高橋陽一「翼はロベルト本郷と一緒にブラジルへ渡らせるつもりだった」打ち切りからのライジングサン、最終回構想は…【インタビュー後編】

マンガ・アニメ

2018/9/13

 大空翼と若林源三の対決から始まったサッカーマンガの新たな時代。ロベルト本郷から伝授されたオーバーヘッドによって翼は若林からゴールを奪い、読者の心を奪った。『キャプテン翼』の人気に火が着き、街にはドリブルしながら走る子供たちが激増。高橋陽一先生の筆も走った。

■魅力的なキャラクターたちの躍動

 少年ジャンプの三本柱「友情・努力・勝利」――努力でゴールを奪った翼が、勝利を得るために必要なものは「友情」だ。サッカーという同じ夢を抱く仲間やライバル。石崎了、岬太郎、日向小次郎、若島津健、三杉淳、松山光――シュナイダー、ピエール、ディアス、サンターナ、ナトゥレーザ……数えきれないほどのキャラクターが生み出された。

「いくら翼が天才でも、ひとりではサッカーはできないので、岬は対抗戦が始まる前から登場させようと考えていました。ライバルキャラたちは、やはり翼に対して『こんなヤツが挑戦してきたら試合が面白くなる』と考えて設定していました。ジャンプマンガの『バトル』の醍醐味ですね。

 試合の結果は、ある程度は想定しながら描いていましたが、思いがけず点の取り合いになったり、結末が変わっていくことなどもありました。面白くなるほうを選ぶという感じですね」(高橋陽一先生、以下同)

 キャラクターだけではなく、初めて対する守備的なチーム、若林のケガ、森崎のボール恐怖症、三杉の心臓病を知った翼の戸惑いなど、サッカー小僧の前に立ちはだかる「状況」も多彩に織り込んだ。小学生編の武蔵FC戦で「オフサイド」ルールの存在を知り、マンガを読んで理解できたという日本人も多い。

 物語やキャラクターは深みを増し、人気に後押しされて自己主張をし始め、物語をも変えた。

「小学生の全国大会の後、翼はロベルト本郷と一緒にブラジルへ渡らせるつもりでした。新たなライバルたちとブラジル編を描く予定でしたが、日向小次郎をはじめ、ライバルたちも人気も出てきたし、自分も描いていて楽しかったので、もう一度、翼と戦わせてみたくなって……それで、ロベルトだけブラジルに帰らせました。

 中学編の全国大会決勝戦では、もともとは翼を勝たせるつもりだったんですけど、日向の努力に思い入れが強くなって、勝たせてやりたいなと思いはじめたんですよね。でも、翼も負けさせたくない……それで、両校同時優勝という決着になりました」

 作者が抱くキャラクターへの愛情と愛着。中でも思い入れが強いのは石崎了だという。読切版から登場しているキャラでもあり、『友情のイレブン』には原型的なキャラクターも登場している。

「翼や若林は天才なので、石崎くんは『凡人の代表』と言いますか。凡人で、才能はなくても、ずっと翼と一緒にがんばって代表になれた。天才ではない一般の読者のためにも、努力とガッツで夢をつかむ姿を描きたいと思っていました。けっこう早い段階から、代表に入れようと決めていましたね。そういう意味では、裏の主人公と言えるのかもしれません」


『キャプテン翼』は、小・中学生編を経て、ジュニアユース編でついに「世界」へと活躍の舞台を広げ、ワールドクラスの戦いを描き切り、ひとたびの完結を迎えた。駆け抜けた7年間の連載にいくばくかの燃え尽き感を感じながらも、高橋さんは次の作品に取り組んだ。

『翔の伝説』(テニス)、『エース!』(野球)、『CHIBI」(ボクシング)――様々なスポーツを描くも、物語半ばで打ち切り……『キャプテン翼』を超えることはできなかった。

「サッカーだけではなく、テニスや野球も好きで、当時は色々なスポーツも描いてみたいという思いがあって……結果としてヒットは出なかったんですが、実際に描いてみると『このスポーツは難しいな』と気付かされることもありました。野球マンガだと、水島先生が描き尽くされていてあまりネタがないなとか、新しいポーズや構図を考えても既出だな……と感じたりして、新しさへの挑戦としては難しかったです。でも、作家として描き方を変えてみたり、得るものもあって、挑戦したことに全然悔いはなくて、描けて良かったなと思います」

 Jリーグ開幕で日本に再びサッカーブームが巻き起こった1994年。高橋さんは満を持して再び翼たちを描くことになった。『キャプテン翼 ワールドユース編』である。

 往年の人気キャラだけではなく、太陽王子・葵新吾を登場させ、ジュニアユース編では戦えなかったブラジル代表チームにサンターナやナトゥレーザといった強敵を配するなど、『キャプテン翼』はパワーアップして帰ってきた。だが……非情にも、準々決勝を描いているときに打ち切りを宣告されてしまった。

 物語を中途半端に終わらせたくない。高橋さんは、準決勝を結果だけ見せて、決勝戦の日本vs.ブラジルを描くことにした。だが、想定していた試合を描ききるにはページが少なすぎた。

■陽はまた昇る! 『キャプテン翼』3度目の戦い

 自分の代表作でのまさかの「打ち切り」。厳しい現実、悔しさ。しかし、高橋さんの心は折れなかった。その後、いくつかの作品を経て、高橋さんはみたび『キャプテン翼』を描くことになる。

