家庭料理に取り入れたい煮魚。火力のある現代ならではの煮魚作りとは/その下ごしらえ、ホントに必要?

暮らし

公開日:2022/2/22

〈煮魚のコツ1〉煮汁と魚を同時にお鍋に入れて、火にかけていいのよ。

松本

松本 ご家庭で煮魚は作りますか?

野田

野田 あまりやらないですね。たまにサンマが安い時に梅煮を作るくらいです。

松本

松本 最近は煮魚を作る人が減っているようですが、昔の家庭料理は塩焼きよりも煮魚が多かったんです。

野田

野田 何か理由があるんですか。

松本

松本 煮魚は一度にたくさん作れるからです。昔は七輪だったから、焼き魚といっても一度に2〜3匹しか焼けないでしょ。家族も多かったから全員分焼くのに時間がかかってしまう。でも煮魚だと全員分一度にできるんですね。

 私は煮魚は割に好きですね。カレイやキンキなどの白身魚より、アジとかサバとか青いお魚の方が好きなの。あとはブリとか。

野田

野田 僕もブリは大根と煮たりしますね。煮魚を作る時のコツはなんでしょうか。

松本

松本 煮魚は熱い煮汁に入れるといいって言いますでしょ。「うま味を凝縮させて、逃がさない」と言われていて、そのために熱い煮汁に入れて表面をぱっと固めましょう……というのが、煮汁を沸騰させたところに入れる理屈なんですね。

 だけど煮汁って、野菜を煮る時はたっぷりですけど、煮魚の時は少ないですよね。そして平たいお鍋なんかを使うと、火にかけて沸騰するのを待っていると煮汁が蒸発してなくなっちゃうじゃないですか。だったらもう最初から煮汁に魚を入れた状態で火にかければいいんじゃないかと思ったんです。

野田

野田 それだとうま味が外に出ちゃうんじゃないですか?

松本

松本 昔と違って今は火力が強いでしょ。だから魚からうま味が出て行く時間がないんです。昔のように6人分とか8人分を煮魚にすると、七輪にかけてから煮汁が沸騰するまでにホントに時間がかかったんですよ。今みたいにガスでばあっと沸騰させることができるんだったら、お魚を入れてから沸騰させてもうま味が逃げるひまがないの。

野田

野田 「熱い煮汁に入れる」というのは、七輪時代のセオリーということですね。

松本

松本 そうです。私、七輪を買ってきて実際に計ったことがあるんですよ。ついでに言うと、実際にいろいろなものを煮ていたら、一つ面白いことを発見したんですね。それは卵とじ。

 卵とじは「卵を外から回し入れます」と教わるんですけれど、七輪だと火袋(炭が入っている部分)が真ん中にあるでしょう。それでお鍋が大きかったりすると周辺がなかなか煮えないんですね。つまり外側の方が煮えにくいから、先に入れるんです。ところがガスコンロはどちらかというと逆なんですね。外に火があるんです。だから外から入れると外だけ煮えて中が煮えない。だからガスの時は逆に中から入れないといけないってことなんです。

野田

野田 なるほど。実際にやってみないとわからないことってあるもんですね。

松本

松本 煮魚の話に戻ると、七輪の時代と今のガスとでは火力がずいぶん違うということと、家庭で一度に作る量が少なくなったことからすると、煮魚を作る時、魚は最初から煮汁に入れてるのがいいと思います。

〈煮魚のコツ2〉煮汁は捨ててはダメよ。最後に一人分が大さじ一杯残るように煮詰めましょう。

松本

松本 煮魚のもう一つのポイントは、「最後に少し煮詰めて煮汁を少なくする」ということです。最後の煮汁を適量残すようにしたら、絶対に美味しい煮魚ができると思います。

野田

野田 どうやって適量を残すんでしょう。

松本

松本 調理実習の授業では必ず煮魚を作るんですけど、試食の時に見て回ると、みんなちゃんと魚に煮汁が適量かかっている。それで全員美味しくできていると思い込んでたんです、何十年もの間。でも一般的にも「煮魚がどうもうまくできない」という話が増えてきて、何が原因なんだろうと思って考えたの。

野田

野田 何が原因だったんですか。

松本

松本 学生たちはテキスト通りに煮魚を作るでしょ。でもテキストに書いてある時間通りに煮ると、完成した時には煮汁がまだだぼだぼなんです。でも盛りつけたのを見るとちゃんと煮汁が適量かかってる。それで「さっき見た時は煮汁がいっぱいあったけど、全部煮詰めたの?」と聞いたら「かける分だけ残して捨てました」と言うんですよ。でも、煮汁は煮詰めないと味が薄くて水っぽくなってしまうんですね。

野田

野田 どうやって煮詰めればいいんでしょうか?

松本

松本 煮上がってもうぼつぼついいなと思う頃に、落とし蓋を外して、火をちょっと強くして、一人分につき大さじ一杯くらいの煮汁が残るように煮詰めるんですね。たんぱく質というのは味がほとんど染みないから、煮ても魚の身自体は味がないんです。だから魚にその煮汁を付けながら食べるのが煮魚なんですね。そのために、そのお魚にかけるだけの大さじ一杯の煮汁を残して欲しいわけです。

野田

野田 煮詰めるという作業がきちんと行われてなかったと。

松本

松本 私は何十年も教員をしていながら、最後の年になってはじめて、煮魚の煮汁のことにようやく気が付いたんですね。

野田

野田 テキストには「煮詰める」という工程は書いてないのでしょうか。

松本

松本 書く側は、それくらいまで煮詰めてくれるだろうと思ってるんでしょう。私も何十年も「ちゃんと煮詰めてる」って思い込んでましたから。そしたら「煮汁は捨てました」と。「ちょっとあなた、残った煮汁を捨てたら味が薄くなるから美味しくないでしょ」って言ったら「はい」って(笑)。

野田

野田 松本先生にとっては盲点だったんですね。

松本

松本 本当になぜこれまで気が付かなかったんだろうと思いました。それで、いつもは煮魚の調理実習というのは1回しかやらないんですけど、その年は3回煮魚をしたんです。2回目は「これくらいになるまで煮汁を煮詰めなさい」と具体的に見せてあげて。3回目はもう知らん顔して「美味しくなるように煮なさい」って適当にまかせたんです。そしたらみんなもうちゃんと煮汁大さじ一杯くらいになるまで煮詰めて、それを器に盛りつけて、その汁をかけて食べてましたね。

野田

野田 煮魚というのはそういう食べものだという前提で考えないと、間違っちゃうんですね。

松本

松本 大さじ一杯まで煮詰めた煮汁をかけると魚につやも出ますし、盛りつけた時にきれいなんです。しかも食べる時につけつけ頂くと美味しいの。それは野菜の場合も同じで、カボチャや里芋、大根を煮る時も最後に煮汁を残しておいて、それをかけるとカボチャがつやつやしてとても美味しそうに見えるんですね。ただカボチャは煮汁をどんどん吸いますので、少し多めに残しておく方がいいですね。

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