ドラァグ・クイーンから学ぶ「話しやすい人」になることのススメ。承認欲求・自己肯定感の問題を超えて他者を尊重すべし【村本篤信インタビュー】

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公開日:2023/5/11

話しやすい人になれば人生が変わる
話しやすい人になれば人生が変わる』(村本篤信/アルファポリス)

 会話が弾まない、質問が浮かばずつい無言になってしまう、話し相手から「つまらない?」と聞かれる……新しい環境になった人も多いこの時期、人とのコミュニケーションに悩んでいる方にぜひお薦めしたい一冊が、脚本家、パフォーマー、歌手であり、ドラァグ・クイーンのエスムラルダとしても活躍するライターの村本篤信さんの著書『話しやすい人になれば人生が変わる』です。

 お互いに脚本家橋田壽賀子さんの作品が好きすぎて、ドラマ『おしん』について語り合うトークイベント「おしんナイト」を共催した本稿インタビュアーの成田も、村本さんが“話しやすい人”であることを実感しているひとりなのです。

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話しやすい人になると……
(1)人と話すことが増え、人の輪が広がりやすくなる
(2)情報が集まりやすくなる
(3)仕事がスムーズに進みやすくなる
(4)結果として、人生が楽しくなる

取材・文=成田全(ナリタタモツ)

■コミュニケーション術は人の数だけやり方がある

──村本さんがなぜ話しやすい人なのか、これまで実感はしていたのですが、それが文章化されていて「そういうことだったのか」と納得しました。

村本:ありがとう!

──もともとウェブ連載されていたものですが、どんな経緯で始まったのでしょう?

村本:ビジネス書を出しましょうという提案をいただいたんですけど、私は特に何かのスペシャリストではないので、どういうものがいいのか話し合っていくうちに、私が人から「話しやすい」と言われることがよくあって、それによってメリットを享受することも多いので、それならできるかなと。とは言っても学生時代はどちらかというと自分がしゃべる方で、それによって人と仲良くなれているのかなと思っていたんですけど、今思えば若さゆえの暴走というか、あまり相手のことを考えて話していなかった(笑)。会社員だった20代は発言をする意味をあまり考えず、ここで何か言っておかなきゃという承認欲求からの行動もありましたが、30代以降はライターの仕事などもあって話を聞く人としての比率が高まって、だんだんと慕ってくれる人が増えたという感じです。

──私が知っている村本さんは30代からなので、こちらの目をじっと見て「うん、うん」と言いながら頷き、面白かったりすると大きな声で笑ってリアクションをしてくれる人でした。そうやって聞いてもらえると、話している方も安心するんですよね。「ちゃんと聞いてくれているんだな」って。

村本:これから新しいことを始めようとしてワクワクしている人だったり、相手がポジティブな気持ちで話しているときに水を差すのはまったく意味がないし、会話泥棒をして自分の話を始める人ってどうかと思うよね。ましてやそれを自分がされたら嫌だし。だから年齢を問わず建設的に未来を考えている人ならきちんと話を聞いて、背中を押してあげたいんです。自分も話を聞いてもらったから夢が叶ってきたりもしているので。

──話しやすい人になれば人生が変わるし、話しやすい人に聞いてもらっても人生が変わる、ってことですね。また普通こういうノウハウ本って「こうしなさい」だけなんだけど、この本は「断定しない」「否定しない」と逃げ道がきちんと用意されていて、読む人に優しいなと感じました。

村本:ノウハウ本のセオリーとして「やるべきことはシンプルに、これだけやっておけばOK」の方がわかりやすいし、売れる可能性も高いんだけど、自分の名前で本を出すとなるとそれでは違和感があって。コミュニケーション術は人の数だけやり方があるから、ちょっとくどくはなっちゃうんだけど、いろいろなパターンを出したり、これが望ましいけどうまく行かないこともあるよ、というのを書いておかないと嘘になってしまうなと思って。自分がやっていないこと、嘘になることは書きたくなかったんです。

