お互いべた褒め! 矢部太郎×近藤聡乃「ニューヨークでも新宿でも考え中、近藤さんと僕」イベントレポート

エンタメ

2018/4/25

矢部太郎さん、近藤聡乃さん
(C)新潮社写真部

 21万部を超える大ヒットマンガ『大家さんと僕』を生み出し、第22回「手塚治虫文化賞 短編賞」を受賞したカラテカの矢部太郎さんと、3年ぶりとなる待望の第2巻が今年発売となったマンガ『ニューヨークで考え中』の近藤聡乃さんが、神楽坂「la kagu」で「ニューヨークでも新宿でも考え中、近藤さんと僕」と題し、トークを繰り広げました。

『ニューヨークで考え中』(近藤聡乃/亜紀書房)
近藤聡乃 1980年千葉県生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒。文化庁新進芸術家海外留学制度、ポーラ美術振興財団の助成を受け、2008年よりニューヨーク在住。アーティストとしてアニメーション、ドローイング、油彩画、マンガなど様々な作品を発表している。現在Webマガジン「あき地」で『ニューヨークで考え中』(亜紀書房)を、『ハルタ』で『A子さんの恋人』(KADOKAWA)を連載中。

『大家さんと僕』(矢部太郎/新潮社)
矢部太郎 1977年東京都生まれ。東京学芸大学教育学部除籍。高校の同級生だった入江慎也と97年にお笑いコンビ「カラテカ」を結成(ボケとネタを担当)。芸人以外にも個性派俳優としてドラマや映画、舞台でも活躍。気象予報士の資格も持つ。父親は絵本作家のやべみつのり。2017年、初のマンガ作品『大家さんと僕』(新潮社)を出版、21万部を超えるヒットに。同作で第22回「手塚治虫文化賞 短編賞」を受賞。

■『コミックH』と『ブレイクもの!』

(C)新潮社写真部
(C)新潮社写真部

 海を越え、ニューヨークの近藤さんの手に渡ったという矢部さんの『大家さんと僕』。編集者から本を送ってもらうと「なんとか褒めないといけない」と焦るときもあるが「今回はいろいろと浮かんでくる言葉があって、いつかお会い出来たらいいですね、と担当者の方と長文のメールをしていました。なので今日はお会い出来てよかった」という近藤さんの言葉に、ずっと前からファンだという矢部さんは「すっごいうれしいです!」と喜びいっぱい。さらに満席の会場を見渡し、「今日もこんなにたくさんのお客さんがいて……僕のマネージャーがさっき『カラテカのライブじゃこんなに人が来ない』と言ってました。近藤さんのことがお好きな皆さんと、近藤さんのお話を聞きたいなと思うので、よろしくお願いします」と自虐ネタを炸裂させていました。

 その矢部さん、『コミックH』(ロッキング・オンの雑誌『H』の別冊として2000~2004年に発行されたコミック雑誌)で初めて近藤作品を目にして、「『虫時計』(『はこにわ虫』青林工藝舎)とかは結構トラウマというか、『コミックH』の中でもちょっと異質というか」とコメント。また近藤さんが矢部さんを初めて見たのは、とある深夜番組だったそうで…… 「相方の入江さんが『歌丸やせ我慢』って言うと、矢部さんが震える、みたいなネタを覚えていて」「フジテレビでやっていた『ブレイクもの!』(1998年放送)っていうネタ番組があって、田代まさしさんが司会をしていたんですけど、そこで5週勝ち抜いた人は4分のネタをやってよくて、そこでやったんです。あの番組を見たと言われたのは、能町みね子さん以来2人目です!」と、その記憶力の凄さに会場が沸いていました。

 また近藤さんが18歳の高校生のときに初めて描いたという『女子校生活のしおり』も登場。「当時通っていた美術予備校のコンクールがあって、なんでも出展してよくて。それでこれを描いて優勝しました」 ちなみに扉絵に書かれた出席番号は、実際に近藤さんが使っていた番号そのままだそうです。

 そしてカラテカが普段どんなネタをやっているのか、ここで動画を見ることになるものの、まさかの再生不能トラブルが発生。「カラテカをウィンドウズが拒否してますね! すごいホッとしてます。え、最後に見ます?……いやいや、いい感じで終わりましょうよ!」と、本業であるはずの漫才を見られることになぜか焦る矢部さんでした。

(C)新潮社写真部

■『ニューヨークで考え中』の好きなところ

 最近は連載を抱えているため「日常生活の100%くらいマンガを描いている」という近藤さん。スクリーントーンをほとんど使わず、ひとりですべて作業をしているそうです。対する矢部さんの日々は、マネージャーから「明日はここへ行ってください」とメールが来る、本人曰く「日雇いみたいな状態」なんだそう。またマンガを描く作業のときには日本のラジオを聞いているという近藤さん。海外にいる日本人は「日本語を聞きたい」と思うそうで、「ぜひラジコを海外でも聞けるようにしてもらいたい!」と切望。ラジオ関係者の方々、どうぞよろしくお願いします。

