今もっとも必要な「受援力」を伸ばせる! ちがいが輝く世界を描いた絵本『すきなこと にがてなこと』

文芸・カルチャー

更新日:2021/12/20

すきなこと にがてなこと
『すきなこと にがてなこと』(新井洋行:作、嶽まいこ:絵/くもん出版)

「にがてなこと」をなくしてあげたい。我が子に対してそんな思いを抱いてしまうのは当然のこと。でも、「にがてなこと」を克服する努力と同じくらい大切なことがあるのも忘れてはいけません。それは、「すきなこと」も「にがてなこと」もある自分を受け入れられるようになること。「にがてなこと」ばかりに囚われないことも、時には必要なのではないでしょうか。

『すきなこと にがてなこと』(新井洋行:作、嶽まいこ:絵/くもん出版)は、「すき」も「にがて」もありのままでいいと教えてくれる絵本作品。発売後、たちまち重版出来。発売5ヶ月で4刷にもなる話題作です。

 主人公の「ぼく」はスポーツがだいすきだけど、みんなの前で発表するのはにがて。でも、そんなときは、りんちゃんがいっしょに発表してくれれば安心です。でも、りんちゃんは動物がにがて。でも、そんなときは、けんちゃんがてつだってくれます。そんな風に、クラスの友だち、家族、町の人や、世界じゅうの人とも、「ぼく」は「すきなこと」「きらいなこと」でつながっているのです。

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すきなこと にがてなこと

すきなこと にがてなこと

「あのころの自分にだいじょうぶ、みんなそれぞれ『にがてなこと』があるんだよ、と伝えてあげたい。そんな気持ちからこの絵本は生まれました。この絵本がある、と思うことで、今の僕自身も心が安らぐのです」

 作者の新井洋行さんはこの絵本に対し、そんなことばを添えていますが、確かにこの絵本を読んでいると、「大丈夫だよ」と優しく語りかけられたかのよう。誰にだって「すきなこと」「にがてなこと」がある。でも、みんな違っているからこそ、私たちは、支えあうことができる。そんなことを教えてくれるこの作品を読むと、気持ちがとっても穏やかになります。

 また、この本は子どもたちの大切な力を伸ばすことも期待できます。人それぞれ「すきなこと」「にがてなこと」があることに気づき、自分自身を前向きに受け止める「自己肯定感」を高めることや、多様性を認め理解を深める力に繋がります。そして、今、注目されている「受援力」を身につけるのにも役立つのではないでしょうか。「受援力」とは、「たすけて」と言える力のこと。コロナ禍の昨今、自分たちの状況を積極的に伝え、助けを求め、支援を受ける力の必要性が強く感じられています。この本を読んで、私たちはそれぞれの「すきなこと」「にがてなこと」で支えあいながら暮らしているということを知れば、たとえば、友人関係に悩んだり、勉強でつまずいたりした時、周囲に助けを求める声もあげやすくなるでしょう。

 この絵本は、「にがてなこと」ばかりの自分に悩んでいる子どもはもちろんのこと、おとなの心にもじんわり染み渡ってきます。「すきなこと」をいかして活躍できるように、誰かを助け、誰かに助けを求められるように、この絵本作品はオススメ。ちがいが輝く世界を描いたこの絵本を親子で一緒に読んで温かい気持ちに浸ってみてはいかがでしょうか。

文=アサトーミナミ