小さな秘密と、ゆるやかな日常に目がはなせない!『スロウスタート』原作者・篤見唯子インタビュー

アニメ・マンガ

2018/2/17

同級生だけど、実は1つ年上。そんな秘密を抱える女の子と、その友達との日常を描いたTVアニメ『スロウスタート』が今、話題を集めている。「中学浪人」という設定が生まれた経緯、アニメの見どころについて、原作者の篤見唯子さんに話をうかがった。

TVアニメ「スロウスタート」キービジュアル
『スロウスタート』
原作:篤見唯子 監督:橋本裕之 シリーズ構成:井上美緒 キャラクターデザイン・総作画監督:安野将人 制作:A-1 Pictures 出演:近藤玲奈、伊藤彩沙、嶺内ともみ、長縄まりあ、M・A・O、内田真礼、沼倉愛美ほか 
TOKYO MX、関西テレビ、BS11ほかにて放送中。
Blu-ray & DVD全6巻発売決定! 各巻には篤見先生の描き下ろしマンガ掲載のブックレットも収録。

大人にとって、1、2歳の年齢差なんて取るに足らないもの。たとえ年が離れていても、共通の趣味や関心事があれば年齢を気にせず仲良くなれるだろう。でも、それが中高生ともなれば話は変わってくる。ほんの1歳の違いが、高い壁のようにも感じられるかもしれない。

そんな「1歳違い」という秘密を抱えるのが、『スロウスタート』の主人公・一之瀬花名。高校入試の前日、おたふく風邪にかかったため、彼女はもう一度受験生からやり直すことに。1年のブランクを経て高校に入学したものの、人見知りな性格もあって不安でいっぱい。それでも入学初日から百地たまて、十倉栄依子、千石冠という3人の友達ができ、高校生活はゆるやかにスタートする。だけど、自分が「中学浪人」だったことはなかなか言い出せなくて……。

花名と彼女の友人たちとの日常を描いたTVアニメ『スロウスタート』が、今じんわりと人気を広げている。原作は、『まんがタイムきらら』で連載中の同名コミック。作者の篤見唯子さんは、アニメ化の知らせを聞き、ただただ驚いたと話す。

「編集さんから『お話があります』と言われたので、てっきり連載打ち切りかと思いました(笑)」

中学浪人という設定が生まれた経緯については、次のように振り返る。

「最初に考えていたのは、秘密を抱える人見知りの女の子が、3人の友達と仲良くなっていくお話でした。どんな秘密にしようか案を出す中で、ふと思いついたのが“1年遅れ”という設定。主人公がひとりだけ宇宙人で、みんなとギクシャクしながらも仲良くなっていく、なんてアイデアもありました(笑)。花名のメンタルは小学6年生くらいなので、1年の差をそれこそ人間と宇宙人ぐらいの違いに感じていそうですよね」

ともすると重たくなりそうな設定だが、愛らしい女の子たちに心癒やされるほのぼのした作品に仕上がっている。

「最初に描いた時は、すごくどんよりした話になってしまったんです。花名が浪人して家で引きこもっている時に、中学の友達から『どこの高校に行ったの?』と手紙が来るような展開で、『さすがにこれはつらい』と一から描き直しました。結果的には、周りのキャラクターの明るさに引っ張られ、重すぎないお話になったのではないかと思います。『これはNGかな』と思うような下ネタも、編集さんから意外とOKが出るので、生々しくならない程度に入れています(笑)。シリアスとギャグの振れ幅が大きいのですが、どちらにもついていけるキャラクターになったのではないでしょうか」

TVアニメ「スロウスタート」サブカット
一之瀬花名(いちのせ・はな)
高校入試の前日におたふく風邪にかかり、中学浪人をしていた秘密を抱える。引っ込み思案だが優しい性格。

TVアニメ「スロウスタート」サブカット
十倉栄依子(とくら・えいこ)
大人っぽい性格で、入学4日でクラス全員の名前を呼び捨てにするほど社交的。中学時代から同性にモテていた。

TVアニメ「スロウスタート」サブカット
千石 冠(せんごく・かむり)
とても小柄で、知らない人には人見知り気味だが、食べることが大好きで、足が速い。小学校が同じ栄依子に懐いている。