 もう二度と翼で失敗は許されない。強い決意でペンを握り、『キャプテン翼 ROAD TO 2002』を描きはじめた。『ワールドユース編』の借りを返すときが来た。

「『ワールドユース編』の決勝のリベンジをいつかしてやろうと、ずっと思っていました。あのとき描けなかった翼とナトゥレーザの戦いを『ROAD TO 2002』のバルセロナvs.レアル・マドリードで描けたと思います。自分としては『ほら面白かっただろ?』『打ち切った集英社は間違ってたよね』という気持ちで(一同爆笑)」

 翼は、1度目に大ヒットしている。だから、三度目の正直という言葉は正しくないかもしれないが、3度目の『キャプテン翼』は、『ROAD TO 2002』にはじまり、『GOLDEN23』、二つの『海外激闘編』を経て、現在連載中の『キャプテン翼 ライジングサン』へと続く。

 プロサッカー選手になった翼たちは、それぞれの挫折や苦難を乗り越え成長し、マドリードオリンピック(作品オリジナル)での金メダルを目指し、熱戦を繰り広げている。

「現在、『ライジングサン』でオリンピック編を描いているんですが、これも『ワールドユース編』のリベンジの気持ちがあります。『ワールドユース編』では登場させながらも対決を描けなかったオランダ代表との試合も描きましたし、いま描いている決勝トーナメントの1回戦、準決勝、決勝と残り3試合は、『最後まで絶対に描くぞ』と強いモチベーションで取り組んでいます」

 オリンピックの残り3試合を描くという強い思い――だが、翼の夢は「ワールドカップで日本を優勝させること」である。翼はロベルト本郷と「いつか二人で」と約束もしている。『ライジングサン』後の構想は――

「全くないです(笑)。全くないですけど……ロベルト監督で翼とワールドカップを戦うという流れの物語だろうな、というのは自分の中では感覚としてはあります。ただ、僕の肉体がそこまでもたないかな……という気はしているので(笑)、今は『ライジングサン』の決勝までをメチャクチャ面白くしてやるぞ、っていう意気込みで描いています。

『ライジングサン』完結まで残り3試合ですが、日本が優勝すると仮定して、あと何年かはかかるでしょうね。60歳は超えちゃいそう……定年までに終わるかな(一同笑)。

 なので、今はこの3試合を自分が今まで描いてきたものの集大成として、最後まで描き切れれば、ある意味、作家冥利に尽きるかな……と思っています。今のところは。『ワールドカップ編』の最初ぐらいは描けるかな?(笑)

 ただ、先の展開が変わることもあり得るので、日本がどこかで敗れていきなり『ワールドカップ編』に突入することもあるかもしれません」


■最新アニメ版『キャプテン翼』4度目のアニメ化への思い

 自らの作品の集大成だと位置づけ『キャプテン翼 ライジングサン』を描く一方で、この春から始まった4度目のアニメ版『キャプテン翼』にも、高橋さんは並々ならぬ思いを注いでいる。

「最初の段階で、今回のアニメは“原作通りにやってほしい”とリクエストしました。ストーリーや試合の内容だけではなく、必殺シュートの場面などは、原作コミックスにある決めゴマの絵の表現や構図的なものも含めて再現してもらいたいという要望も出しました。

 原作通りではあるんですが、今の子供たちに見てもらいたいので、スマホやタブレットといったガジェットを使ったり、“サッカーはマイナースポーツ”というセリフをカットしたり、現代版として違和感がないように調整をしています」

「アニメの決定版を作ろう」という高橋さんやスタッフの思いがある。ユニフォームは基本的に原作準拠のデザイン、キャラクターを演じる声優のキャスティングにも、高橋さんのチェックや要望が反映されている。その一方で、“あえてそのまま”にしている部分もあるという。

「“若林つぶし”や“明和特攻スライディング部隊”といったラフプレー、トライアングルシュートや若島津の三角蹴りといった“ゴールポスト蹴り”などは、現在のルールでは反則になるものもありますが、そこはフィクションとしてのダイナミズムを優先して、あえて原作通りにやっています。以前のアニメ化のときには、子供が真似すると危険なので変更する、という場面もありましたが、今回はそういう部分も原作再現の方向でやってもらっています」

 アニメの評判も上々だ。かつてのファン世代が親となり、最新のアニメを懐かしみながら子供たちと一緒に見ている。近い将来、第二、第三世代の「翼チルドレン」が世界中のリーグ、ワールドカップで戦う日が来るかもしれない。

■マンガ家・高橋陽一の夢、未来への思い

 37年前、サッカー小僧・大空翼が「ワールドカップ優勝!」と夢の大風呂敷を広げたとき、日本にはプロリーグもなく、ワールドカップの予選突破すら厳しかった。描いた本人である高橋さんですら「そうなってほしいという思いはあったけど、難しいだろうと思っていた」という“大きな夢”は現実味を帯びてきている。

 高橋さんの今の思い、そして夢は――

「最初の連載から37年……自分の描く原作やアニメを通して、世界中の人に『キャプテン翼』を楽しんでもらえるようになりました。アルゼンチンワールドカップを見て自分が受けた、スーパープレーや世界大会の規模を『キャプテン翼』に取り込んで描いたことで、世界の人たちにも受け入れられたのかな、と思います。

 そうやって続けてきた『キャプテン翼 ライジングサン』を納得のいく形で描ききること。それが今の夢です。

 それと、翼ではないんですが『ブラインドサッカー』のマンガを2020年に向けて描くことになっているので、パラリンピックを盛り上げられるような作品にしたいと思っています」

 高橋さんから、読者へ――

「今回の自伝『キャプテン翼のつくり方』も『キャプテン翼』シリーズも、“夢に向かってがんばる”という思いを込めて書いています。読者のみなさんも、夢を見つけて、夢に向かってがんばってほしいなと思います」

 夢をかなえる秘訣は――

「夢がかなうまで諦めない」


取材・文=水陶マコト 写真=岡村大輔

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