 そして話はお互いの作品の好きなエピソード紹介へ。

 矢部さんは、お気に入りの靴を道行く人たちに褒められるエピソード(第1巻収録「第七話 お気に入りの靴 その一」「第八話 お気に入りの靴 その二」)が好きと語り、「テンポがすごいいいですよね。ニューヨークってこんな感じなのかなって」と言うと、「結構見知らぬ人の持ち物を褒めたりしますね。私も何度か褒めたことがあります。日本ではやってなかったですけど」と近藤さん。また電線にスニーカーが吊り下がっている回(第2巻収録『第百二十四話 妙案はないか』)や、日本語を習い始めた近藤さんの夫が平仮名の「ふ」がかわいい、というオチの話(第1巻収録「第五十三話 はじめての日本語」)などをあげていました。

 そこから「アルファベットの何が可愛いか、とかって覚えてないじゃないですか」という話になり、矢部さんは「覚えてないなぁ~……でも僕は兵庫県が可愛いなって思いました。タコみたいな形してるんですよ」「私は富山が可愛いな。ネコの形をしてるんですよ。富山県民がそう言ってました」「群馬が鳥っぽい形ですよね」とまさかの「◯◯県の形がカワイイ」という話へと展開しました。

「夫は『ふ』が可愛かったことはもう忘れてると思う」という近藤さんに「でもマンガに描いたから残ってるわけですよね。ところで旦那さんはこれ読んでるんですか?」と返した矢部さん。「一応、こんな話を描いてるよ、みたいな説明はする」そうですが、先日義理の娘さんが日本語のできるルームメイトに訳してもらって、ちょっと気になる表現があったそう。「19歳のお年頃だから気になっちゃうみたいで。でも話し合いの結果『アキノの好きにしたらいい』と言ってくれました」

(C)新潮社写真部

■『大家さんと僕』の好きなところ

(C)新潮社写真部

 近藤さんは、大家さんが若かりし頃にダンスパーティーをした際、「貫一・お宮」「太宰治・山崎富栄」と書かれた紙を引いてペアリングをしたエピソードをあげ、矢部さんと大家さんが太宰が情死した玉川上水の現場を訪れたことについて「山崎富栄という名前を知らなかったんですが、私はちゃんとした理由があってデート場所を選ぶことをしたことがないので、素敵だなと思いました」と語っていました。

 そして矢部さんがもらった真っ赤なスーツケースから出てきた、大家さんの元夫が描いたというという栄螺の絵について、「結婚相手に栄螺に例えられるのってあんまりよくないんじゃないかな、って気がしまして。私が受けた印象だと「心を閉ざしている」っていう。貝に例えられているって。だからあんまり幸せじゃなかったのかな」と近藤さんが指摘すると、矢部さんは「あー、そうですね! 全然気づかなかった! 殻があって、そんなふうに見えたんですかね」と驚きの声をあげていました。近藤さんは「でもマンガを読むと、大家さんってすごい素敵な方じゃないですか。そういう方でも、うまくいかないときはうまくいかないんだなって、ちょっと気楽になる」と、さらなる深読みをされていました。

 また矢部さんが風の強い日に大家さんの手を引いて行くシーンについて、近藤さんが『ニューヨークで考え中』にも出てくる85歳になる義母の手を引いて歩くときに「自分の親にすらこんなに親切にしたことがないのに、と親切なことをしているけど罪悪感が湧いてくる」と心情を吐露。矢部さんも「自分の親には照れくさくてなかなか親孝行できない」と同じような状態であることを説明、すると「みんなが他人の親に親孝行すれば、全員回ってきますね」という近藤さんのひと言で丸く収まりました。ただ矢部さんは『大家さんと僕』の感想を母親から一切聞いたことがないそうで、近藤さんの話を聞いて心配になったらしく、「ちょっと……母の日近いんで、なんかします!」と慌てていました。

 さらに近藤さんは「ライオンちゃんが怖かったのってすごくおかしい」とフジテレビで放送されていた『ごきげんよう』に大家さんと出演した回、そして大家さんが吉本新喜劇を観覧後に「皆さんお笑いを取られて素晴らしいですね」「そんな中一人シリアスな演技 さすが矢部さんでした」という話をあげていました。寝る前に思い出して、つい笑ってしまうことがあるそうです。

(C)新潮社写真部

■お互いの感想をマンガに!

 そして今回のイベントで特別に初披露されたのが、お互いのマンガを読んでの感想をマンガにしたもの。



「小説とか、人のマンガを読んで、たまにすごくこう……この作者とは気が合わなそうだなって思うことがあるんですよ。言い回しが嫌とか、具体的な出来事や嫌というのではなくて、ちょっとしたことでそう思ったりすることがあるんです。なのでエッセイマンガだと、もっと事実なことを描いているから、人柄が出るだろうなと思ったんです。そういった意味でも『大家さんと僕』は素敵でした。だから今ごろ矢部さんはモテモテになっているだろう、と思っていたんです」と近藤さん。

 すると矢部さんは「いや、もう全然そんなことないです……」と恐縮。さらに「こうやって自分のためにマンガを描いていただくのって初めてで、ちゃんと絵柄が『ニューヨークで考え中』だし、うれしい! でもちゃんと感想マンガですね! 僕は感想じゃないかも、ヤベェ……」と焦り気味に!


