2008年08月号 『科学の扉をノックする』小川洋子

今月のプラチナ本

更新日:2013/9/11

科学の扉をノックする

ハード : 発売元 : 集英社
ジャンル:IT・科学・医学 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:小川洋子(小説家) 価格:1,470円

※最新の価格はストアでご確認ください。

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『科学の扉をノックする』

小川洋子

●あらすじ●

作家でありながら科学に高い関心を抱く著者が、最先端の研究をしている専門家を訪ねてインタビューした科学入門エッセイ。全7章の構成になっており、各章ごとに異なったジャンルの専門家に1人ずつインタビューしている。1章から順に、宇宙、鉱物、遺伝子、放射光分析、粘菌、遺体、スポーツトレーニングの専門家が登場し、素人である著者に対して自分の研究についてわかりやすく語る。著者はそれを、身近な例に置き換えたり率直な感想を述べたりしながら咀嚼し、豊かな筆致で理解の過程を描く。専門家の丁寧な語り口もさることながら、読者に近い立場の著者の体験を、読んで追体験させて読者を科学の扉へと誘う、ほかにはない魅力のある科学入門書となっている。

おがわ・ようこ●1962年、岡山県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。91年『妊娠カレンダー』で芥川賞を受賞。2004年に『博士の愛した数式』が本屋大賞に選ばれる。また、『薬指の標本』はフランスで映画化。その他、作品多数。

集英社 1890円
写真=冨永智子
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編集部寸評

僕たちは、夜空や夢の彼方を
見上げつづけていてもいい

宇宙ステーションで働きたいと書いた。小学生の頃の将来の夢。すっかり夢は叶わなかったが、今もときどき夜空を見上げ、宇宙を感じる。本書によると、この宇宙はビックバンの後ずっと膨張しているが、それはたまたまでしかなく、収縮していく宇宙も存在するという。そちらの宇宙では未来を楽観できないが、こちらの宇宙ではものごとをポジティブにとらえていいということではないか。であれば宇宙の摂理に従おう。夜空や、夢を、見上げつづけていこう。そこに届くと信じていいのだから。何かを見上げ、彼方を見据える姿は、見下ろすよりも、うつむくよりも、美しい。本書に登場する学者の方々も、小川さんも、皆、見上げつづける人たちだと感じた。

横里 隆 本誌編集長。6月25日に弊誌から創刊した文庫シリーズも、見上げつづけてきたものでした。書店でぜひ!

「自分が思うよりずっと遠い
向こうまで世界は続いている」

2年ほど前に「夢見たマンガの道具が現実に!?」という特集を作った。かつてマンガで描かれたテクノロジーが現代社会の中でどこまで実現されているのかを探る企画である。思った以上にいろいろなことが解明、開発されていて驚いた。そのとき何人かの科学者に取材させていただいたのだが、みなさん実に迷いがないなという印象を持った。この本に登場する科学者の方にも共通することだが、自分の研究がすぐに世の中に影響をもたらすということはなくとも、未来において有益であるという信念に揺らぎがない。科学者とは究極の論理的思考を持った究極のロマンティストであると再認識した。各章の最後に添えられた小川さんのコメントが味わい深い。

稲子美砂 「『ジャージの二人』スペシャルトーク×2」、読めば映画を10倍楽しめること必至です。ぜひ原作も

作家が描くと、研究テーマより、
科学者そのものが面白くなる

この本は、タイトルにあるように「扉をノックする」本であり、現代科学の門前で、ひょいと中を覗いている状態だ。でも宇宙のはじまりについてや、鉱物と岩石の違いなど、科学的知識は小川さんの文章で具体的にわかりやすくなっているので楽しいのだが、さすが作家、科学者たちの天真爛漫な無邪気さを見抜く力はすごい。そして研究者たちがみな「偶然や失敗の中にこそ、大発見のチャンスが潜んでいる」ということを知っているのだとも教えてくれる。ピンチと思っているその瞬間がまさに、何者かからギフトを頂いているときなのだと。それは私たちの日々にも活かしたい思考である。まぁ、ちょっとオカルトと紙一重でもあるけれどね。

岸本亜紀 セイコ文庫『オトコとオンナの深い穴』『新装版 東京リラックス』豪華描き下ろし!

科学の想像力
作家の想像力

本書の面白みはふたつある。ひとつは、知的好奇心への刺激。もうひとつは、小川洋子さんの想像力だ。たとえば遺体科学のレクチャー中にニホンカワウソの剥製を見れば、「どうして今、こんなところにこうしているのか、自分でも分からない。誰か教えて欲しい。そう問いかけているようだった」。その問いかけは、この宇宙に存在してしまった人間のものでもあって、作家の想像力は生と死へ向かう。「私は今日ほど安らかな気持で、死の話に耳を傾けたことはなかった」。「シロサイもツチブタもパンダも皆平等に死ぬ。だから私もいつか遺体になる。何も怖れることはない」。知的刺激の中にちらつく、安らかに冷たい死が、本書を独特のものにしている。

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なぜ? から始まる
小川洋子さんの物語

科学者のみなさんの言葉はもちろんそれ以上に、そこにたどり着く途上の小川さんの想像がすごくおもしろかった。小川さんのきらきらした想像と言葉に乗って、本当はたぶんとても遠い科学の扉まで行くことができる。たとえば子どもの頃に読んだ、ひとつの謎から始まる探偵小説や未知の世界を訪れる冒険小説みたいに思いながら、読みました。

飯田久美子 オーケン石がうさぎみたいでびっくり。あと映画のグーグーの脇腹がグルグルッてなっててびっくり。本当にいるんだ!

