映画『最低。』が光をあてた「女の子たちの決断」/【対談】瀬々敬久(監督)×紗倉まな(原作)

エンタメ

2017/9/26

人気AV女優・紗倉まなの小説デビュー作『最低。』が映画化され、11月25日より全国公開される。メガホンを取ったのは、映画『64 -ロクヨン-』(原作・横山秀夫)で第40回日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞した瀬々敬久だ。同作は第30回東京国際映画祭コンペティション部門へのノミネートが決定しており、11月3日に発表されるグランプリの受賞が期待されている。作品に寄せる思いを、2人が初めて語り合った。

監督の瀬々敬久(右)と原作者で現役AV女優の紗倉まな

――映画化決定の一報と同時に、瀬々監督のコメントが発表されています。「ピンク映画で監督となってから30年近く、こういう小説と出会えたことを幸福に思います」。紗倉さんの小説とは、どのように出会われたんですか?

瀬々 プロデューサーに「こういう原作があるんだけど、映画にするのはどうかな?」って本を渡されたんです。僕は長いことピンク映画をやっていたので、AVの女優さんがAVのことを書いている、というところにまず興味がわきましたし、実際に読んでみると意外だなと思うところがいろいろあったんですよ。AVの話ではあるけれども、いわゆる「業界裏話」的な話にはしていないじゃないですか。家族とか友人とか、等身大の関係性の中でもがいている女性の話なんですよね。性愛とともにある日常、というか。


紗倉 私も女優を始める前は、「女優さんって普段どういう生活をしてるのかな?」って想像もしてなかったんです。この世界に入ってみたら意外と普通に暮らしている、人間味のある人がすごく多くて。お話を作る時も、そこを基盤にしたいなって思いは強くありました。

瀬々 紗倉さんよりずっと上の僕らの世代って、性愛が非日常だったんですね。性愛は向こう側で、日常はこっち側という世界観で生きていた。その頃作られていた映画や文学もそう。でも、最近は境界線があやふやになってきてるというか、日常の中に性愛っていうものが、アメーバのように入り込んできているじゃないですか。だって今や動画配信とかで、スマホでAVががんがん見られるわけでしょう。ピンク映画館に行かなければそういうものが観られなかった時代とは大違いですよ。

紗倉 確かに! 今はセックスが日常とは別ものって感じはないんじゃないかな、と思います。

瀬々 そういう時代に生きている女性像が、『最低。』には描かれていた。そこが面白いなと思って今回、監督をやらせてもらったんです。あとはね、若い女性が書いたわりにはっていう言い方もヘンだけど、根底にほの暗いものがある。文章も、乾いてますよね。

紗倉 ぱさついた感じというか、ささくれ感が……(笑)。

瀬々 そうそう(笑)。それがいいなと思ったんです。だって、そんなに人生って調子いいことばっかりじゃないじゃないですか。基本的にはみんな、ほの暗いものを抱えて生きているわけであって。

紗倉 映画を観ていてすごく嬉しかったのは、自分の文章の色味みたいなものに寄り添ってくださったのを感じたんです。『最低。』を読んで、あのお話がどんな色味でどんな体温かっていう感じ方って、答えがひとつじゃないじゃないですか。でも、自分の感覚にはぴったりきて、「私の書いた言葉がそのまま実写になった」って感じたんですよ。

瀬々 どんな小説でも、映画にする時の方法論は同じなんです。作品が持っているムードってあるじゃないですか。それをなるだけ感じ取って映画に移し替えることが重要なんじゃないかなあって。

映画『最低。』のワンシーン。元AV女優の母親役を高岡早紀が、
その娘を新人の山田愛奈が演じる

■原作にはなかった起承転結の「結」を描く

――原作は全4編の連作形式で、4人のヒロインそれぞれの物語が紡がれています。映画では1人少ない3人のヒロインの物語が同時並行で、シャッフルしながら進んでいくかたちですね。

瀬々 原作とは違うなって感じたでしょう?

紗倉 いえ、むしろ原作以上に素敵なものを作っていただけたって気持ちが大きいです。さすが瀬々さんというか、ありがたいなぁと思ったのは、私のお話って性描写がそんなに多くなかったと思うんですけど、映画の中ではたくさん描いてくださっていたじゃないですか。AV女優という職業の生き様もちゃんと、カメラで映してくださっていました。

瀬々 映画で軸になったのは、〈美穂〉だったと思うんですよね。1人の主婦が冒険をして、一歩踏み越えてAVの世界に入っていくお話じゃないですか。〈彩乃〉は最初からAV女優だし、〈あやこ〉はAV女優をしていた母の子ども。そういう意味では、〈美穂〉が観客にとって一番共感しやすい立ち位置なのかなと思うんです。だからこそ、踏み込んでいった世界もちゃんと描いていかないといけないし、美穂がどう思っているのか、性愛シーンの顔とかもちゃんと撮ろうと思ったんです。

映画『最低。』より。専業主婦の美穂(森口彩乃)は夫の健太(忍成修吾)の前で5年ぶりに裸体を見せる

紗倉 映画の中の光も印象的でした。〈美穂〉が乗ったタクシーの中から見える夜の東京の風景とか、本当にきれいで!