TVアニメ「スロウスタート」サブカット
百地たまて(ももち・たまて)
明るく元気でマイペースな性格。4人のムードメーカー。料理の腕はプロ並みである。栄依子とは中学校が同じだった。

少しずつ距離が縮まる4人の空気感を楽しんでほしい

アニメ化にあたり、篤見さんも脚本会議に参加。キャラクターの細かなイメージについて、意見を述べているという。

「そのキャラクターらしさが出るようにセリフを監修したり、耳で聞いた時にわかりやすい表現に替えていただいたりしています。例えば、花名がクラスメイトの高橋さんに話しかけるシーン。当初のアニメの脚本では、花名が『下の名前で呼んでいい?』と言うことになっていましたが、私の中では花名はそういうことは言わない子なんです。『ここは最後まで“高橋さん”で』とお願いしました」

最初はおずおずと仲間の輪に加わっていた花名が、3人の友達に対して少しずつ心を開いていく。そのゆっくりとした成長もいとおしい。

「最初は花名に対して軽口をたたいていた3人ですが、『あ、この子は雑に扱っちゃダメなんだな。傷つきやすい子なんだな』とだんだん覚えていくんです。その距離感にも注目してほしいですね」

同じアパートに暮らす大学浪人生・万年大会さんも、ユニークな存在だ。花名以上に人見知りが激しく、コンビニに出かけることさえできない万年さんの前では、花名がちょっと大人に見えてくる。

「花名にとっては、“もうひとりの自分”のような存在。自分が中学浪人だったことを、初めて話せた相手でもあります。さすがの花名も、万年さんに対しては『このまま自分が受け身でいたらヤバイ』と思ったんでしょうね。万年さんにだけは、ちょっとだけ強い態度に出ることもあります」

いつもぺったり張り付いている栄依子と冠、栄依子のラブコールをクールにかわす榎並先生など、ほんのり香る百合テイストも作品を華やかにしている。

「完全に私の趣味です(笑)。女の子同士だと、お風呂に乱入しても『出ていけ!』とはなりませんよね。お互いを意識してドキドキしながらも、そのまま会話に持ち込めるのが素敵だなと」

1月からスタートしたアニメは、今まさに中盤に差し掛かったところ。1話完結なので、途中からでも問題なく楽しめる。

「声や動きが加わったことで、花名たちのかわいさも増しています。自分の絵ではないので単行本を読み返す時のような恥ずかしさもなく、私自身も『かわいいなー』と一視聴者として楽しんでいます。1、2話では花名たち4人がまだ微妙に距離をつかめず少しぎこちない雰囲気でしたが、3話あたりからグッと距離が縮まり、今ではすっかり仲良しに。その和やかな雰囲気を楽しんでいただけるとうれしいです。中盤を見てから1話にさかのぼると、4人の間に流れる空気の違いが感じられると思います」

果たして花名は、友達に“秘密”を告白できるのか。そのあたりも見どころのひとつ。原作では今なお告白できずにいるが……?

「6巻からは花名の秘密に踏み込み、少しずつ核心に近づいていきます。とはいえ、『告白したら終わり』ではありません。応援していただける限り、花名たち4人をずっと描き続けていきたいと思います」

篤見唯子
とくみ・ゆいこ●雑誌『マジキュー』の読者参加企画『瓶詰妖精』でキャラクターデザインを手がけ、注目を集める。2013年より『まんがタイムきらら』で『スロウスタート』を連載中。

 

取材・文:野本由起 (c)篤見唯子・芳文社/スロウスタート製作委員会

原作マンガ

スロウスタート1巻書影

『スロウスタート』(1〜5巻)
篤見唯子
芳文社まんがタイムKRC 各819円(税別)
おたふく風邪が原因で、高校入試を受けられなかった一之瀬花名。遠く離れた地で1年遅れて高校に入学したものの、クラスメイトにはなかなか本当のことが言えなくて……。人見知りで不器用な花名と、その仲間たちとの日常を描いたほのぼの×ギャグ×百合4コマ。ゆっくりと、でも着実に前に進む花名を応援したくなるはず。