科学は私の童心をノックする
ワクワクしたい人はぜひ!

2章「鉱物は大地の芸術家」が個人的に面白かった。学生時代、初めて訪れた地球博物館で、こんなに素晴らしい芸術作品は見たことがないと思うほど、個性的で美しい“石”に感動し、その場に釘付けになったことを思い出した。私は今でもあの感動を覚えている。堀先生と小川さん、そして私は「美しい」と思う気持ちでつながっているのだ。

服部美穂 1特は「TEAM男子」特集。今、イチオシのチーム男子ドラマは『ROOKIES』! すっかりハマりました。オススメ!

世界の広さを垣間見た
あの頃の、あの感動を

小さい頃はご多分にもれず科学が大好きだった。子ども向けの科学誌を定期購読して、果てしない宇宙や、謎だらけの地球、古代の恐竜たちを想う。深淵に潜むなにかを明らかにすべく、科学の力で薄闇のベールが一枚ずつ慎重にはがされてゆくたびに世界が広がった。取材を通して著者が受けた感動が本書からひしと伝わり、あの頃の興奮が蘇った。

似田貝大介 『隣之怪 蔵の中』『怪談実話系』『マリオのUFO』『しんみみぶくろ5 幽霊学級』『幽談』『幽』9号……いっぱいでます!

大人になって振り返る
めくるめく科学の魅力

小学生の頃から理科が苦手だった私でもするすると楽しく読めた本書。小川洋子さんの素朴でユーモラスな疑問をわかりやすく紐解く7人の科学者たち。その言葉はみな優しさに満ちていて、科学の面白さを再発見しました。小川さんの〈美しいと、思うことは、科学への扉の一番の近道〉の言葉にも共感しきり。「宇宙」と「鉱物」の話が素敵でした。

重信裕加 今月は「ときめくTEAM男子!」特集。“朝まで語りたくなる”女子の気分も感じとっていただければ!


乙女度の高い科学指南書
科学はロマンだ!

星空や宝石のすばらしさを語る科学は、私が難しさのあまり目をそらしていた科学への食わず嫌いを和らげてくれた。しかも女子目線で進む解説は、わかりやすいし食いつきたくなる。科学って面白いかも、と思ったところで、お台場にある日本科学未来館がとても好きだったことを思い出した。……思い出したら行きたくなってきた!

鎌野静華 『夏目友人帳』特集で著者の緑川ゆき先生にご挨拶させていただきました。ほんわかした素敵な方でした!

知れば知るほど
世界は奥深く広がっていく

大人になるにつれて知らないことやできないことが増えていき、自分はひどくちっぽけで無力だと落ち込むことが多くなった。その反面、まだまだ「知る」ことができるってなんて幸せ、とも思ったりする。小川さんの静かにじっと耳を傾ける姿勢や文章にはっとさせられ、途方もない美しさを感じたのは、幸せの欠片が垣間見えたからではないだろうか。

野口桃子 携帯の待受を家族や犬猫にだけはしないと決めていた。従兄の2歳の娘のせいであっさり宗旨替え。なんか悔しい

ノックせずにはいられない
そこに扉があるのだから

原初の欲求を喚び起こされた。僕は大学3年で理系から文系に転向して以来、理系学問から遠ざかっていた。しかし本書に接し、再び理系学問への渇望が顕在化してきたのだ。あの美しき世界に、ただ純粋に憧れてやまない。魅惑的な扉の向こうに転がり込んでしまいたい。そんな、見失いかけていた扉の前に優しく導いてくれた本書に感謝したい。

中村優紀 夏です。夏はいろんな楽しみがありますが、川で鉱物を探したり、山で星を見たりするのもいいかも……

惚れ込んだ世界を語る彼らの
瞳のキラキラを私も見たい

語られた科学事象も面白かった(鉱物に奇跡と必然とを感じ、SPring -8に行きたくなり、粘菌の生き残り術に感心し、サイを煮たくなった、ほか)のだが、それ以上に、研究者らの瞳はさぞかしキラキラしていたのだろうと思った。科学に限らず、好きなものを語る人の瞳は輝き、それは聞き手にも伝播する。そんな素敵な空気を感じて幸せでした。

岩橋真実 内田康夫さんの新刊取材、ダンディかつ気さくなお人柄に惚れました。ほか、夏の文庫フェアの特集もよろしく

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