「育児に関わるすべての人の不安に寄り添えたら」赤ちゃんの目線から描く転生コミック『赤ちゃんに転生した話』作者・茶々京色さんインタビュー

マンガ

公開日:2023/3/3

赤ちゃんに転生した話
赤ちゃんに転生した話』(茶々京色/KADOKAWA)

 ブラック企業で過労死した主人公が、大人の心を持ったまま赤ちゃんへと生まれ変わる『赤ちゃんに転生した話』(KADOKAWA)。主人公は、赤ちゃんに転生して「楽勝!」と喜んだはずが、想像以上に大変であることに気づいていきます。赤ちゃん特有のしぐさや行動の理由がリアルに描かれたストーリーが子育て世代の心をつかみ、Twitterで話題に。そして2月14日に書籍の発売が決定! 自身も一児の母である作者・茶々京色さんに、本作を描いたきっかけや書籍化に至った思いを伺いました。

取材・文/寳田真由美(オフィス・エム)

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――茶々さんは、もともと漫画やイラストを趣味で描かれていたそうですが、そもそも『赤ちゃんに転生した話』が生まれたきっかけは何だったのでしょう?

茶々京色さん(以下、茶々):私には2歳の娘がいますが、その娘がなかなか眠らない子で……。生後6カ月までは抱っこをしないと寝てくれない状態でした。とはいえ、抱っこ中は他のことができるでもなく…。気分転換に描き始めたのが最初です。それまでも育児エッセイはちょこちょこと描いていましたが、いつかはフィクションを描いてみたいと思っていたので、この機会にと始めました。

――作中には、「モロー反射」や授乳後のゲップ出しの辛さなど、赤ちゃんならではのさまざまな仕草や行動が赤ちゃん本人の目線で描かれています。こういった描写にはどんな思いが込められているのでしょうか?

茶々:根本にあるのは、「小児の発達は面白い!」というのを伝えたい思いです。たとえば「寝返りしたいのに、(肩が抜けなくて)寝返りができない」「うつ伏せになった状態から頭を浮かせたいのに、(手の位置取りが悪くて背筋がうまく使えず)、頭が上がらない」とか……。赤ちゃんは言葉で伝えられないので、大人目線で解説したら面白いと思いました。

――成人男性が赤ちゃんに転生するという設定は、とても斬新です。

茶々:赤ちゃんの成長過程での具体的な事柄をどうやって伝えようか考えたら、「これは赤ちゃん本人に代弁させるしかない、と思い、主人公が大人の心を持ったまま赤ちゃんに転生する話になりました。

赤ちゃんに転生した話

赤ちゃんに転生した話

――赤ちゃんの成長に合わせて進んでいく本作ですが、ご自身の子育て体験は反映されているのでしょうか?

茶々:いいえ。自分の経験は反映しないように心がけています。できるだけ参考書や医学書に忠実になるようにエピソードを考えており、嫁姑の関係なども、より面白い!と思っていただけるように描いています。

――ご自身の中で、特に印象に残っているエピソードはありますか?

茶々:うつ伏せの練習をする回ですね!

――主人公が発達を先取りして周りを驚かせようと、寝返りの練習をする回ですね。でも結局、その目論みはあえなく失敗に終わってしまうのですよね。

茶々:そうです。寝返りやハイハイといった体の発達に関わるシーンは、いつも楽しみに描いています。自分の娘を見ていても、頭を上げる時は首じゃなくて背筋が動いているんだなあと、改めて実感することもあり、そういった発見もきちんと裏付けをとって描いていきたいです。

赤ちゃんに転生した話

赤ちゃんに転生した話

――発達について正確に伝えたいという思いは作品からも伝わってきますね。

茶々:本作は、育児に関わるすべての人の不安に寄り添えたらと思いながら描いています。子育ての悩みについて調べると「愛情不足かも」とか「発達が遅いのが原因」など、不安をあおる情報にアクセスしやすいものです。でも、そういうことばかりではないと漫画で知っていれば、少しは安心して子育てできるのかなと思います。

――確かにそうですね。ところで、特に反響の大きかったエピソードはありますか?

茶々:最初の頃に描いた原始反射(赤ちゃんが刺激に対して反射的に起こす動きのこと)の話などは反響が大きかったです。「この動きって反射だったんだ」と感じてくれる方が多かったようです。

――原始反射とは、赤ちゃんが乳首に吸い付く吸啜反射などのことですね。ああいった反応は、赤ちゃんが生まれた時から備えている反射的な運動だとは知りませんでした。茶々さんは医療従事者ということもあり、小児の勉強もしていると思いますが、出産と育児を経験して自分の中で変わったことはありますか?

茶々:そうですね。教科書の中では、生後何カ月でだいたい何ができるようになるという目安があります。しかし、うちの娘は発達が早い方で、成長の個人差は大きく、一括りにしてはいけないなと感じました。

――それは驚きですね。発達が早いというのは、一見喜ばしいことのように思いますが……。

茶々:それがそうでもないんです。8カ月ごろにはつかまり立ちをしていたのですが、把握反射(赤ちゃんの手足に何らかの刺激を与えることで、無意識に握る仕草を見せること)から足をキュッと丸めたまま立つんです。だから足を痛めるのではないかと心配になり、家中の家具をどかして、ハイハイを促すようにして生活をしていました。

赤ちゃんに転生した話

赤ちゃんに転生した話

――仕事と育児を両立しながらの創作活動はお忙しいと思いますが、漫画を描く時間はどうやって捻出されているのでしょうか?

茶々:16時に退勤、17時には保育園のお迎え、食事やお風呂をすませて20~21時に娘と就寝します。そして私だけ朝4時に起きて漫画を描いています。娘が寝た後、22~23時頃まではちょっと描くこともありますが、夜は眠いのでわりと早めに寝ちゃっています。

――そんなハードな状況の中、漫画を描き続けられる理由はなんでしょうか?

茶々:一つめは、読者のみなさんからの声です。「赤ちゃんの行動の意味を知って、子どもが泣いていてもイライラしなくなった」「今まで分からなかったことに対応できるようになった」などのコメントをいただくと、とてもうれしくて。もう一つは、子どもが生まれたことで人生の活力ができたことです。頑張るというよりは、やるしかないという考え方にシフトチェンジできるようになりました。いろんな情報が飛び交う時代だからこそ、読んでくれるみなさんに正しい情報をきちんと発信していきたいです。

――ところで、この度の書籍化に対して、ご家族や周囲の反応はいかがでしょうか?

茶々:夫は、基本的に漫画の内容は見てませんが応援はしてくれています。家事や育児など、全面的に協力してもらっていて、本当に感謝しています。実は、周囲の人に書籍化のことは報告していなかったのですが、最近になって職場にばれてしまいました。漫画を描いていること自体は、もともと許可をとっていたので副業として問題はないのですが、「本が出来上がったらほしい」と上司に言われ、ちょっと恥ずかしいです(笑)。

――それはドキドキしますね。最後に、これまでの読者のみなさん、またこれから手に取られる方々に向けて、メッセージをお願いします。

茶々:現在、書籍化に向けて描き下ろしページに取り組んでいるところです。何度描き直しても数分後には細部が気になり、とにかく時間が足りません! 本が出来上がったら、ママやパパだけでなく、おじいちゃん、おばあちゃん、保育園の先生、独身の人も、子育てに携わる全ての人に手に取っていただけたらうれしいです。赤ちゃんは体の発達に加えて、精神発達も著しいスピードで成長していくので、お互いに支え合いながら子育てをしていけたらと思います。

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