「ずるい言葉」で相手をまるめこむ人への対処法
公開日:2020/9/27

日常会話の中で相手の発言に違和感を覚え、イラっとしたりモヤモヤしたりすることはないだろうか。例えば、「あなたのためを思って言ってるんだよ」という定型文で、理不尽な提案を押し付けられる、等々。
こういう時に自分がどう対処/対応したらいいかを29のシーンを挙げて考察したのが、森山至貴氏の『10代から知っておきたい あなたを閉じこめる「ずるい言葉」』(WAVE出版)だ。
例えば先述の定型文は以下に当たる。
A「高校に入学したらダンス部に入りたい」
B「ダメ。ケガでもしたら大変だし、そもそも大学受験に向けて勉強しなきゃいけないんだから、部活動なんかやってる暇はない」
A「勉強だけがすべてじゃないって昔は言ってたのに、ずるい」
B「とにかくダメなものはダメ。あなたのためを思って言ってるんだよ」
最後の一文は、まさに「ずるい」と思わないだろうか。これは「本当にあなたのためになるか説明しない、あるいはできないからこそ、『あなたのため』だとわざわざ言うことで、足りない『根拠』のうめ合わせ」をしているという構造だ。
著者はこのシーンなら「どうして私のためになるのか説明してほしい」と切り返すべきだと提案している。確かに、誠実な相手なら、Aが納得できる具体的な根拠や必然性を提示してくれるはずだ。
もうひとつ筆者がシンパシーを覚えた例が以下のやりとりだ。
A「高校では部活動はやらないつもりなんだ」
B「え、サッカー続けるって言ってなかった?」
A「ジュニアユースチームに入ることを目指している」
B「でも、部活動ってみんながやっているものだし、やってみればそのよさが分かるよ」
「問題は本人がやりたいことがあるとはっきり言っているのにそれとは別のことをさせようとしてしまう」例だと著者は喝破する。さらに「それとなくの誘導は、残念ながら『多くの人がやっていることが優れている』という前提にもとづくことが多い」というのは大人でも覚えがないだろうか。
独身の筆者は幾度となく結婚したばかりの夫婦からいかに結婚がいいものだと聞かされたことか……。当人が何らかの事情で結婚しない/できない場合、これは悪気がなくても当人に相当なダメージを与えるだろう。「酒を飲むとそのよさが分かる」などもそうだが、要するに選択肢に優劣をつけているわけだ。
他にも、「相手を傷つける行為に『悪気がない』ことが、その行為を許す理由になるとは限りません」「いい意味で『〇〇らしい』」は「『〇〇』を見くだす言い方で、『いい意味』にはなりません」「『言われた本人が傷ついてないんだからいいんじゃない?』は誰かが傷ついていることに気づくチャンスを無視しています」など、過去に経験したという人も多いはずだ。
「うまいこと丸めこまれて自分が悪いことになったけれど、本当に自分が間違えているのだろうか」――友達や親との会話ではもちろん、ビジネスの現場でも、こうしたシチュエーションに出くわすことは多々あるはずだ。そんな時、一歩立ち止まって黙考し、本書から学んだ思考や理論を役立てることもできる。その意味では「10代から知っておきたい」という本書の射程は非常に長く、大人が読んでも充分に有意義な本である。
文=土佐有明
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