ほっぺたに涙/前島亜美「まごころコトバ」㉗
公開日:2022/4/29

「とにかくビビりでねぇ、かわいかったよ」
私は小さい頃、どんな子供だった?と聞くと母親が話をしてくれた。
「大きい音が苦手で、すぐにびくっとして、そのあと『ふぇええええ』って漫画みたいに大泣きする子だったよ」
私の一番古い記憶は、幼稚園に入ってすぐの頃に病院で予防注射をした時のものだ。
注射が、針が、とにかく怖くて、とにかく嫌で、とにかく逃げたくて、ひとり連れられてしまった病室で、大泣きしながら家族に助けを求めていた。
「ままーー!!まーまーー!!!」
しばらくしても母がこないとわかると
「…ぱぱーー!!ぱぱーー!!!」
と病院中に響くほど叫んでいたのを覚えている。
「ママがこないってわかったんだろうね。頭いいなって、注射がんばってるんだなって、涙しながら笑ったよ」と母は言った。
私には、同い年で誕生日も近い従姉妹がいる。
名前も少し似ていることから、小さい頃は双子のようによく一緒に過ごしていた。
まだお互いに赤ちゃんの頃、ビビりな私の横で、どっしりとしていた従姉妹は、時折、私にちょっかいをかけていたらしく、その度にわたしはびっくりして大泣きしていたそうだ。
「あみは、大泣きしたあとには決まってほっぺたに涙がひと粒だけ残っていたんだよ」
「それが可愛くてね、あぁ悲しかったよねって拭ってたんだ」
2歳になり歩けるようになってもビビりは変わらず、外出しても、人見知りで、すぐ母親のかげに隠れていたらしい。
公園に行き、キティちゃんのキックボードに乗って元気に遊んだかと思うと急に泣き出し、なにかと思ったら「ありんこ、いや〜!」と。アリの大行列にびっくりして泣いてたらしい。
家族で外食をした際にも、ほかのお客のおばさんにまだ小さかった姉が話しかけられ、おばさんが冗談で「かわいい子だね。連れて帰っちゃおうかな〜」と言ったことに強く反応し、「だめ!だめーーー!」と姉を強く掴んで離さず大泣きして、おばさんを困らせたことがあったとか。
「お姉ちゃんが連れてかれるって思って、すごい勇気をだしたんだろうね。ビビりなのに、すごく頑張ったんだって思ったんだよ」
ビビりなのに、どこか芯がある子だったと、母は笑って話をしてくれた。
「あとね、笑った時の笑顔は特別だったよ。顔中で笑っていて、まわりのみんなが幸せになっていた」
母の話を聞いていて、気づけば涙が流れていた。
そんなビビりが、よく大きくなって、よくここまで踏ん張って生きてこれたなぁと。
私自身というより、母の記憶を、母の目を通して見た“小さい頃の私”をとても愛おしく思った。
怖いことと、いっぱいがんばって戦ってきたんだね。と抱きしめてあげたくなった。
そして、そんなビビりがここまで生きてこれたのは、家族や祖父母、周りの人達にきちんと愛されて、大切にされてきたから、泣いた時に手を差し伸べられ、守ってきてもらったからなんだと思うと、また泣けてきた。
24歳になっても、ビビりが治っていない私。
ふとした物音や大きな音、おばけや夜道、ひとりで過ごす夜、怖いなぁと思っては、そんな自分に嫌気がさしたり、疲れることもあるけれど、小さい頃からそうだった自分を、いっぱい泣いて、なんとか乗り越えてきた自分を愛おしく思えたら、自分の手で守っていこうと思えたら、心がとても軽くなるなと思った。
さみしがったり、怖がったり、不安になったりしても、自分の中に残っている“小さい頃の自分を抱きしめる”ように、その感情ごと受け入れ、穏やかに生きていきたい。
なにより、小さい頃の私が知ったら、笑顔で喜ぶような素敵な大人になっていきたいと思った。
まえしま・あみ
1997年11月22日生まれ、埼玉県出身。2010年にアイドルグループのメンバーとしてデビュー。2017年にグループを卒業し、舞台やバラエティ番組などで活躍。またアプリゲーム『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』(2017年)でメインキャストの声を演じ、以後声優としても活動中。
Twitter:@_maeshima_ami
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