「読んでいて、なぜかイラッと来るところが、あなたの悩みへの正しいツボです」一条ゆかり新刊エッセイ『不倫、それは峠の茶屋に似ている』インタビュー

文芸・カルチャー

公開日:2022/7/26

一条ゆかりさん
(C)山田英博

『デザイナー』『有閑倶楽部』『砂の城』『プライド』……登場人物からこぼれた名ゼリフを胸に、人生の困難を乗り越えてきた読者は数知れず。さらに『実戦! 恋愛倶楽部』などのエッセイ著作も好評を博している一条ゆかりさんが、仕事、恋愛、美容、生き方と、さまざまな状況で悩みを抱えがちな現代人に向け、人生を前向きに生きるための金言の数々をおさめた大人向けエッセイ集『不倫、それは峠の茶屋に似ている』(集英社)を上梓した。人はなぜ悩むのか、ということから始まったインタビューは、軽やかでエッジの効いたおしゃべりのなか、どんどん核心に近づいて――。

(取材・文=河村道子 撮影=山田英博)

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不倫、それは峠の茶屋に似ている たるんだ心に一喝!! 一条ゆかりの金言集
不倫、それは峠の茶屋に似ている たるんだ心に一喝!! 一条ゆかりの金言集』(一条ゆかり/集英社)

――一条先生は昔から、いつでもどこでも本当によく人に相談されるそうですね。以前、ある雑誌の立食パーティーに出席したときは、先生に人生相談を受けるために長蛇の列ができたとか。

一条ゆかりさん(以下、一条) あのときはもう、ブースを作ってほしかったですね(笑)。なんでみんなこんなにウジウジ悩んでいるんだろうって不思議だったんですけど、でも、「どうしようかなぁ」って考えているときって、誰かに後ろからどついてほしいんですよね。可愛らしい言い方をするときっかけがほしい。でもきっかけがほしいということは、自分のなかではもう何をしたいか決まってるんです。決めているんなら、やればいいと思うんだけど、「そうよね」と言ってくれる人がほしくて、それを言ってくれる人を探す旅に延々と出かけているんでしょうね。

――あまりにもそうした人生相談、悩み事相談が多いから、「まとめて発信するほうが効率いい」と始められたのが、ウェブマガジン「OurAge」の連載「一条ゆかりの今週を乗り切る一言」。大反響を呼んだその連載を網羅した待望の1冊が、『不倫、それは峠の茶屋に似ている』です。サブタイトルどおり、まさに「たるんだ心に一喝!! 一条ゆかりの金言集」。そしてタイトルがもうこれ、禅問答かと思いました。

一条 『不倫、それは峠の茶屋に似ている』って、さすがにこのタイトルは集英社から、「ふしだらな!」って大反対されると思っていたの。そしたら大賛成されて、ちょっと拍子抜けしちゃった(笑)。この本のなかにある一編一編のタイトルになっている言葉は、長年、私がインタビューのなかで喋ってきたことのなかから、これぞ、というものを選んできました。私、昔から取材をされるたびに、キャッチコピーに困らない、「一条さんのお話って、キャッチコピーの宝庫ですね」と言われてきたんですよ。

――「秘密が守れないのは『バカ』と『小心者』」「会えない時間が育てるのは、愛ではなくて妄想です」「鯛を釣りたいなら、最低限、自分が海老になる必要がある」……。まさに人生を救うためのキャッチコピーばかりです。

一条 自分がかつて話した言葉を見ながら、その言葉の解説をするように、だらだら喋っているという構成になっています。でもその言葉を見たとき、よく言っていたのが、「私、こんなこと言った覚え、ないけど?」ってことでした。自分が言ったこと、忘れていても、「そのとおりじゃない!」って自画自賛していましたけどね(笑)。

――こうしてお話を伺っていても、キャッチコピーになりそうな言葉が、次々と先生から発せられて。そういうことからこの1冊が……。

一条 できちゃったんです(笑)。せっかく長い間生きてきて、ちょっと人と違う観点、考えを持っているということで、たまには誰かの役に立ってもいいかなって。

――“読む”というより、一条先生と対話しているような感覚になりますね。

一条 ちょっと耳に痛いことを言われるのは、自分にとって刺激になるんですよね。自分の考えとぴったり合う人と話すと、気持ちはいいんだけど、刺激にはならない。話が合わない人と喋っているとき、「そうじゃないんだけどな」「なんで、この人、わかんないのかしら」とストレスを感じるほうが思考も巡る。だからイラっとしたりするのは逆にいいこと、カンフル剤みたいなもんで(笑)。

