GACKT×二階堂ふみに聞いた!『翔んで埼玉』続編のぶっ飛んだ唯一無二の世界観を大解剖

文芸・カルチャー

公開日:2023/11/22

 ※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年12月号からの転載になります。

GACKTさん、二階堂ふみさん

 「埼玉県人には、そこらへんの草でも食わせておけ!」──痛烈な埼玉ディスで全国民を衝撃と笑いの渦に巻き込み、一大ブームを巻き起こした『翔んで埼玉』。あの壮大な茶番劇から4年、ついに続編がやってくる!しかも今回は関西に進出し、東西対決に発展。ディスや郷土愛にも磨きがかかり、すべてが格段にスケールアップしている。主要キャストと制作スタッフ、『翔んで埼玉』ファンの著名人が語る、やりすぎ感あふれる続編の見どころとは?

(取材・文=野本由起 写真=江森康之)

ヘアメイク:タナベコウタ(GACKTさん)、ADACHI MARIKO(二階堂さん)スタイリング: Rockey(GACKTさん)、髙山エリ(二階堂さん) 衣装協力:HARAJUKU VILLAGE(TEL03-3405-8528)(GACKTさん)、ジャケット3万3000円、パンツ1万6500円(共にカイコー)、ピアス1万6500円(参考価格)(ポーンショップ ロンドン/ノウ ショールーム) (二階堂さん)

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二階堂:前作は、まさかここまでヒットするとは思いませんでしたよね(笑)。何もかもが信じられませんでした。

GACKT:正直、汚点にならなきゃいいなという感じでした。撮影している時は、これでいいのかどうかもわからなくて。撮り終えた時も「やりきった」というより、「本当に大丈夫か、これ」という気持ちが強かった。完成した映画を観て、ようやく「監督はこういうことがやりたかったのか」と感じたくらいでした。ましてや、それがここまでヒットするとは。ただのラッキーですよ。

二階堂:本当に運ですよね。

GACKT:日本アカデミー賞授賞式でも、ボクらだけは空気が違った。他のテーブルは、自分たちの作品が受賞すると「やった!」と盛り上がるのに、ボクらのテーブルは「この作品が選ばれちゃダメだろう」って。

二階堂:監督も「最優秀賞を取らないことが目標」とおっしゃっていましたから。でも、楽しかったです。今の時代、こういう作品は必要なんだと実感しました。前作では埼玉をディスりましたが、それは差別や分断、争いがいかにバカバカしいかを表現するため。ディスることが目的ではないので、気持ちよく観られますし、お客さんの笑い声でようやく映画が完成する作品だと思いました。

GACKT:「差別や分断はくだらないことなんだ」と伝えるために、大の大人がくだらないことを真剣にやっている。それも含めて、くだらないじゃないですか。でも、最終的に監督の力でとても面白い映画になっていて。しかも、ふみちゃんが言うとおり、お客さんの笑いも含めて作品が完成するのがいいよね。映画館で知らない人たちと笑いや感動を共有することで、その思いが倍増していく。スマホやタブレットを使って、ストリーミングで映画を観るのもいいけれど、わざわざ映画館に集まって感情を共有するところまで含めてエンターテインメントになっている。そういう意味でも、今の時代に必要な作品だと思いますね。

映画『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』

分断を「くだらない」と笑い合える世の中に

二階堂:とはいえ、続編が制作されるとは予想もしていなくて。正直、続編の話を聞いた時は、「やめたほうがいいです」と止めました(笑)。それでもやるとおっしゃるので、「じゃあ、台本を」と読ませていただいたら、これが面白くて。「この映画、観たい!」と素直に思いました。

GACKT:ボクも最初は「いや、やめましょう」と断って。「1作で終わらせたほうがいいですよ」「もういいじゃないですか」と。でも、どんどん話が進み、蓋を開けたら「ダメでしょ、こんな方々を集めたら」というキャストがそろっているし、バカバカしさも前作以上にスケールアップしているじゃないですか。「何に金使ってんだよ」「バカなの?」と思うシーンも多くて、大人の悪ふざけってひどいなと思いましたね。

二階堂:羽振りがいいですよね(笑)。

GACKT:ネタバレになるから言えないですけど、終盤はとてつもないスケールのシーンも描かれて。マジで必要ないでしょ、あの派手さ(笑)。

二階堂:今回は“白い粉”も登場しますよね。この表現だけでいろいろ連想させますし、これがまたバカバカしくて。新たに登場する杏さんや(片岡)愛之助さんには、「巻き込んでしまって本当にごめんなさい」と思いました。どちらも存在感のあるキャラクターですし、おふたりの活躍は必見です。

映画『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』

GACKT:愛之助さんの存在は非常に大きかったですね。悪の大阪府知事・嘉祥寺として登場しますが、劇中では大阪人の人情深さについても端々で語られて。嘉祥寺も実はいい人なんじゃないかと思わせる、あるワンシーンの説得力ある演技が素晴らしかったです。

二階堂:今回は麗が関西に向かいますが、百美は東京に残っていたので、現場で何が起きているのか想像できなかったんですよね。

GACKT:ボクの場合、撮影前半は新しいキャストの方々との共演が多くて。後半になって、ふみちゃんを現場で見た瞬間ほっとしました。少し離れていた彼女に会ったみたいな感覚でした。

