「この世界の片隅に」各映画賞から愛される理由【アニメ映画が面白い!第7回】

アニメ部

2017/3/9

 2016年11月に公開した『この世界の片隅に』が公開から4ヵ月、いまだにロングランを続けている。メディアに取り上げられる機会も多い話題作だ。
 なかでも『この世界の片隅に』も目を惹くのが、映画賞レースでの怒涛の快進撃である。3月3日に、2016年の大ヒット作『君の名は。』を退けて、第40回日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞に輝いたばかり。これ以外でも、第71回毎日映画コンクール日本映画優秀賞/大藤信郎賞、第59回ブルーリボン賞作品賞、第26回東京スポーツ映画大賞作品賞……と、全てを挙げられないほどの賞を獲得している。

 むしろ世の中には、こんなにたくさん映画賞があるものかと驚かされるぐらいだ。毎年、映画ビジネスの締めくくりを賑わす映画賞は一体いくつあるのか? 
 ひとによっては多過ぎると感じることもあるかもしれない。しかし、映画賞はどれも似ているようで、全て異なる性格を持っている。異なる審査委員が、異なるやりかたで受賞作品を決めるからだ。毎日映画コンクールであれば、少数の専門家から構成される審査委員が話し合いで決定。文化庁メディア芸術祭大賞アニメーション部門も同じだ。審査委員の個性が強く反映され、審査委員の構成によっては意外性のある受賞も生まれる。
 日本アカデミー賞は数千人単位の協会員の投票で決まる。結果は世の中のムードとイコールになりがちで、知名度の高い大作に有利とも言われる。

 『この世界の片隅に』が、とりわけ話題を呼んだのはキネマ旬報ベスト・テンで日本映画ベストワンに輝いたことだ。対象作品はアニメだけでなく、実写映画も含む。
 90回目を迎えるキネマ旬報ベスト・テンは、日本どころか世界でも最古の歴史を誇る映画賞のひとつ。とはいえ、正直に言えば、キネマ旬報ベスト・テンがこれほど話題になった年も珍しい。

 今回の話題はキネマ旬報ベスト・テンとアニメ映画である『この世界の片隅に』の取り合わせの珍しさが理由だろう。キネマ旬報ベスト・テンは実写を中心とした映画評論家が点数形式で投票する。通常は社会性やドラマ性の強い作品がクローズアップされ、エンタテイメント性の強いアニメがベスト・テンに進出することは稀だ。そんなキネマ旬報ベスト・テンが『この世界の片隅に』を評価した、これが多くの人に注目された。
 『この世界の片隅に』の映画賞受賞は、アニメだけでなく、実写映画と並ぶ中でも評価されている。映像の世界では、アニメは番外地、独立した世界で、独立した評価があると思われがちだ。しかし、アニメも映像表現のひとつと、あらためて発見させてくれたのが『この世界の片隅に』である。

 様々なやりかたで、様々な作品を選び出す映画賞は、映画文化の多様性の現れだ。ところが時として、その様々な賞の大半をひとつの作品が攫ってしまうことがある。
2006年公開の細田守監督『時をかける少女』はそのひとつだ。日本アカデミー賞 最優秀アニメーション作品賞から、東京アニメアワード/アニメーション・オブ・ザ・イヤー、文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞、毎日映画コンクールアニメーション映画賞、アニメーション神戸賞……と、アニメに関連する賞を余すところなく受賞した。
 異なった評価軸にも関わらず、同じ作品が常に評価される。きっとそうした映画には、全て超える普遍的な何かがある。それこそが誰も認める名作だ。映画賞旋風を巻き起こす『この世界の片隅に』は、そんなもっとも新しい名作のひとつなのである。

この世界の片隅に

劇場版公式サイト
http://konosekai.jp/

<数土直志>
ジャーナリスト。アニメーション関する取材・執筆、アニメーションビジネスの調査・研究をする。「デジタルコンテンツ白書」、「アニメ産業レポート」執筆など。2002年に情報サイト「アニメ!アニメ!」、その後「アニメ!アニメ!ビズ」を立ち上げ編集長を務める。2012年に運営サイトを(株)イードに譲渡。

「この世界の片隅に」(C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会