 そして刺激を受けるために一番いいのは、何か新しいことをすること。ということで、私は韓国語を始めたんです。かつて私は英語に激しく挫折したんですよね、ただ暗記することに精神がもたなかったんですけど、なんか悔しかったんです。韓国語もやっぱりひたすらわけがわからないんですけど、いまだに地味に週に1回先生に来てもらっています。そして漫画の連載が終わったとき、ピアノに挑戦しようと心に決め、電子ピアノを買って習い始めたんですけど、韓国語とピアノ、2つもストレスを抱えるのはよくないので、ピアノは今、お休みをしているんです。電子ピアノの練習はベッドの上でもできるので、足腰立たなくなったときの楽しみにしようと。

「そうよね」と「え!? そうなったの?」が同居する描きおろしショート漫画「その後の有閑倶楽部」

――この1冊には、これまで先生が描かれてきた美麗イラストに金言が添えられたカラーページと、そしてなんと! 描き下ろしショート漫画「その後の有閑倶楽部」がおさめられています。

一条 あれ、大変だったんですよ。「(『有閑倶楽部』って)そのあとどうなっているんですか?」っていろんなところで訊かれるんですよね。いい機会かなと思ったので、『有閑倶楽部』のその後を皆さんがなんとなく、「そうよね」というのと、「え!? そうなったの!」という両方の要素を入れて描こうと思ったんだけど、6人もいるのよね(笑)。一番、困ったのが悠理。あの子のことを考えると、アフリカで動物とギャーと言っている場面しか出てこなくて(笑)。逆に美童はいろんなこと考えられたの。美童はすごい大失恋をして、日本になんかいたくないと言って、アフリカとか東南アジアの井戸掘りに行くとか。今まで綺麗なことしかしていなかったから土と戯れて、汗を出すカッコいい僕になろうとやっていたら、そこで現地のイケてるお姉さんと……なんて、どんどん考えられたの。別の意味で困ったのが魅録。いろんなことしたがるタイプだから。宇宙開発やりたそうだし、NASAにも行きたそうだし、と、いろんなことを考えまして。で、私が魅録だったら、自分が抱えて飛ばせる長距離ミサイルを撃ちたいだろうなと。だから自衛隊の資料をものすごく調べたんです。

――それがこの場面ですね。

不倫、それは峠の茶屋に似ている P186
(C)Yukari Ichijo 集英社

一条 たったのひとコマ。こんなちっちゃいのに、自衛隊の資料をひもときながら、3日もかけて描きました。魅録ってオタクだから、オタクの人がこの漫画を見たとき、「違うわよ」とか、「NASAに行きたいなんて、日本人が行けるコースは2つか3つくらいしかないわよ、ふふ、一条ゆかりってなんにも知らないのね」って言われるのがイヤだったから。魅録がNASAに行って火星行きのロケットに乗るためにはどうすればいいのかということも全部、詳細に調べたんですけど、ロケットのクルーが具合悪くなったときのための医学関係の人向けのコースもあるというので、じゃあ、清四郎を誘って一緒に行くというコースもあるなと(笑)。そんなに考えて描いたのが、たったのひとコマ! もったいなーい(笑)!

――でも、このひとコマからは一条先生の情熱をひしひしと感じます。

一条 で、最終的に悠理のとーちゃんを主人公にしようかなと思い立ち、メンバーみんなが、今、就いている職業はまったく問題ないんだけど、なんか「つまんないー」っていう路線にすることにしたんです。あとは、誰か、結婚してる? ということも考えてみました。可憐は私のなかでは多分、2、3回している(笑)。でも可憐は、専業主婦より仕事するほうが向いている。いい上司になりそうなタイプだから。野梨子もどうしているんだろう? と思ったとき、「そうだー! 聖プレジデント学園の理事長がいいんじゃないか」と。責任感も強いし、引き受けたらちゃんとやるだろうから。で、はじめに戻るけど、悠理はとにかく困っちゃった。馬と一緒にいるのもいいかな、世界一の女ジョッキーもいいかしら、とか、そんなことを考えていたら、とーちゃんがあることを決意し、そして悠理も、みんなも……と。描き出してみたら当初予定していたぺージでは足りない、どうしよう! ということになりながらも、頑張って仕上げたんです。

「これをうっとうしい友だちに言ってやろう!」と思いながら読むのが、読み方のコツです

――「ソク役に立つ! 一条式・成功の極意」「刺さって納得。恋愛のツボ」「懲りない面々。男というものは」「闘いはエンドレス。美と健康の求道」「冴え渡る洞察力。人間ってヤツは…」「幸福も不幸も自分次第! ネバーギブアップな人生訓」と、悩める人に刺さるコンテンツ満載のこの本を、皆さんにどんな風に読んでほしいと思っていますか?

一条 これ、読んだら友だちの愚痴に対して、お答えができるようになると思う。

――たしかに!

