久しぶりの学校、楽しみだったのに…。なんか皆、前と違ってた/『2409回目の初恋』③
公開日:2020/5/9
榊詩音は11歳の頃、天文クラブのイベントで一緒に星空を見た男の子、芹沢周に恋をした。高校生になり周と再会した時、彼女は病気で余命1年と宣告されていた。ここからふたりの、千年を重ねる物語が始まる――。

▼6月14日
今日は一日、雨が降ってた。終わり。
▼6月20日
十四日からずっと雨。
昔っから飽きっぽいってよく言われてた。
だからじゃないけど、やっぱりこの日記は最後まで書いてやろうと思う。最後ってなんだ、最後なんて来ないよ、とは思うのだけど。
なんていうか、一応、念のため。
学校にまた行き始めて、少し経つ。それでなんだか疲れちゃって、日記を書く気がなくなったんだと思う。多分、そういうこと。
だってさ、だって、なんか皆、前と違ってた。
一日目からそうだったよ。暗い、雨の降ってる日で、まさしくそんな天気と同じような一日だった気がする。
学校に行って、教室に入った時から、違和感がすごかった。
それまでざわざわしてたのが一瞬止まって、それからまた、わざとらしくざわざわし始めてさ。
話しかけると、久しぶりーとか、授業ずいぶん進んだよー、とか、なんか妙に気を遣っちゃって、目が合ってもすぐに逸らしたり、なんか声をかけづらそうにしてて、話してみればいつも通りなんだけど、どこかよそよそしくて。
高奈なんて、私を見て、急に泣き出して走ってどっか行っちゃって。
私だってバカじゃないから、大体予想はついたよ?
皆どっかから、私の状況を聞いちゃったんだ。
私の病気のことは、私から友達には話してなかった。話してもよかったんだけど、なんだか嫌な予感がして、黙っておこうと思ってたのに。
予想が外れてることを祈りながら、なにこれ? 皆一体どうしちゃったの? ってよっちんに聞いたんだ。
先生が私の病気のことを話しちゃったらしい。
うちの担任の、杉崎先生。先生には、もちろんお母さんが話したらしい。まあそれはわかる。授業中に倒れて、一か月も学校来なかったら、それは学校だって気になるでしょうよ。結構、私のこと、大事件になってたらしいし。まあでも、大事件にもなるのかな。学校に救急車が来て、それはもう、毎日同じようなことの繰り返しの私たち高校生の生活の中じゃ、ずいぶん驚くような出来事なわけだし。ちょっとした有名人気分ではある。全然、嬉しくはないけど。
で、気になった子が、多分私の友達が――先生からどうにかこうにか聞き出して、そこからはもう、わーっと、わーっと、広がっていったらしい。
それで、皆ちらちらこっち見たり、変に気を遣ったりしてさ。特別扱い。いやいや、死なないから! まだピンピンしてるから! って言ってみたけど、皆、愛想笑いしてる感じ。あれは完全にスベッてたなー。私が悪いのかな、やっぱり。
あれだけ楽しみにしてた喫茶店も、よっちんと高奈の緊張が伝わってくるみたいで、楽しくなかった。南仏プロヴァンス風どら焼きだって、全然美味しくなかった。パサパサして、クリームなんてただ甘いだけ。サイテーでサイアクの味だった。
学校一日目の印象全体も、そう、一言で言えば南仏プロヴァンス風どら焼きだ。
二日目もそんな感じで。
三日目は、私が話しかけると、なんだかちょっと疲れた感じで話を合わせてくれた。
四日目、五日目って段々、私と話すのは気を遣わなきゃいけないから大変っていう雰囲気が強くなってくる。
皆との間に、透明な壁みたいなものがあるように感じた。
こんなちょっとの間にだよ?
ついこの間まで、仲良く話してたのにさ。
いや、わかるよ? そりゃ、私だって友達がいきなりあと一年かそこらで死ぬって言われたら、どう反応していいかわからないし。どうしていいかわからないまま、一緒にいて、話をしたりとか、難しいよ、そんなの。話せば話すほど、気持ちが落ち込んでいくだろうし。わかるんだ、そんなのは。私だってもう十六年生きたんだから。
皆、普通にするのが思いやりだって顔をして、いつも通りのフリをしてたから、私だっていつも通りのフリをしてたけど。
わかるんだからな。わかるよ、それは、いつも一緒にいた、友達だったんだから。
でも、だからって、だってじゃあ、私のこの気持ちは、どうしたらいいの?
このイライラと寂しさと怖さが混じったような、この気持ちは。
ほんとに、どこに持っていったらいいの?