節目の10thシングルは、念願の『禁書目録』主題歌。少しずつ成長してきた大切な時間を語る――井口裕香インタビュー

アニメ・マンガ

2018/11/21

『とある魔術の禁書目録Ⅲ』AT-X、TOKYO MX、BS11、MBS、AbemaTVにて放送中 (C)2017鎌池和⾺/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/PROJECT-INDEX Ⅲ

 TVアニメ『とある魔術の禁書目録』の第1期放送がスタートしたのは、2008年10月。『劇場版 とある魔術の禁書目録 -エンデュミオンの奇蹟-』が公開されたのは、2013年2月。長いインターバルを経て、最新シリーズである『とある魔術の禁書目録Ⅲ』が現在放送中だ。この作品のメインヒロインであるインデックスは、声優・井口裕香の演技者としてのキャリアの中で、今も存在感を放っている。彼女が演じてきたキャラクターで最も長く広く愛されているのはきっとインデックスだし、音楽活動をスタートしたのも『-エンデュミオンの奇蹟-』のイメージソングだった。

 井口裕香が、表現の世界で新たなチャレンジに挑むとき、傍らには『とある魔術の禁書目録』があった。だから、『禁書目録』の主題歌を自身の名義で初めて担当する『革命前夜』(11月21日リリース)は、とても大きな意味を持つ。声優としての礎を築いてくれたインデックスのこと、そして10枚目のシングルとなった『革命前夜』について、TVアニメ第1期放送当時のエピソードも交えながら、話を聞かせてもらった。

『とある魔術の禁書目録』の現場で皆さんから学んだことがいっぱいあるし、そこで得たものが今やっと花咲き始めている

――TVアニメ『とある魔術の禁書目録Ⅲ』が作られると聞いて、どんなことを感じましたか。

井口:すごく嬉しかったです。劇場版から5年、TVアニメからは8年経っているけど、物語としては劇場版できれいに締まった感じがあったので、もちろんできたら嬉しいけど、ちょっと諦めかけてもいて。インデックスは本当に大切なキャラクターだから、また演じられることが嬉しいし、キャストやスタッフの皆さんとまた集まって一緒に作れるのも嬉しくて。逆に、「わたし、5年、8年、10年前の声を出せるのかな?」っていう不安もありました。自分の中でも、役と向き合うにあたってのハードルも自然と高くなっていて。それくらい大事な作品だなって、改めて感じました。

――『とある魔術の禁書目録』のTVアニメ1期が放送されたのは、2008年なんですよね。当時20歳だった声優・井口裕香は、どんな気持ちで収録に臨んでいたんでしょう。

井口:阿部さん(阿部敦/上条当麻役)ともよく話すんですけど、ほんとに幸せ者だったし、未熟者でした(笑)。阿部さんも、初めてアニメのオーディションに受かった作品が『とある魔術の禁書目録』で、初めての主役が当麻で。お互い拙い部分もある中で、『禁書目録』は情報量が多い作品だから、お芝居もすごく難しかったです。映像化するにあたっての演出も、自分の想像だけでは補えないものがたくさんあって。だから、毎回アフレコはすごく時間がかかってました。監督の頭の中に描くものが入っているので、その想いを聞いて、みんなの方向性を合わせて。テストをやって、最終のテストをして、そこでまた監督の長考が入り、本番を録る、リテイクする、みたいな感じで、一個一個の過程を飛ばさず、時間をかけてやってたんです。そうやって、ひとつひとつに妥協せず、根気よくスタッフさんが向き合ってくださっていた現場でした。わたしたちみたいなド新人もいれば、若本規夫さんのような大ベテランさんもいらっしゃって、刺激的なキャストの方がたくさんいたので、当麻とインデックスで必死になって食らいついていた気がします。今振り返ると、当時のわたしとは友達になりたくないですね(笑)。

――(笑)それはなぜ?

井口:まわりが見えてなかったですね。それでも受け止めてくださる利奈さん(佐藤利奈/御坂美琴役)と阿部さんがいたから成立していたことも多かったし、反省はいっぱいあります。でも、当時のわたしのインデックスを見ると、ヘタクソだけど声変わりする前というか、19、20歳だからできるインデックスの初々しさがあって。あのときにしかできないインデックスがあったなって思います。

――声優としての井口さんは何をやってる人?って考えると、多くの人が真っ先に浮かべるのはやっぱりインデックスだと思うんですよ。ある意味、そのイメージを10年間背負ってきたというか。

井口:うんうん。嬉しいです。もちろんアニメが空いてる時間はありますけど、ひとりのキャラクターとずっと向き合えることってなかなか少ないので、本当に大事ですね。

――この作品は、井口さんに何をくれたと思いますか。

井口:声優・井口裕香の芯になる部分を作ってくれました。今おっしゃってくださった「井口裕香って何やってるの?」「インデックス」っていうこともそうだし、現場での振る舞いとかお芝居に対する気持ちを作ってくれた現場でもあるし。そして、アーティストデビューのきっかけをくれた作品でもあって、いろいろなきっかけを与えてくれた作品です。ラジオのお仕事も、『禁書目録』のラジオを聴いて『む~~~ん』(『井口裕香のむ~~~ん ⊂( ^ω^)⊃』)を聴いてくれるようになった方も多いと思います。振り返ると。優しくて遊び心のある大人の方たちに囲まれて育ってきたなって思います。

