が望むものはすべて私のものなのよ。
私の思い通りにならないものは消えてしまえばいいのよ。この世から。
ねえ、幸正。
私、あなたに教えてあげなきゃいけないことがあるの。
どれだけ独りになったつもりでいても、人は一人では生きていけないし、どれだけ羽ばたいたとしても、そんなに遠くまでは行けないものなのよ。
そして、あなたはどこかの雲に乗ったお猿さんみたいに私の掌の上でしか飛んでいないの。
出会って間もない頃のように、戻そうね。私たちの関係も、時計の針も。
あなたは喜んでくれているかしら。
私の心のこもったお手紙。そして、お土産。
今頃、お手紙を読んであなたの考えが間違っていたことにちゃんと気づいてくれたのだと思うわ。
いつでもいいのよ? 照れずに電話してきてね。
残念だったけれど、目立ちすぎても困るし、周りに騒がれても嫌だったからドレスは諦めた。
お化粧もナチュラルなメイクで行ったのはいいのだけれど、サングラスをはずして見せても入り口の警備員に気づいてもらえなかったから、隙をみてこっそり入っちゃった。
失礼しちゃうわ。いくら薄化粧だからって、私に気づかないなんて。年は取りたくないものね。
でも警備員の男の子、サングラスをはずしたらなんだかびっくりしたような顔をしていたわね。私たちのことを報道で知ってあなたに気を使ったのかしら? 別れた女が来ているって。
そんなこと、わざわざお気遣いいただかなくてもけっこうなのにね。
今頃、あなたは反省をして私になんて電話したらいいのか困っているくらいなんだから。
楽屋でもしばらく待っていたのよ?
お芝居を観てすぐに楽屋に行ったのに、ぜんぜん帰ってこないものだから、私しびれを切らせて帰って来ちゃったわ。
知っているでしょう? 私は待たされることが大嫌いなの。せっかく会えると思ったのに、待たせるあなたが悪いのよ?
あなたが今、私に逢いたくてたまらないのに逢えなかったのはあなたのせい。
まあ、お手紙とお土産の感想はあとで聞くとして、今度はあなたのお部屋でふたりきりで会いたいわ。お部屋の鍵も受け取ったし、いつお邪魔しようかしら?
ふたりきりだもの、おめかしはしなくてもいいわよね? ありのままの私でいいのよね?
あなた、いつかこう言っていたから。
「僕はナチュラルな真理子さんの方が好きです。だって、その真理子さんを見られるのは世界で僕だけなんだから」って。
フフフ。
とっても嬉しかった。
あの時みたいに、待っている私にニコっと笑いかけてくれるかな?
朝出て行ったばっかりなのに、「会いたかったよ」って言って抱きしめてくれるかな?
私も私で「私も! 待ってる間、ずっと幸正のこと考えてたんだよ!」なんて言っちゃって。心の中で「キャー!」って叫んでたりして。
ヤダ、なんかドキドキしてきちゃった。毎日がそんな感じだったから、あらためて思い出すとテレちゃうよ。
ああ、早く会いたい! いやいや、私いつもこうやって相手の気持ちを考えないでひとりで突っ走っちゃうから嫌われちゃうのよね。高校生だった頃もなんだかんだで結局は彼氏に嫌われちゃったし。
でも幸正は違った。
こんなにウザい私をいつも「かわいい」って褒めてくれて。
「少しウザいくらいがちょうどいいよ」って言ってくれた。
「外ではあんなに『女優の高橋真理子よ!』ってしっかりしてるのに、実際はこんなにかわいい人だなんて思わなかった」って、「いつまでもそんな真理子さんでいて」って言ってくれたの!
ああ、心から愛されているなって思った。
……。
思ったのに。
思っていたのに。
どういうことなのよ。
お手紙も読んで、贈ったプレゼントも確認したのに、何の音沙汰もないどころかあまり嬉しそうにしていなかったってどういうことなのよ!
嬉しいでしょう!? 私が書いたお手紙なのよ!? 怖いってどういうこと!? どうして私を怖がるの!? わざわざセキュリティの強化なんてする必要がどこにあるのよ!?
私、あなたのことならなんでも知ってるのよ!? あなたは知らないでしょうけど、なんだって私の耳には聞こえてくるのよ!
ウフフ。
ウフフフフ。
まあ、いいわよ。
久しぶりに独りになったあなたは今、少し血迷っているだけ。放っておいてもすぐに私の下に帰って来る。
でも私、その少しが待てないの。だから、私が思い出させてあげるわ! あなたがどこで何をしていたってすべて手に取るようにわかるのよ!
私を見くびらないで頂戴。
あなたは私のすぐそばで、私のことを愛し続けてくれたらそれでいいの。そのために、これからもいろいろ協力してもらうわよ。
ねえ?
三谷。
ねえ、幸正。
私、あなたに教えてあげなきゃいけないことがあるの。
どれだけ独りになったつもりでいても、人は一人では生きていけないし、どれだけ羽ばたいたとしても、そんなに遠くまでは行けないものなのよ。
そして、あなたはどこかの雲に乗ったお猿さんみたいに私の掌の上でしか飛んでいないの。
出会って間もない頃のように、戻そうね。私たちの関係も、時計の針も。
写真モデル=シイナナルミ
撮影=飯岡拓也
スタイリング=TENTEN
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