二階堂:私は、同じ役を4年越しで演じるのが舞台以外では初めてで。しかも時系列としては、前作から3カ月後。「できるかな、ハードだな」と不安もありましたが、GACKTさんと久しぶりに役の衣装でお会いしたら、すんなり役に入れました。監督も相変わらずスパルタで、「もうちょっとテンション上げて」「もっとテンポよく」と流れを作ってくださったので必死についていきました。

GACKT:ふみちゃんの演技を見ると、そのテンションに引っ張られそうになるんですよ。でも、「ここはオープニングだしもう少し抑えよう」「ここは百美が主体のシーンだから、ボクは張り切りすぎないように」とバランスを考えながら演じました。

二階堂:麗は、中盤からとんでもないことになっていきますよね。「人の顔ってこんなに変わるんだ」というくらい人相まで変わって。衝撃シーンの連続でした。

GACKT:麗が大阪に毒されていくのですが、ボクがイメージしたのは竹内力さん。それを監督に伝えたら「うーん、とりあえずやってみましょう」って。やるだけやって現場でNGを食らっていたら、とんでもないダメージを受けたと思いますよ。百美は、横山やすしさんでしょ?

二階堂:「なんでっしゃろ」「〇〇や!」とコテコテの大阪弁を話すのですが、潜在的なイメージはやっさんでしたね。竹内力さんと横山やすしさんの共演(笑)。

GACKT:今回も本当にくだらないけれど、「くだらない」って何よりの褒め言葉だと思いますね。世の中には、実はくだらないことが多いじゃないですか。ふみちゃんが言った差別や分断、地域のぶつかり合いも、本来はすごくくだらないこと。それを「くだらない」と笑い合える世の中になったら、みんなもっと幸せになれると思います。

二階堂:その通りですね。皆さんも映画館に足を運んで、一緒に笑うことでぜひ作品を完成させてほしいです。その際には、大らかな気持ちで観ていただきたいですね。というか、大らかじゃないと観ていられないと思います(笑)。

GACKT:どうか赦す気持ちを持ってほしいですね。

GACKTさん、二階堂ふみさん
GACKT:「くだらない」は何よりの褒め言葉だと思います
二階堂:お客さんの笑い声でようやく映画が完成する作品

がくと●1973年、沖縄県生まれ。バンド活動を経て、99年にソロ活動を開始。ミュージシャンという枠にとらわれず、俳優、脚本家、演出家など“表現者”として多才ぶりを発揮する。2024年2月より全国5都市7公演のツアーを予定。

にかいどう・ふみ●1994年、沖縄県生まれ。2009年、役所広司監督映画『ガマの油』でスクリーンデビュー。近年の主な出演作は、映画『人間失格~太宰治と3人の女たち~』『ばるぼら』『月』、ドラマ『エール』『VIVANT』など。

映画『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』

映画『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』
11月23日(木・祝)全国公開
原作:魔夜峰央『このマンガがすごい!comics 翔んで埼玉』(宝島社) 
監督:武内英樹 脚本:徳永友一 
出演:GACKT二階堂ふみ、杏、片岡愛之助ほか 配給:東映
麻実麗(GACKT)率いる埼玉解放戦線の活躍により、自由と平和を手に入れた埼玉県人。麗と壇ノ浦百美(二階堂ふみ)は、埼玉県人の心を再びひとつにするため、越谷に海を作ろうと計画する。白浜の美しい砂を求め、未開の地・和歌山へ向かった麗。だが、関西では大阪の陰謀が渦巻き、やがて日本全土を巻き込む東西対決へと発展していく。
◎映画公式サイト

『ゲンスブール、かく語りき』書影

GACKTさんが表紙で持った本

『ゲンスブール、かく語りき』
永瀧達治 愛育社 1980円(税込)*品切れ重版未定
作曲家、作詞家、歌手、映画監督、俳優……。さまざまな顔を持つセルジュ・ゲンスブールの皮肉なユーモアにあふれた語録集。「ゲンスブールは、ダンディズムを提唱して生きてきた人。そこに興味を抱き、この本を手に取りました。彼の言葉は強烈だけど、その裏には深い思いがあります。例えば『最後の女か最後の煙草か、どちらかを選ばなくてはならないならば最後の煙草を選ぶ。捨てる時に楽だから』なんてフレーズ、震えますよね。額面通りに受け取るとひどいけれど、裏には愛がある。愛する人のそばより、ひとりで死ぬのが自分にはふさわしいと言っているんですよね。カッコよくあり続けるために努力すること、努力を行動に移すこと、そして哲学を持って生きること。その大切さを彼に教えられました」

『現代思想入門』書影

◎二階堂さんが表紙で持った本

『現代思想入門』
千葉雅也 講談社現代新書 990円(税込)
デリダ、ドゥルーズ、フーコーの3人を軸に、ポスト構造主義の哲学を解説。物事を単純化せず、現実を高解像度で捉えるための入門書。「SNSの普及によって、白と黒、善と悪のようなわかりやすい二項対立に人の感情が乗りやすくなったように感じます。矛盾を抱えることを許容せず、世の中が極端になっていますよね。もちろん、私も例外ではありません。そんな中、この本で現代思想に触れ、二項対立には向かわないよう、感情のパイプのつなぎ方をコントロールできるようになった気がします。人間は、そもそもグレーな生き物。グレーゾーンに居続けると精神的には消耗するけれど、そうやって思考を続けなければ争いは簡単に生まれてしまう。そんなことを考えました。生きづらい人こそ、読んでいただきたい一冊です」

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