――今、話を聞きながら思ったんですけど、井口さんは関わる作品や番組をことごとく長く続けてるんですね。「継続の人」というか。

井口:あっ、それはすごく嬉しいです。継続は力なり(笑)。確かに『こむちゃっとカウントダウン』も長く続けてるし、ガルパン(『ガールズ&パンツァー』)や『<物語>シリーズ』もそうですね。

――音楽活動にしても、今回10枚目のシングルになるわけですけど、10枚出すことってそんなに簡単ではないですよね。いろんな人に受け入れられて、ちゃんと成長していなければ継続はできないし。

井口:本当にそうですよね。先輩方も後輩方も……(笑)、新進気鋭ですごいものを生み出す人たちがたくさんいるので刺激的ですけど、こうしてやれていることは嬉しいです。わたしの場合、先輩たちから受け継いできたものがすごく多いんです。『とある魔術の禁書目録』の現場でも、皆さんから学んだことがいっぱいあるし、そこで得たものが今やっと花咲き始めているんじゃないかな、と思います。

――そのバトンを受け取って、長く走り続けてますよね。そして、まだ渡してはいない。

井口:渡す気はないですね(笑)。そこが課題なんです。

――いいですねえ、「渡す気はない」。渡せないものを作ってきた、とも言えるんじゃないですか。

井口:うん、渡す気もなくやってきましたし、だからこそ利奈さんはすごいなあ、と思います。「こうやりなさい」ではなくて、立ち居振る舞いを見ているだけで、学ぶことがいっぱいあるし。お芝居でもラジオでも、人との出会いに関しては運がいいほうだと思います。

――20歳当時に演じていたからこその初々しさがあったとして、井口さん自身が今も変わらずに持っているものってなんだと思いますか。

井口:なんだろう、わたし自身は大人になってしまったんですけど、当麻とインデックスの関係性は基本変わってないし、いろんなことを経験して信じる気持ちや絆は強くなってますね。そこは変わらないし、より深くなってるし。なので、当麻に対するまっすぐな気持ちや純粋さは変えずに演じようと思っています。プラス、インデックスは聖母感が増したというか、考え方がちょっと大人になってきたんですよね。そういう女性らしさ、しなやかさや柔らかさは、きっと大人になったわたしだから表現できるインデックスちゃん像なんだろうな、と思っています。1期のときはそこまで深く考えてなかったかもしれなくて、原作や台本を読んだ上で感じるものをそのときのお芝居で出していたと思うんですけど、きっとインデックス自身はすべてを受け止めて生きていて。だからこそ、みんなに支えられて、愛されているんだと思います。根本的な部分は彼女自身もあまり考えないようにしている、というか。基本は、年相応感を大事にしたいな、と思って演じていました。

――すべてを受け入れることで、まわりの人に支えられて愛されているのがインデックスである、と。それって、井口さん自身のあり方とも近いところがあるんじゃないですか。

井口:確かにそうですね。『禁書目録』の現場って、10年の時を経て改めて思うんですけど、お芝居しているときの姿や性格も含めて、キャストとキャラクターがすごく似ているんですよね。きっと、10年前のわたしはまだ自分自身を受け入れられてないし、自分自身が何かもわかってないから、まわりからも愛されてなかったと思うけど(笑)、やっとキャラクターに近づけたというか、インデックスのようになれてきた気がします。ラジオにもつながるけど、表現の色のつけ方は『とある魔術の禁書目録』の現場から学んだものが多いですね。マイクワークもそうだし、台本のチェックの仕方もそうだし。自分の中で決めつけすぎずに、キャラクターや作品はみんなで作るもの、ということを改めて感じた現場です。

――そういえば、TVアニメ3期の最初のシーンがインデックスの「お風呂の歌」というのも、なかなかパンチのある登場でしたね(笑)。

井口:そうですね(笑)。インデックスは、特に今期は日常担当なところがあって。当麻は人助けに行ってすぐにいなくなっちゃうけど、当麻とインデックスが一緒にいるときって、日常の温かみが感じられるシーンが多いので、「『とある魔術の禁書目録』始まったな」って、心がふっとなる瞬間をインデックスで演出できたらいいな、と思ってました。お風呂の歌は、一発OKでした(笑)。

自分自身が前向きに変化していると感じられるのも、10枚積み重ねてきたからこそ

――『禁書目録Ⅲ』のエンディング主題歌“革命前夜”は、先ほどちょっと触れた通り井口さんにとって10枚目のシングルで。気持ちの中で「ここまでやってこられたんだ」っていう節目になる部分はあったのかな、と思うんですけど、10枚目まで続けてきたことについてどう感じてますか。

