アルコール依存症でも外では「おもしろいお父さん」…依存症に悩むすべての人に読んでもらいたい、渾身の作品!【インタビュー】

アニメ・マンガ

2017/9/16

『酔うと化け物になる父がつらい』(菊池真理子/秋田書店)

 9月15日に単行本として発売された『酔うと化け物になる父がつらい』(秋田書店)。「もしかして父はアルコール依存症だったのかも」という衝撃の気づきから、作品を描き始めた経緯を伺った【前編】に続き、さらに深いところまで突っ込んだ内容をお聞きしました。

■依存症になるのは「いい人」「優しい人」「断れない人」?

――菊池さんのお父さんは、外では「おもしろいお父さん」で、地域でも人気者だったということですが、外と内での落差についてはどう感じていましたか。

菊池真理子(以下菊) 「いいお父さん」と言われるたびに、自分が間違っているんじゃないかって感じてしまうんですよね。今でもそうなんですが、「自分は性格が悪すぎる」とずっと悩んでいて。母からも「絶対に人の悪口を言ってはいけない」と育てられたのに、守れない自分ってなんて嫌な人間なんだろう、と思っていたのですが……実は、父の影響も大きかったんだなと、この作品を描いていて気づきました。

――そんなご両親が亡くなった今も、菊池さんは家庭を持たないことを選んだんですよね。

 お酒を飲まないにしても、家族にすごく冷たくしてしまうだろう、という未来をリアルに想像できてしまって。私と父の関係を見た友人から「夫婦みたい」って言われたことがあったんです。夫が家事をやらないことに対してイライラしている妻みたいだって。結婚したら、またあの生活を送らなくちゃいけない、せっかく抜け出したのに地獄に戻ってしまうのか、という恐怖心はありますね。

――描く前と今は、変わりました?

 変わった部分もあります。なぜ酒を飲んで暴力を振るうダメ男と付き合ってしまったのか『酔うと化け物になる父がつらい』を描く前はわかってなかったんです。でも「めちゃくちゃな家庭から、別のめちゃくちゃに移っただけで、実はあれって私にとってすごく居心地が良い環境だったんだ」とわかったんです。殴られたり、嫌なことを言われたりしても、それが私にとっては普通の環境で、幸せな家庭の話をする人たちに囲まれるのは居心地が悪かった(笑)。でも今はそれがわかったので、もうやらないっていう選択ができるようになったと思います。

■ヒドい酔い方をする人は、周りが止めて!

――お父さんの飲酒によって、菊池さんの場合は「家族という関係」が壊れましたが、一緒に飲んでいた人たちに対して思うことはありましたか。

 最初は私も、近所の人たちが悪くて、環境が悪くて父はああなったと思っていたんです。でも私は、父は別の場所にいても同じことになったと思いますね。だから私は、ヒドい酔っ払い方をする人がいたら、周りが止めるのが一番と思ってるんです。「家族が飲ませないで」と言うなら飲ませたらいけない。もうそれに尽きると思います。

――「飲まなければいい人なんだけど」というのはよく言われることですが…。

 私の父のことを知っている友達で、このマンガは「フィクションだ」と思っていた人もいました。父の酔っ払ったところを見たことがないからわからないんですね。それくらい普段は穏やかで物静かな人だったんです。

■お酒以外の問題を抱えている方にも読んでもらいたい

――菊池さんは高校を卒業してから家を出るという選択肢もあったのに、留まりましたよね?

 母がいたら、私は家を出られたんだと思うんです。でも母がいないから私が家事をやらなくちゃ、お父さんにご飯を食べさせないと、というのがありましたね。男親ひとりって不安で。

――お父様のことが好きで「離れたくない」という気持ちもあったんでしょうね。

 今なら、そんなふうに父親のことをやってあげる必要がまったくなかったとわかるんですが。読者の方からもご家族の飲み方がヒドくて逃げている方がいたり、お父さんが暴れるので縄で縛っていますという人もいらっしゃいました。親御さんがアルコール依存症という中学生からの感想もありました。中学生くらいだと、親に対して何かするのは本当に難しいと思うので…。

 『酔うと化け物になる父がつらい』はアルコール依存症の話ですけど、それ以外で競馬やパチンコでお金を全部使ってしまう人だったり、家族に暴力を振るうDVだったり、家庭内の問題がある人に読んでもらうことで、「自分はツラいんだ」とわかってもらいたいですね。

――親の影響って多かれ少なかれあるし、心には何かしらの穴が開いているものですもんね。大人になってからでも「自分はツラいんだ」とわかればいろいろ楽になる人って多いはずですし、気づくのは何歳であっても遅いということはないと思います。

 このマンガは「こうしたら楽になれますよ」という物語ではなくて、「私の場合はこうでした」ということを描いた物語です。私は、自分の生きにくさや、両親が抱えていた問題に気づけたのはずいぶん大人になってからだったので…。この作品が誰かの「気づき」のきっかけになれたら嬉しいです。

――「内容がキツ過ぎて読むのやめました」という方もいるそうですけど、それは昔の菊池さんや、僕かもしれないですよね。「私は違う、ウチは変じゃない!」と思い込むことで自分を保とうとしているだけで。

 うん、そうですね。

――自分の気持ちに気付けていない人(自責する人)たちにこの作品が届くと、本当にいいですね。

 悩みの形は人それぞれ違うけれど、生きにくさの根っこは同じなんじゃないかなって。私もこの作品を描いて多くの方からお話を聞いて、本当にいろいろと気づかせてもらいました。

取材・構成・文=成田全(ナリタタモツ)

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[プロフィール]
きくち・まりこ マンガ家。1972年埼玉県生まれ。樹海や心霊スポットの探訪、昆虫食やホームレス体験、超激安海外旅行記など、可愛い絵柄とはギャップのある壮絶現場の突撃レポートを得意とする。主な作品に『あやしい取材に逝ってきました。』『あやしい男と失恋(ヤ)ってきました。』『キツい取材に逝ってきました。』など。『酔うと化け物になる父がつらい』は本名で執筆した初めての作品。