“L'Arc~en~Ciel”のライブチケットを当てるために、彼女と僕はひたすらハガキを書き続ける/片岡健太(sumika)『凡者の合奏』

文芸・カルチャー

更新日:2022/7/20

 あなたは、身近にいる人との縁や繋がりのきっかけを考えたことはありますか?

 今回ご紹介する書籍は、人気バンドsumikaの片岡健太さんと、彼と関わる人々との記録を綴った人間賛歌エッセイ『凡者の合奏』。

 多くの絶望や数々の挫折を経験してきたなかでも、それ以上に人との関わりに救われた片岡さん。

「さまざまな人にとっての“sumika(住処)”のような場所になって欲しい」バンド名の由来にもあるように、sumikaの音楽はとにかく優しく、人への愛にあふれている。

 彼が織り成す、そっと背中を押してくれるような優しい言葉の源とは――?

「特別な才能があるわけじゃない」「1人では何もできない」「昔も今も常にあがいている」、凡者・片岡健太さんのすべてをさらけ出した一冊。オール本人書き下ろしに加えて、故郷の川崎市や思い出の地を巡った撮り下ろし写真も多数収録。また、『凡者の合奏』未収録写真を、ダ・ヴィンチWebにて特別公開いたします!

 L’Arc~en~Cielのライブチケットを当てるために、ラジオ番組へ送るハガキをひたすら書く2人。気づけば6時間が過ぎていて…。

※本作品は片岡健太著の書籍『凡者の合奏』から一部抜粋・編集しました

凡者の合奏
『凡者の合奏』(片岡健太/KADOKAWA)

凡者の合奏
写真=ヤオタケシ

 ある日、のびさんの家に遊びに行った際「けんちゃんも一緒に書いて」と言って、大量のハガキを渡された。彼女はL’Arc ~en ~Ciel の大ファンで、ライブに行きたいようなのだが、チケット抽選にことごとく外れていた。最後の望みは、ラルクのラジオ番組でメッセージを読んでもらい、ライブのチケットを当てるしかない。

「裏面は白紙でOK。表の宛先の字はギリギリ読める程度で大丈夫だから、とにかく多くの枚数を書いてほしい。そして、送り主の欄には、本名とは別に『ラジオネーム:野蒜』と書くのだけは、忘れないでほしい」と言われた。

 のびさんのあだ名の由来が山菜だったことを、僕はそこで初めて知った。そして、番組に毎回メッセージを送る、通称〝ハガキ職人〟と呼ばれる人たちが、ライバルとして大勢いるということも教えてもらった。大切な友人の頼みだ。ライバルに勝とうじゃないか。僕はハガキ職人のアシスタント業を務めた。

 僕が「10枚書けたよー! なんかペース摑んできた」と言うと、のびさんからは「おお、いいね~。私も順調だよ」とリズムの良い返事が返ってきた。大切な人の夢が叶うよう気持ちを込めて、宛先と野蒜をひたすら書き続けた。次第にお互い会話もなくなり、作業に集中するようになった。最初は12を示していた時計の短針は、気付けば6を指している。手元にあったハガキを書き終えた頃には、『週刊少年ジャンプ』と同じくらいの厚さの束が、堂々とできあがった。

 横を見ると、のびさんは机の白熱灯に照らされて、真剣な表情で作業をしていた。ゾーンに入った職人を驚かせようと、僕は息を潜めて、分厚くなったハガキたちをのびさんの机にドンと置いた。

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