瀬々 映画の中では、東京の象徴として東京タワーを結構出しているんですよ。原作でも、東京って重要な要素になっていますよね。東京、イコールAV、イコール労働という感じで。そうだ、ひとつ聞きたいことがあって。原作の短編が4つとも、「起承転」で終わってるなって思ったんです。「結」がないんだよね。これはどうして?

紗倉 「終わらなくてもいいな」って、書いている時に思っていたんです。「お話を書いている」という意識もあったんですけど、「日常の断片を切り取ったものが小説だ」って、私の中で思うところがあって。それぞれの登場人物の人生の中で、決定的な瞬間だったり、残しておきたい瞬間だけを自分がかいつまんで書く、という意識のほうが強かったんです。


瀬々 『最低。』って実は、芥川賞か直木賞かって言ったら、芥川賞向きだよね。二作目の『凹凸』もすごく実験的な小説で、物語を書きたいっていうよりは、文章を書きたいタイプでしょう? 話の筋じゃなくて、描写で押していきたいタイプ。

紗倉 そうかもしれない!(笑)

瀬々 そこは原作の面白さだったんだけれども、映画にするうえでは、登場人物それぞれに結論を与えてやろうと思ったんです。もしかしたらね、世代の違いが大きいのかもしれない。登場人物たちがいろいろな関係性の中で、「転」で止まっちゃっているんだけど、やっぱり踏み込まなきゃいけないだろうと僕なんかは思っちゃうんですよ。「結」となるような決定的な出来事に向かって踏み込んでいかないと、いつまでたっても相手との関係性は変化しないと思うし、世の中で起きているいろいろな問題も解決しないと思ってしまう。

紗倉 映画を観て、女の子たちの決断がより濃く描かれているなって思いました。そこは私の文の中では描き切れなかった部分だったので、ありがたかったですし、観ていてめっちゃ泣いちゃったところだったんですよ。今日お話しさせていただいて、瀬々監督に『最低。』を撮ってもらえて、やっぱり本当に良かったなって思いました。

瀬々 いやいや、素晴らしい原作があってこそですから。僕のほうこそ、この映画が作れて本当に良かったです。

[プロフィール]
ぜぜ・たかひさ●1960年、大分県生まれ。京都大学在学中より自主映画を製作、助監督を経て1989年『課外授業 暴行』で監督デビュー。ピンク映画で活躍後、一般商業映画へ。『64-ロクヨン-』で第40回日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞。『最低。』では小川智子とともに脚本も手掛けた。

さくら・まな●1993年、千葉県生まれ。工業高等専門学校在学中の2012年にSODクリエイトの専属女優としてAVデビュー。2015年にはスカパー!アダルト放送大賞で史上初の三冠を達成する。2016年2月、『最低。』で作家デビュー。今年3月には、小説第二作『凹凸』を発表した。

◆映画紹介


映画『最低。』
監督:瀬々敬久 出演:森口彩乃、佐々木心音、山田愛奈、高岡早紀 製作・配給:KADOKAWA 11月25日公開●女子高生のあやこ(山田愛奈)、人気AV女優の彩乃(佐々木心音)、日常に耐え切れず新しい世界の扉を開く美穂(森口彩乃)。それぞれの現実を生きる3人の物語がシャッフルされ、最後に辿り着く場所とは?

◆原作紹介


『最低。』
紗倉まな
角川文庫
560円(税別)
釧路から上京し、人気AV女優として活動する彩乃。愛する男のためにAV女優として働く桃子。AV出演を決意した専業主婦の美穂。AV出演歴のある母親を受け入れられない少女、あやこ。4人の女性を巡る連作短編集が文庫化。14ページに及ぶ「あとがき」を収録。

試し読みはこちら⇒https://viewer-trial.bookwalker.jp/03/viewer.html?cid=e47aa5ae-dd2d-4f24-b710-819e792465f4&cty=0

取材・文:吉田大助
写真:飯岡拓也
(C)KADOKAWA 2017