喜怒哀楽と、限りある音/前島亜美「まごころコトバ」⑦
公開日:2021/7/16
アイドル活動を経て、声優や舞台を中心に活躍中の前島亜美さん。常にまっすぐ生きる彼女が、何を思い、感じ、触れてきたのか。心にあるコトバを真心(まごころ)こめて紡ぎます。

先日、声優として参加する「BanG Dream!」の感謝イベントで地方へ伺った。東京を離れ、出演作品を愛してくださる方々と同じ時間を共有できたこと、本当に嬉しかった。
「声優として」、トークテーマでも、よく出た言葉だった。もう4年以上も長く愛される作品にキャストとして携われていること、心から幸せだと感じる。
“キャラクターを愛してもらえることが本当に嬉しい”これは、声優を始めたからこそ味わえた尊い感情だ。
役者だけをやっていた時と、声優活動もやってからの自分とでは、役とキャラクターとの向き合い方、そして何より、芝居への向き合い方が大きく変わったように感じる。
例えば、自分の持つ音が1~10だとして、演劇の場合は喜怒哀楽を表現する時にそのすべてを駆使して芝居をする。稽古を重ねたり、他の役者との掛け合いをしていく中で、時として自分の持つもの以上が生まれたりする。それが生の芝居だと私は感じている。
だが、キャラクターでの芝居となると、キャラクターによって“使える音”というものが限られてくる。キャラクターの年齢設定であったり、性格であったり、私個人の本来の感情ならこの音で泣く、この声で叫ぶというところも、“キャラクターの声”という音の範囲内で喜怒哀楽のすべてを完結させて、成立させないといけない。
私が声の芝居に出会い最初に苦戦したのはこの点だったと思う。そして改めて声優さんの凄さを痛感した。自分の声の範囲ではなく、“キャラクターの声の範囲”で芝居をしている。この声のキャラクターは、この感情の時、どんな言い方になるんだろう、と。
「芝居の感情は良かったけど、(声が)少しキャラクターの年齢を上げちゃったかな」
「その音だと、キャラっぽくないかも」
「今日はちょっと声低い? 鼻声?」
ほんの少しコンディションが違うだけでも与える印象が変わり、キャラクターの魅力に影響が出てしまう。声の芝居は本当に奥深く、そして繊細で、技術が必要なものなんだと強く思う。もっと音に繊細に大胆になりたい。声と息で表す芝居の力をもっと身につけたい。未だに、必死に、勉強している途中だ。
ある声優さんに人生相談をしていた時に、忘れられない言葉を聞いた。この先どうしていこうかなど、それぞれ個人の人生のことを話していたら「…でも、私たちの悩みは、キャラクターの人生には関係のないことだからからね」と。
ふと出てきた言葉に、とても感銘を受けたのを覚えている。
あくまでも自分とは全く別人の“1人のキャラクターの人生”が真ん中にあり、その子のために、その人生のために、芝居をしている声優さんの感覚が、とても素敵だと感じた。
演劇で学んできたことと、これからも学び続ける芝居。声優の現場で学ぶスキルや感覚というものをうまく自分の中で吸収して、女優としての生の芝居と、キャラクターの人生のために吹き込んでいく芝居を、豊かに深く、両立させられるようになりたい。
まえしま・あみ
1997年11月22日生まれ、埼玉県出身。2010年にアイドルグループのメンバーとしてデビュー。2017年にグループを卒業し、舞台やバラエティ番組などで活躍。またアプリゲーム『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』(2017年)でメインキャストの声を演じ、以後声優としても活動中。また、9月から東京と大阪で上演される、舞台『ネバー・ザ・シナー-魅かれ合う狂気』に出演が決定している。
Twitter:@_maeshima_ami
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