「トロカデロ・デ・モンテカルロバレエ団っていう、男の人だけのバレエ団で踊るテレビの企画で一回だけニューヨークへ行ったことがあるんです。もうすごい大変で、一週間練習ばっかりしてたんですけど、一回だけ外に出たことがあるんですね、カフェへ行こうと思って。ニューヨークっていうと、このときの感じを思い出すんですよ。でも結局マクドナルドへ行って……やっぱ、入れなくないですか?(笑) それで『Coffee』は発音が難しいから、『Coke』ならカ行だけだからいける、と思って『ワン・コーク・プリーズ!』って言ったんです。そしたら出てきたのが『パンケーキ』」と、このコマで会場は爆笑!

 さらに「『Water』なんて絶対言えない!と思って、パンケーキ・オンリーで食べました……」という切ないオチのコマで再び爆笑となりました。近藤さんは「私も決して英語の発音は上達してないんですけど、だんだん通じない状況に慣れてくるんですよ。『どうせ通じない』みたいな。だからパンケーキが出てきても、『まあそんなもんだろう』って」と慰めていらっしゃいました。

「ニューヨーク行ってみたいですね」と言う矢部さんに、「ベーグルがもちもちしていて美味しいのでぜひ来てください」というお誘いがあったので、今後矢部さんが『ニューヨークで考え中』に登場する日も近いかも?

(C)新潮社写真部

■ついに『大家さんと僕』の続編が!

 今後の話を聞かれ、「大家さんくらいのお年になるまで頑張って、とは思ってるんですけど」と答えた近藤さん。1巻出るのに約3年かかるという『ニューヨークで考え中』について「80歳くらいまで続けたら、結構な大作ですよね。となると、あと20巻……表紙の色のバリエーションがなくなりそうですね」とまんざらでもないご様子でした。さらに「矢部さんはこれからも大家さんとのお話は書くんですか?」と質問すると……

「大家さんとの話はこれ1冊だけと思ってたんですけど、そう言うと先輩芸人から『大家さんのためにも早く描け!』と言われるので、描いてもいいかな、と。僕が大家さんを描いた責任、みたいなものもあるじゃないですか? でも『ここから先はもう描きたくない!』みたいな気持ちになるかもしれないので……2巻がすごい薄くなる可能性もあります」と答えた矢部さん。実はこのときまだ秘密だったのですが、『週刊新潮』4月25日発売号から、『大家さんと僕』の続編の連載がスタートすることになったのです! イベント終了後、矢部さんにお話を伺うと「今の段階では話のストックはあるんですが、週刊連載なので、ペースを崩さないようやっていけたら、と。土日は比較的仕事が少ないので、そこで描いていく連載のペースができたらいいなと思っています」とコメント。大家さんとの新たなエピソード、楽しみですね!

 最後にマンガを描き続けていくことへの意気込みを聞かれると、「近藤さんに読んでもらいたいので」「じゃあ私も矢部さんのために頑張って描きます」と言い合うお二人。

(C)新潮社写真部

 ただ近藤さんは、目下の悩みがあるそうで…… 「キャラクターの見た目の年齢が、実年齢に合わなくなってきていて、うまくちょっとずつ年を取らせたいんですけど、なかなか難しくて。シワを一本増やすと一気に老けてしまうので……でもこのまま行くと、50歳になる頃にはキャラクターと全然違う感じになってしまうし。そこが課題です」と語っていらっしゃいました。それを聞いた矢部さん、「僕は入居した当時坊主だったんですよ。この頃の感じで僕自身を描いているんですが、大家さん的にも『戦時中ぽくていい』みたいなところがあったのかなと……年齢問題、ありますね!」と、今後髪が伸びたキャラクターになるかもしれない可能性を示唆していました。

 ただ最近、調子が悪いと左から右へ引く横棒が描きにくいという近藤さん。「線がうまく引けなくなりそうなのが心配」と言うと、矢部さんは「それも楽しめちゃうんじゃないですか? 落語とかも名人芸というか、フラがあった方がいいじゃないですか。その境地に行くんじゃないですかね?」と返し、近藤さんの「じゃあそういうことにしておきます(笑)」と継続宣言が出たところで、「ニューヨークでも新宿でも考え中、近藤さんと僕」は終了。

 サイン会も盛況で、矢部さんはとなりでサラサラとイラストを描く近藤さんを間近で見られたことに、いたく感動されていました。

(C)新潮社写真部

取材・文=成田全(ナリタタモツ)