何者かになろうと必死だった新人時代。牛丼が自分らしさを思い出させてくれた/がんばらないことをがんばるって決めた。

暮らし

公開日:2022/2/9

 ついついがんばりすぎてしまい、自分のことをおろそかにしていませんか? ストレスの多い現代社会を、もっと楽に生きたいと思う人は多いのではないでしょうか。

「今日も会社に行けなかった。まあいいか。生きてるし。」

 今回ご紹介するのは、そんな等身大のつぶやきで「いいね」を15万以上獲得した、考えるOLさんの『がんばらないことをがんばるって決めた。』です。

 考えるOLさんの共感を呼んだ投稿と、書き下ろしエピソードを満載したエッセイは、優しい言葉とエピソードが詰まった、がんばりすぎてしまうすべての人の心に響く1冊です。疲れている人ほど本書『がんばらないことをがんばるって決めた。』を手に取ってみてください。

※本作品は著:考えるOL、イラスト:おさつの『がんばらないことをがんばるって決めた。』から一部抜粋・編集しました。

がんばらないことをがんばるって決めた。
『がんばらないことをがんばるって決めた。』(考えるOL:著、おさつ:イラスト/KADOKAWA)

がんばらないことをがんばるって決めた。

誰かの特別になるよりも、自分の特別を大切にする

 泊まり込みの新入社員研修のときの話だ。

 研修が行われている会議室には、知らない顔が数百人ときれいな列をなして並んでいる。その一人一人が違う人生を歩んできて、なぜかここで交わっている。ありきたりだけれど、これまで私が生きてきた世界の狭さに自信をなくす。

 たった2週間。何度でも何者でもない自分を思い知る日々だった。誰かと話せば、新しい世界を知り、またその世界に自分は存在していなかったという当たり前の事実を突きつけられる。この事実がこれから先の未来をひどく不安にさせた。

 これから出会う人々にゼロから自分を知ってもらい、認めてもらわなくてはいけない。そして、新しいこの世界で自分の役割を探さなくてはいけない。それは私だけではなく、新入社員としてその場にいる人のほとんどが感じている、焦りと不安の正体でもあったような気がしている。

 研修ではいろんな人がいた。明らかに疲れているのに、「私、ネガティブなこと言いたくないの」と元気を振りまく人、みんなと仲良くなりたいがために話しかけてくるけど自分の話ばっかりの人、意識高い系に思われたくないために逆にやる気めちゃくちゃないですアピールしてくる人。

 同期たちの何者かを取り繕った必死さが垣間見える度に、私の心はどんどん消耗していった。

 

 研修最終日。

 心が疲弊していた私は、ご褒美においしいものを食べようと決めていた。終業時刻を過ぎて向かったのは松屋。どうしても牛丼が食べたくなっていた。

 テイクアウトして宿泊先のホテルに戻り、着替えもしないまま大きな鏡のある机の上で、牛丼をほおばった。お肉が口の外にこぼれそうになる感覚、人目も気にせずかきこむ心地よさ。あっという間に、もりもりもぐもぐ食べ終えた。

 目の前の鏡を見ると、手のひら合わせてご馳走様している自分がいた。ちょっと笑ってしまった。そういえば、大学の卒業式の日も、牛丼を一人で食べたな、と思いだした。

 学生の頃から、ちっとも変わっていない。ご褒美は牛丼と決めている自分が好きだ。ずっと牛丼を好きな自分が、特別な存在な気がしてくるからだ。

 何者かにならないと、誰かの特別にはなれない。自分のいなかった世界をこれから生きていく私は、特別な役割を担える何者かにならなければと焦っていた。

 でも、誰かにとっての特別よりも、自分にとっての特別を大切にできる大人でいよう。小さなホテルの一室で、ささやかにそう大きな決心をした。たった380円の牛丼が、何者でもない自分に対する焦りや不安を優しくほどいてくれた。

 何者かになるよりも、自分が好きな自分でいられることのほうがよっぽど尊いじゃんか。

 社会人になったばかりの初々しい22歳の自分が教えてくれたこと。高級焼肉や回らないお寿司の味を覚えても、私のご褒美はいつだって牛丼だ。何歳になってもずっと忘れないでいてよね。頼んだよ、未来の私。

がんばらないことをがんばるって決めた。

<第4回に続く>

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