一条 まるで自分の知恵のように語れると思いますよ(笑)。私としてはそれぐらいこの本の言葉を身につけていただきたい。自分のために身につけようと思っても、意外とつかないのよ。けどこれが、いつもクドクド文句を言ってくる、うっとうしい友だちに言ってやろうと思うと、わりと身につくの(笑)。だから読み方のコツとしては、これを誰かに言ってやりたいと思いながら読むといいですね。一番いいのは、自分に言ってあげることなんだけど、人ってつい自分を守っちゃうからね、最初は「●●さんにこれ、言ってあげたいわ」という風に読み、さらに「自分も聞いてるか? ちゃんと聞いとけよ」という二段構えで読むのがいいですね。

――どうしても、自分を守っちゃうんですよね、特に40、50代になると。もう穏やかに生きたいよ、と思っちゃうんです。

一条 いや、自分の世界に入って穏やかに生きるのなんて、まだまだ先のことにしておいたほうがいいわね。

 私、20代のときに初めて、フランスにひとりで行ったのね。そのときフランスのマダムたちを見て、なんてイケてるんだ! と思ったの。大人になったら私も、こんな風に意地悪でカッコイイ女になりたい! と。小娘なんか逆らえないくらい、彼女たちの意地の悪さって的を射ているんですよ。私の描く女の人にはズケズケ言う、かっこいいマダムが出てくるでしょう。ああいうのが憧れなの。

――「すべての出会いには意味がある。この広い世の中で出会ったのは偶然じゃない」という金言から始まる一編のなかでは、「嫌な人との出会いは人生のなかのエクササイズ」、そこでは「我慢することも大事」と明言されています。相談事をすると大抵、「我慢しなくていいよ」という言葉が返ってくるんですけど、実はそこ、けっこうモヤモヤしていたので、「我慢が大事」という先生のひと言は目が覚めるようでした。

一条 いや、いいとこに目をつけてくれました。ひとかどの、まではいかなくても、ちゃんとした人間になろうとしたら、人は子どものときから延々と我慢しなきゃいけないんです。だって勉強なんかしたくないし、スポーツなんて我慢の連続でしょ。だから我慢というのは、人が良くなるための必要条件なんです。あと、我慢ができないとチャンスを逃す。チャンスって勝手に来るから。そのチャンスを的確につかむためには、今やりたいんだけど、我慢して、チャンスを待つための力を蓄えて待つしかないんです。「いや、私、それくらいの力、今も十分、ある」と思っていても、実力とチャンスが合ったときに成功するから、力だけがあってもダメなの。じゃあ、どうするかというと我慢するしかない。社会で成功した人は、ほぼ我慢している。我慢ってネガティブに聞こえるけど、自分をおさめる力なんです。人生で一番、うれしかったことを思い出してみてください。するとその前に、自分が相当な我慢していたことがわかるから。

――作中の「自分を正しく愛して、甘やかさないで、幸せにしてください」という先生のお言葉は、そのままこの本を表していますね。

一条 それ、なんてすばらしい言葉なの!

――これ、先生のお言葉です。

一条 え? ほんと? 自分が書いたこと、言ったこと、私みんな、忘れちゃうのよね(笑)。でもね、自分のこと知らない人ってほんとに多いの。

――この本には、自分を正しく知るためのエッセンスも凝縮されていると思うのですが、「こういう読み方をすれば、自分を知ることができます」というアドバイスがありましたらお聞かせください。

一条 読んでいるうちに、なんとなくイラッとする、ちょっと文句言いたくなる、そういう感じになるところが、押されて痛いその人の正しいツボだと思います。自分の困ったところって、人は無意識に隠してしまうんですよね。だから、「いや、私はそんなことないわ」って、ちょっと反発したくなるんですけど、それがまさしく「いや、あなたもその性格、持っているんだよ」ってことなんです。だからちょっとこの言葉、イラッとするなと思ったら、そこを中心に読むのがいいと思いますね。

――たとえば「淋しがり屋に余計な時間を与えてはいけない」とか、イラッと反応する人は多い気がします。

一条 めまいがするような淋しがり屋の友だちが私にはいてね。自分のつらさ、大変さを千回くらい言っても飽きないの。誰かに聞いてもらうと気持ちがいいのはわかるんだけど、「こんなに私は頑張っている。なのに、どうして私はこんなに不幸な目に遭っているんだろう」って繰り返し言うのよね。でもわかったの、この人、暇だからいけないんだなって。人は暇だとろくなことをしないのよ。ある程度、忙しくしていないと、自由になる少しの時間を、自分のために役立つ時間としてどう過ごそうか、真面目に考えられなくなるんです。

――そこでどうすればいいのかというお答えも、ぐさぐさ刺さってきます。時には耳が痛くなるこの1冊を、読者の方に手渡すにあたって、お言葉をいただけますか。

一条 自分探しの旅に出てお金を使うよりも、この本のなかで、自分を探したほうがいいですよ。この1冊で、自分探しの旅をしましょう(笑)!

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