恋バナはランチにも勝る“ごちそう”! 友人の恋の悩みとは?/5分後に恋の結末 友情と恋愛を両立させる3つのルール①
更新日:2022/7/20
一心不乱にカレーパンを頰張っていた紗月が「ん?」と顔を上げたのは、ラグビーボールが半分よりも小さくなったときだった。
「あそこにいるの、みっちゃんじゃない?」
それぞれ弁当をつついていた詩都花とエミも、紗月が見つめる方向に視線を向ける。するとそこには、ぽつんとひとりですみっこのベンチに腰を下ろし、おにぎりを小さくかじっている女子生徒がいた。
3人と同じ中学から進学してきた、白石瑞穂だ。3人とも、中高どこかのタイミングで同じクラスになったことがあるので、共通の友人だった。
「ほんとだー。なんか、思いつめた表情してない?」
「珍しいわね」
エミと詩都花が言葉を交わしていると、それまで黙々とカレーパンを食べていたはずの紗月が、突然つぶやいた。
「恋の事件のにおいがする」
は? と、詩都花とエミの声が重なった。
「紗月、またそれ?」
「紗月ちゃん、ほんと好きだよねー、恋の事件」
あきれた様子の詩都花と、のんきに笑うエミを、紗月がムッとした顔で軽くにらむ。
「なによー。こういうカンは当たるんだから。わたし、ちょっとみっちゃんに話聞いてくる」
言うが早いか、カレーパンの残りを口に放りこんだ紗月が、腰を浮かせた。そのスカートのすそを、「ちょっと」と詩都花がつかんで引き止める。
「紗月、もうちょっと様子見てからにしなさいよ」
「だけど、もし何か悩んでるんだったら、聞いてあげたほうがよくない? 『恋の病』って、いうでしょ? 病気の人を放っておくなんて──」
「紗月」
「……はい」
詩都花の語調が変わったことに気づいて、紗月が少しテンションを下げる。
「紗月が言いだした3つのルールって、なんだっけ?」
そう聞かれて、紗月は少し苦い顔をした。それでも詩都花は追及の手をゆるめることなく、目だけで続きをうながした。紗月は、とうとう根負けして再びその場に腰を下ろし、口を開く。
「その一、『二股禁止!』」
「うん」
「その二、『人の恋路の妨害禁止!』」
「うん、それから?」
「その三、『悩みを抱えてくよくよするの禁止! あと、言いたいことは言うけど、過干渉は禁止。それと、秘密は絶対厳守』」
聞いて納得したようにうなずく詩都花の隣で、エミが、ふと首をかしげた。
「ねぇ。前から思ってたんだけど、3つ目って、いろいろくっつけられてるよね。3つじゃなくて、明らかに4、5個あると思うんだけど」
「しょうがないよ、いろいろ増えていったんだから。それに、『3つのルール』のほうが、語感もいいしさ」
「エミ、紗月。話がそれてる」
詩都花はピシャリとそう言うと、食べかけの弁当を横に置いて、改めて紗月を見つめた。
「とにかく、いきなり突撃したら瑞穂も驚くでしょ。気をつけないと、『過干渉』になるよ」
「大丈夫! 話を聞いて、ちゃんと判断するから」
あっけらかんとそう言った紗月が、詩都花のスキをついて素早く立ち上がる。詩都花とエミが、あっ、と思ったときには、紗月は瑞穂に向かって手を振っていた。
「みっちゃーん! こっちで一緒に食べなーい?」
紗月のよく通る声に、まわりの生徒が振り返る。呼ばれた瑞穂もすぐに気づいて、弁当の包みをまとめ、3人のほうに向かって歩きだした。瑞穂が立ったことで空いたベンチには、すぐに騒がしい女子グループがやってきて、あっという間に埋められてしまった。
「今日も3人一緒なの? ほんと、仲いいね」
セミロングの髪を揺らしながらやってきた瑞穂は、紗月と詩都花の間に座り、3人だった輪は4人になった。そこへ紗月は、ためらいもなく切り出す。
「みっちゃん、何か悩んでるの?」
「え?」
「なんか、そういうふうに見えたから。もしかして恋の悩みかなって」
「紗月、『話を聞いて判断する』んじゃなかったの!?」
非難するような詩都花の言葉に紗月が反論するより早く、弱々しい笑顔で「ううん」と首を振ったのは瑞穂だった。
「いいの。本当に悩んでたから」
「それって、例の先輩のこと?」
口早に尋ねた紗月に、瑞穂が目をしばたかせる。少し悩んだあと、瑞穂は伏し目がちに、小さく「うん……」とつぶやいていた。
「よかったら、話してみない? ちょっとは気持ちが楽になるかもよ」
紗月が瑞穂の背中に手をそえて、その顔を横からのぞきこむ。おずおずと顔を上げた瑞穂は3人の顔をうかがうように順番に見たあと、小さなため息をついた。
「じつはね──」
決意とともに口を開いた瑞穂に、紗月と詩都花とエミは身を乗り出した。食事の手は、とっくに止まっている。
乙女たちにとって、恋の話はランチにも勝る「ごちそう」なのである。
