有村架純「人間の黒く汚らしい部分を隠さずに描いている小説が好きです。男に依存して奈落の底に墜ちていく『雨心中』の芳子もいつか演じてみたい」

あの人と本の話 and more

2018/9/6

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、本屋大賞にノミネートした川口俊和さんのベストセラー小説を映画化した『コーヒーが冷めないうちに』で、主人公の時田数を演じた有村架純さん。4回泣けると話題になったこの物語に寄せる思いについて、そして、2年前に読んだときの衝撃が忘れられないという唯川恵さんの小説『雨心中』について語ってもらった。

有村架純さん
有村架純
ありむら・かすみ●1993年生まれ、兵庫県出身。2010年に女優デビュー。NHK連続テレビ小説『あまちゃん』で一躍人気に。『映画 ビリギャル』で第58回ブルーリボン賞主演女優賞、第39回日本アカデミー賞優秀主演女優賞、新人俳優賞をダブル受賞。NHK連続テレビ小説『ひよっこ』の主演を務め国民的女優として人気を博す。
ヘアメイク:尾曲いずみ(STORM) スタイリング:瀬川結美子(NOMA) 衣装協力:ワンピース(ホフマン コペンハーゲン/ハルミ ショールーム TEL03-6433-5395)、パールイヤリング(キュベ TEL048-256-7071)

「NHKの連続テレビ小説『ひよっこ』で主演させていただいた時、ロケが一日オフの時に一気読みしちゃって。ただの恋愛小説じゃなくて、ちょっとホラー的な怖さも感じる男女の関係から目が離せなくなったんです。そして、読み終わった後、愛ってなんだろう?と呆然としてしまいました」。

 そう有村架純さんが語るのは、読書家のインスタグラマーをフォローしていて見つけた唯川恵さんの『雨心中』。施設育ちで姉弟のように生きてきた男女が、肉体関係や血のつながりを超えた絆で結びついて奈落の底へ堕ちていく、歪んだ愛の物語だ。

「タイトルの通り、ひたすら辛くて重いしんどい話なのに、なんであんなに夢中になって読んだんだろう?って思います。恋人でも家族でもない人と、ただ一緒にいたいという愛のかたちにものすごく衝撃を受けてしまって。ダメな男を完全に突き放すことができない気持ちはなんとなくわかるんです。でも、自分に対して恋愛感情がない男の人を“私のもの”と思い込んで、一瞬一瞬を死に物狂いで生きながら不幸の道を転がり落ちていく芳子の姿が、今の自分には想像もできなかったからかもしれません。私はそこまで盲目的に人を好きになれないし、適度な距離感がないとダメなので。だからこそ、芳子と周也のような100%共依存の関係に驚いたんだと思います」

 読んでいて胸が苦しくなるほど芳子がむきだしにしているのは、“女の業の深さ”だ。23歳の時、有村さんがこの小説を読んで受けた衝撃を超える本は、2年経った今もまだ見つからないという。

「ハッピーエンドのきれいな話も美しいとは思いますけど、人間って本当はずる賢くて、あざとくて、黒く汚らしい部分もありますよね。そういうところを隠さず描いている小説が私は好きです。役者として演じるうえでも、人間くさいドロドロした面を表現できる役はやりがいを感じます。でも、今までやってきた役のイメージが強くなっているせいか、こういった役にまだ巡り会っていませんが……。役者としての覚悟はできているので、少しでも今までの枠から外れて、仕事の幅を広げていきたいですね。そんな意識があるせいか『雨心中』も、女の業をむきだしにして生きる芳子を自分が演じるとしたらどうなるんだろう? 実写化できたら面白い作品になるから芳子を演じてみたいな、と思いなが

ら読みました」

 有村さんの主演映画『コーヒーが冷めないうちに』は、さまざまな後悔を抱えた者たちが、一瞬だけ過去にタイムスリップする物語。彼らのことを見守りながら、自分自身も大きな後悔を背負って生きている主人公の時田数を、有村さんはどんな気持ちで演じていたのだろうか。

「誰にでも後悔ってあると思うし、やり直したいこともあるかもしれない。でもこの物語では、過去に戻っても過去にあった出来事を変えることはできません。でもそこから先の未来はあなた次第、というメッセージが込められているところに共感しました。大事なことは、現実をしっかり受けとめること。その現実がたとえ辛くても、自分で未来を変えていくのをあきらめないことなんですよね」

 物語のなかで過去に戻るのは4人。一番心に響いたエピソードは?

「若年性アルツハイマーに侵されて自分の名前を忘れてしまった妻を介護する夫が、昔の妻に会いに行く話に一番ぐっときましたね。夫婦ってもともと他人同士だから、あそこまで妻を優しく見守って病気と闘う覚悟ができている夫の愛の深さが素敵だなって。血のつながりがある関係とは違う絆の強さを感じました。でも現実は、過去に戻ることはできません。だからできるだけ後悔しないために、大切な人には素直に気持ちを伝えて、ごまかしたり逃げたりしないこと。この作品を通して、そんなことを感じとってもらえたら嬉しいです」

(取材・文:樺山美夏 写真:冨永智子)

 

映画『コーヒーが冷めないうちに』

映画『コーヒーが冷めないうちに』

原作:川口俊和 監督:塚原あゆ子 脚本:奥寺佐渡子 出演:有村架純、伊藤健太郎、波瑠、林 遣都、薬師丸ひろ子、吉田 羊、松重 豊、石田ゆり子ほか 配給:東宝 9月21日(金)より全国東宝系にて公開 
●時田数が叔父と営む喫茶店には、コーヒーが冷めるまでの間だけ過去に戻れる「ある席」があった。その席に座ったのは、アルツハイマーの妻を持つ夫、スナックのママ、恋人とケンカ別れしたアラサー女性、そして数自身……。過去に戻った彼らを待っていたものとは?
(c)2018「コーヒーが冷めないうちに」製作委員会