フォロワー12万人超えの猫写真集『てらねこ』制作への想い――コーヒーのように安らげる本を

文芸・カルチャー

公開日:2019/10/10

『てらねこ 毎日が幸せになる お寺と猫の連れ添い方』(写真:石原 さくら 長楽寺/KADOKAWA)

 Twitterで話題となっている栃木県那須にある「長楽寺」(@nasu_chourakuji)の猫たちを撮り下ろし、気負わずゆるやかに生きる住職や女将さんの言葉を紹介したフォトエッセイ集『てらねこ 毎日が幸せになる お寺と猫の連れ添い方』(KADOKAWA)。その写真パネルの展示やトークショーもあったイベント「猫レクション 〜猫たちの日々是好日〜」が、9月19日から24日までさっぽろ東急百貨店で開催されました。

 そこで今回は、トークショー後、撮影を手がけた猫写真家の石原さくらさんと、長楽寺の女将さんにインタビュー。制作への想いや本の魅力などを語ってもらいました。

左:長楽寺の女将さん、右:石原さくらさん

■癒し満載のTwitter!コーヒーを飲むような感覚でどうぞ

 4匹の猫たちがのびのびと暮らす日常風景が切り取られた『てらねこ』。穏やかで、時にイタズラ好きな猫たちの表情には、それを見守るお寺の人たちの愛情深さが垣間見え、少し硬くなった心を溶かすような、優しい1冊に仕上がっています。

advertisement

 この猫たち、もともとはTwitterで話題に。その運営をしているのが女将さんです。猫たちが住職を囲んで繰り広げられる「三位一体の朝食チェック」や「全のせ」がバズり、フォロワー数が急上昇。その人気の秘密は、猫たちの可愛さはもちろんのこと、猫の様子を女将さんならではの言葉でつぶやき、時には感慨深い言葉も投げかける、その人柄にもあります。

Twitterでは、住職と猫の朝ごはん風景が話題となっている

(女将さん)Twitterといっても、私がやっていることといえば、朝7時くらいならお忙しい方でも見てくれるかなと思いまして、毎日コツコツあげていることくらい。同じ時間にアップすることに意味があるのかと不安な時もあったのですが、たくさんの方にみていただいたことで、意味があったと再確認し、嬉しくて続けています。住職の顔をさらして、私の朝ごはんの情報をダダ漏れさせて(笑)。毎日、ただそれを繰り返しています。

――本が出版された今年3月あたりには6万人ほどだったフォロワーが、9月時点で12万人に増加。どんな想いでTwitterを続けられているのでしょうか。

(女将さん)色々と大変なことが多い世の中で、みなさんがコーヒーを飲むような感覚でTwitterを見て、ちょっと休憩してくれたらありがたいなと思っています。「いつも見ています」「今日も頑張ろう」と思ってくださる人が1人でもいらっしゃるなら、私も頑張ろうと思えます。

■眺めながら、なぜか泣けるフォトエッセイ集

 猫写真家の石原さんは、「(てらねこは)成功した写真集。こうすればよかったという思い残すことが1つもないです」と本書について語ります。

――実際撮影をしてみていかがでしたか。

(石原さん)住職さんがいて猫がいる。写真家として撮ってみたいという魅力的な場所ということもありましたが、何より、撮影中の住職さんや女将さんの一言一言が心に響きました。きっとこれはいい本になるなと漠然と思っていたら、本当に素敵に仕上がっていました。私が「こんな風に撮れたら……」と思い描いていたものが撮れたから、写真家として満足です。それから、それを撮らせてくれた猫たちが素晴らしい!

――石原さんは、猫写真家でありながら、自らも猫のブリーダーをしている、いわば猫扱いのプロ。「てらねこ」では、ミー子母さんのプライベートなお散歩を一緒についていくなど、猫たちの目線で交流することで、自然体の表情を捉えています。毎日写真を撮っている女将さんも、石原さんの写真に驚いたとか。

(女将さん)やっぱりすごいなって思いました。迫力ではなく、柔らかい雰囲気や静かな写真で人を納得させるすごさ。なるほど、人を惹きつける写真とはこういうものなのだと思いました。フォロワーさんたちは、猫がちょっと上を向いているような顔を見て「メッセージをくれているのかな」って思うこともあるそうです。人の心を動かす写真なんですよね。

――本の人気は上々で、イベントでも「てらねこ」は完売になりましたね。

(石原さん)猫の写真集はたくさん出ていますけど、今回の写真集はただ可愛いだけではつまらないなと思い、人の心に響くような猫の美しさが表現できたらなと思い、取り組みました。それができて満足していますし、長楽寺さんと猫さんたちを通して、私自身の猫を尊ぶ気持ちを出すことができた写真集だと感じています。

(女将さん)フォロワーの方から、写真や文章で「泣きました」という声がとても多かったんですよね。それだけ、人の心に届く本ができたと思うと嬉しくて。私にとって、「てらねこ」以上の本はないんじゃないかと思うくらい。幸せです。

石原さんがミー子母さんの散歩に密着して撮った1枚

 のびのびと暮らす猫たちの日常風景と、愛情深いお寺の言葉に、明日がちょっと幸せになるヒントがつめこまれた『てらねこ』。猫好きはもちろん、心に何かモヤモヤを抱える人にも、コーヒーのようなひと時の癒しを与えてくれることでしょう。

文=吉田有希

写真:石原 さくら
猫写真家で愛玩動物飼養管理士。東京都出身、東京工芸大学芸術学部写真学科卒業。雑誌での写真連載や、写真教室を定期的に開催する。またデボンレックスとシンガプーラのブリーダーとして自身のキャッテリーを運営するなど、猫好きが高じて猫にかかわる様々な活動に積極的に取り組む。世界中の愛猫家との繋がりを通して、猫を愛する全ての人に猫と人とのより良いあり方を提案することをライフワークとしている。