■手の内を明かしすぎた「テクニック編」

──本書は「テクニック編」からスタートしますが、私も取材のときにやっていることが言語化されていて非常に参考になりました。

村本:視線の合わせ方とか、「ちょっと手の内を明かしすぎたかな?」というところもあって、次からは取材をやりにくいかな、と思っていたりします(笑)。

──ですね(笑)。「話が広がらない」「質問が尽きてしまう」と悩んでいる人に参考になるなと思ったのは「質問という小石をちょっと投げ込む」という考え方。まず質問をして、出てきた話を拾いながら広げていく、というやり方はいつもやっていることだし、どう広げたらいいのか、ぜひ参考にしてもらいたいです。これを読んでいて、以前ある俳優さんに取材したとき、何を聞いても「はい」「そうなんですよ~」と中身のない返しをされて、用意した質問事項があっという間にネタ切れしたことを思い出したりしました(笑)。

村本:あ~、あるよね~そういうこと。私も某映画に出演した俳優さんに何を聞いても「別に」と同じ答えばかり返されて、それでもなんとか原稿を仕上げたら、事務所から「これは◯◯が話している感じではないです」と突き返されて「そもそも話してないじゃん!」となった、という話を耳にしたことがある(笑)。

──うわー! でもそういうケースは特殊だからね……って、話しやすい人にはこうやってついつい話してしまうんですよね(笑)。本書ではステージごとに「まとめ」があるので、「すぐ緊張してしまう」「相槌をどうしたらいいのか悩む」「つい自分のことを話してしまう」「準備はどうしたらいいのか」など、気になるところ、悩んでいるパートを拾って読めばすぐに役立つ作りになっていますよね。

村本:ひとつでも課題を抱えている方の解決の役に立てばいいな、という気持ちで書いているので、そうやって読んでもらえると嬉しいです。またこの本はジャンルとしてはノウハウ本だけど、読み物として楽しんでいただけたらなというのも基本にあるので、私の失敗談で笑ってもらうのでもOKです!(笑)

■テクニックだけではない、一歩踏み込んだ「マインド編」と「シチュエーション編」

──テクニック編に続き、話しやすい人がどう考えているのかを開陳する第2章「マインド編」で、さらに心の深いところへ入っていきます。

村本:話し方、聞き方のノウハウ本でここまで踏み込んで書いているのはそんなにないんじゃないかな、と思っていて。つい話しすぎてしまったりとか、人の話を遮ってしまったりする背景には、承認欲求とか自己肯定感の問題が必ずあるから、そこを書かないと上辺だけの本になってしまうかなと考えたんです。テクニックはテクニックとして使えたらいいけど、話す/聞くというコミュニケーションの根底には他者を尊重し、相手の気持ちを考えることがあって、そのために何が必要かというと、まずは自分を受け入れることが大事になる。でもこれはすごく難しいことだし、みんなができることではないかもしれないけど、そうなれればいいよね、という思いがあるんです。

──そこを踏まえて、第3章の「悪口が盛り上がっているとき」「苦手な人と話さないといけないとき」「相手の地雷を踏まないために/踏んでしまったらどうするか」など、ちょっと気まずいシチュエーションではどう切り抜けたらいいのかの「シチュエーション編」も参考になりました。

村本:アドバイスするときって、相手のことを思ってしているときもあれば、自分がそれを言いたいだけなときもあったり、「こんなこと言える自分、すごい」ということを確認するために言ってしまうこともある。この本はそういう人間の気持ちの根底を解き明かせたらいいな、と思って書いたんです。だから「逃げ道を作る」というのと「一歩踏み込んだところまで入れる」というのは、今回の本でやりたかった大きな2つのことだったんですよ。

──そこが村本さんの優しさであり、話しやすい人になる秘訣なのかも。では最後に読者の方へメッセージをお願いします。

村本:『話しやすい人になれば人生が変わる』は、人とのコミュニケーションに課題を抱えている方に読んでいただければ嬉しいですね。ただ「本にこう書かれているからこうしなきゃ!」と気負いすぎないで、できそうなところをやってみていただけるといいと思います。ここに書かれていることが必ずしも正解とは限らないので、無理なくやれそう、やってみようと思えることがあれば実践してもらって、やってみたけど効果がなさそうであれば、別の方法も試してみてください。コミュニケーションは人の数だけありますので、本書が皆さんの参考になれば幸いです!

村本篤信著『話しやすい人になれば人生が変わる』特設サイト
https://www.alphapolis.co.jp/business/special/hanashiyasuihito

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