劇場版『科捜研の女』ノベライズ版は、まるで「アベンジャーズ」!? シリーズ最強の敵とマリコはどう戦うのか?
更新日:2021/9/2

1999年の放送開始から世代を問わず愛され続けてきた大人気ドラマシリーズ「科捜研の女」。沢口靖子演じる、京都府警科学捜査研究所(=科捜研)所属の法医研究員・榊マリコによるこのドラマが、今年、初めて映画化されることになった(9月3日公開予定)。
脚本は、長年本シリーズのメインライターを務め、『相棒』や『ATARU』『劇場版 名探偵コナン 緋色の弾丸』などの脚本も手がけてきた櫻井武晴氏。科学捜査ミステリーの最高峰ともいえるこのドラマは、劇場版ではどんな展開を見せてくれるのだろう。
「映画公開まで待てない!」という人は、映画公開の前にいちはやく刊行されたノベライズ版『科捜研の女 劇場版』(百瀬しのぶ、櫻井武晴/宝島社)を読んでみてはいかがだろうか。ノベライズ版は、文章から自然と情景が浮かび上がってくるようなドキドキのサスペンス小説なのだ。
物語は、あるウイルス学者が、京都のビルから飛び降りて死亡したことに始まる。現場の状況からすると、自らの意思で飛び降りたとしか思えない。だが、事件前に「助けてっ! 殺されるっ!」という声を聞いたという証言もあり、何とも不可解だ。そして、またもう一件、似たような事件が発生。第1の事件も第2の事件も、被害者は、死亡する前日には頭痛を訴えており、死後の血液検査では似た病的所見が認められ、さらには「口内細菌の研究者」という共通点もあった。京都だけではなく、世界各国でも細菌の研究者が次々と不審な転落死を遂げていく。「科学は噓をつかない」を信条とする法医研究員・榊マリコら科捜研チームは、これらの事件が殺人事件であると考え、鑑定を進めていくのだが…。
本作のキーとなるのは、“ダイエット菌”と呼ばれる細菌。コロナ禍真っただ中、目に見えないウイルスの脅威を痛感している現代だからこそ、事件の恐ろしさをより実感できる。その細菌の研究をしている天才科学者がこの事件に関わっているに違いないが、彼には鉄壁のアリバイが存在していて、なかなか打ち破れない。物語にちりばめられた謎をどう解き明かしていけばいいのか。先の見えない展開にページをめくる手が止められなくなってしまう。
もちろん、マリコをはじめとする科捜研チームの武器も、天才科学者同様、「科学の力」だ。特にノベライズ版では、科学者同士のプライドをかけた攻防が克明に描かれていて、スリル満点。思わず手に汗握ってしまうほどだ。マリコたちの行う鑑定は幅広く、「そんな科学技術があるのか」と驚かされるばかり。犯人が見逃したごく僅かな痕跡を探しては、事件の真相を追い求めていくその姿に痺れてしまう。
さらに、ノベライズ版では、脚本家・櫻井氏とミステリー作家・法月綸太郎氏の対談も収載。制作の背景や裏話などを知ることができることにも心が躍る。対談の中で、法月氏は、この作品のことを「科捜研の女 アベンジャーズ」だと語っているが、まさに、その言葉は言い得て妙だ。歴代登場人物の思いがけない登場に、ノベライズ版を読みながら何度驚かされたことだろう。たとえば、科捜研の元所長・宮前守や元科捜研のメンバー・相馬涼。さらには、20年ぶりにマリコの元夫・倉橋拓也も登場する。しっかりと時間の推移も考慮されており、現在の彼らの姿が描き出されているのが嬉しい。しかも、彼らは、捜査が行き詰まりかけた時に登場するのだ。それぞれの力でマリコに力を貸してくれる姿は本当に心強い。マリコに限らず、登場人物たちも超一流。マリコは周囲の人間たちに無茶振りばかりしているようだが、個々の圧倒的な能力と、そのチームワークには感嘆させられてしまう。
また、もちろん、マリコの相棒ともいえる土門刑事も大活躍。マリコと元夫・倉橋が親しげに話す姿を遠くから見つめる土門刑事…。ドラマが放送されるたびに話題になる「ドモマリ」の関係は、本作でも見もの。「科捜研の女」は人間模様もとびきり面白いのだ。
科捜研メンバーや刑事たちの熱い情熱が、小説の中からほとばしるようだ。文章を読むだけで、映画を見ているかのような臨場感が得られ、登場人物たちひとりひとりの思いが深く心に沁みわたってくる。最新科学トリックと濃密な人間ドラマには、興奮させられっぱなし。元々のマリコファンはもちろんのこと、まだこの作品に触れたことのない人も魅了させられるに違いない。至極のサスペンスストーリーを映画だけでなく、ぜひともノベライズ版でも体感してみてほしい。
文=アサトーミナミ