アラサーOLと捨て猫を繋ぐのは、同じ食材で作るごはん! 猫好きに贈る料理マンガ
公開日:2022/1/15

愛くるしい姿や仕草で多くの人々を魅了する「猫」という存在。犬と違ってなかなか思い通りには動いてくれないが、甘えたくなったら甘え、飽きたら主のことなんてお構いなしで自分の世界へ戻っていく自由気ままな生き方がまた心を掴んで放さない。猫はまるで小悪魔だ。そんな猫の姿を見て、「私もこんなふうに生きられたら」と思っている人も多いはず。そして中には、猫に救われる人も――。『細村さんと猫のおつまみ』(高田サンコ/KADOKAWA)は、素朴な街で生きるアラサーOLと、彼女の家に現れた捨て猫の物語。
本作品の主人公は、両親に先立たれ、お金もなく、古びた一軒家で節約しつつ派遣社員をしながら生計を立てているアラサー女子・細村紗千。ある日細村は、家の前で1匹の仔猫と出会う。

出勤前だった細村は、その仔猫に食パンを与えて出勤。そのまま普通に仕事をこなして帰宅した。帰宅時には仔猫の姿は見られず、細村もそのことは忘れたかのように家事を片付けていたのだが。しかしひょんなことから床下にいた仔猫を発見。

埃だらけで冷たくなって震えている仔猫を見つけた細村は、湯たんぽにお湯を入れて仔猫を温め、スーパーで買ってきた鶏手羽元とお米を使って猫用ごはんを作ろうと思い立つ。湯通しした鶏手羽元と研いだお米、水を土鍋に入れて強火にかけて「鶏粥」を作り恐る恐る与えてみると――なんと弱っていた仔猫は鶏粥を完食。それを見た細村は、思わず嬉しそうな表情を浮かべる。ちなみに細村は、鶏粥の鶏に手作りの金柑味噌を乗せ、「ゆで鶏の金柑味噌」にして食べていた。細村の仔猫との生活は、ここから始まっていく――。


この日から細村は、毎晩のように自分用と併せて仔猫用のごはんを作るようになる。そしてお酒が飲めないのに自分の作るおつまみのようなごはんが好きな仔猫に「おつまみ」と名前をつけ、ともにごはんを食べるひとときを楽しみにするようになるのだ。また、猫であるため言葉を発するわけではないが、おつまみも細村とのごはんを楽しみにしている様子が描写から伝わってくる。その、1人と1匹の素朴ながら幸せそうな光景を見ていると、やっぱりおいしいごはんを作って誰かと食べることの効果は絶大だなと感じる。
さらに、細村の作る料理はどれも安くで手に入れた食材を主軸に作られる。鶏手羽元や庭の木になっている金柑、半額になっていたブリ、豚こま肉、魚のアラ……と、その「おトクなものをうまく活用する」という方向性が料理好きにとってもたまらない。食材をうまくおいしいものに変えられた時の満足感、充足感は、食事の楽しさを何倍にも増幅させてくれるものだ。細村の場合、これにさらにおつまみのごはんも一緒に作るという効率の良さが加わるのだから、料理を口にした時の至福の表情にもうなずける。

そんなおつまみとの生活が生きがい、そしてリハビリになったのか、幼いころの体験からどこかおどおどしていた細村自身にも良い変化が現れ始める。表情が明るく豊かになっていく細村に、常日頃から細村を気にして気遣っていた職場の黒堅主任もドキリ。これはいい方向に向かっている――と思いたいが、しかし。実は同じ職場に黒堅主任を気にしている女子が。今後この3人の関係がどうなっていくのかも気になるところだ。
また、著者の高田サンコさんが過去に猫を飼っていたこともあり、おつまみの仕草がリアリティたっぷりなのも魅力の1つ。飼い猫がいる人や猫好きなら、きっと「あるある!」「うちの子もする!」と頷けるシーンが見つかるはず。今猫と暮らしている人には、ぜひとも自分と猫のごはんを一緒に作り、「猫とともに味わうごはんタイム」も体験してほしい。大好きな猫とこんな生活ができたら、そんなの幸せに決まってる――っ!

猫もごはんも、細村さんが抱える心の闇も、そして恋路も、気になるポイントが満載なこの『細村さんと猫のおつまみ』。第6話では、細村さんが料理を好きになったきっかけも描かれる。本書で猫とごはんに癒されて、猫のように、細村さんのように、今までよりちょっとだけ自由で新しい自分にしてくれる何かを模索してみるのもアリかもしれない。
文=月乃雫