井口:本当に奇跡だと思います。始まった頃は歌い方も試行錯誤で、キャラソンみたいに歌ってから削ぎ落としていったり、いろんなやり方をしてました。だけど、わからないなりに全力でぶつかってきたからこそ、全力で応えてくださるスタッフさんにも出会えたし、受け止めてくれるファンの皆さんにも出会えたのは、すごく幸せなことで。声優の活動だけでは得られない経験ができて、見られなかった景色もいっぱい見させてもらった5年間であり、10枚目ですね。ちょっとずつ自分の意見も生まれてきたり、歌い方もだんだん大人になってきたり、自分自身が前向きに変化していると感じられるのも、やっぱり10枚積み重ねてきたからこそだと思います。その中で、『とある』シリーズの作品は切っても切れない存在で。劇場版のイメージソングで始まって、『とある科学の超電磁砲』では“Grow Slowly”と出会って。節目節目というか、わたしの中でもすごく大事な曲だなって思うところに、『とある』シリーズがいます。

――実は、『とある魔術の禁書目録』の主題歌って初めてなんですよね。1stシングルの“Shining Star-☆-LOVE Letter”は劇場版のイメージソングだったし。

井口:そうなんです。やっぱりこの作品で主題歌を歌えることは大きいし、ひとつの目標でした。「インデックスとして歌うのではなく、井口裕香として作品をちゃんと締めくくるエンディング曲を歌うにはどうしたらいいんだろう?」ってずっと考えていて、大人になりつつあるインデックスの柔らかい心を表現したかったし、インデックスを演じているわたしだからこそ届けられるものがあればいいな、と思いました。レコーディングはアフレコの前だったんですけど、2番の歌詞に《置き去りにされて》とあって、そこで「インデックス、また置き去りにされるんだ……」って軽いショックを受けて(笑)。《奇跡を 待つだけじゃなくて 起こしたいんだ》という歌詞があるんですけど、“Shining Star-☆-LOVE Letter”では奇跡を待っていたので――より前向きになっている、というか。「君のことは待っている」し、信じてるけど、自分からも動いていく、前向きさを感じる歌詞ですよね。当麻との信頼関係や絆は強くなってるし、歌詞にもあるように子供じゃないというか、芯の強さを感じました。《誰にも よそ見なんてさせない 覚悟してね》の部分は、若干背筋の凍るところがありますけど(笑)。

――確かに(笑)。

井口:普段歌い慣れてない感じのメロディで難しかったですし、電子音ではなくて弦楽器を使った曲になっているので、『とある魔術の禁書目録』の世界の中では新鮮な楽曲なんです、弦楽器の伸びやかさに乗ってわたしも伸びやかに歌いたいなあ、と思ったけど、それが難しくて。「どう表現したらインデックスちゃんが持つしなやかさや、包み込むような優しさが出せるだろう?」と思って。家で何回も歌っているときに、前屈しながら歌ったら、それが一番しっくりきたんです(笑)。余計な力は抜けるけど、お腹に力が入ってるからいいんだな、と思って。

――なるほど。

井口:なので、レコーディングも最初は立ってやってたんですけど、わがままを言って「座っていいですか?」ってお願いをして、初めて座ってレコーディングをしました。頭も使ったし、身体もいつもとは違う使い方をしたので、「思い描いていたものはちゃんと表現できたんだろうか?」っていう気持ちだったんですけど、でき上がりを聴いて「形になってる! エンジニアさんありがとう!」ってなりました(笑)。

――(笑)最初に想像していたゴールにはたどり着けていた、と。

井口:行けました。曲はライブで歌うことでどんどん馴染んでいくし、「みんなと一緒に歌って、やっと完成!」みたいなところがあるので、レコーディングはまだまだ試行錯誤ばかりだけど、今回はでき上がった曲を聴いて「やりたかったことができてる!」って思いました。

――いいですねえ。今回、カップリング曲もとても面白いな、と思いまして。“幸せなケーキの作り方”は、とてもハッピーなクリスマスソングになってますね。

井口:ありがとうございます。クリスマスイブにライブがあるので、野田愛実ちゃんにクリスマスソングをお願いしました。みんなが一度聴いたら覚えられるような曲にしたかったので、野田ちゃんに直接会って、思いを伝えて。竹内まりやさんの《クリスマスが 今年もやってくる》(“すてきなホリデイ”)のように――「この曲を聴いたらチキン!」「シチューを作ってたら冬!」みたいな感じで、何かを作ったり何かを食べてる時間が幸せなクリスマスであり冬であり、そういうほっこりする曲がいいですって伝えた結果、野田ちゃんがケーキを作る過程を日常に当てはめた曲を作ってくれて。「天才だ!」と思いました。

――アニメ盤に入る“blue moon”は、大人感のある切な系楽曲で。

井口:井口さんのカップリングに稀にある、切なソングです (笑)。インデックスが置いて行かれたときの大人な気持ちを歌いたいなって、わたし自身は思っていて。なので、あまり重くならないように、決して淀んでいるわけではなく澄んだ気持ちで、未来を見据えていながらも切ない、みたいな感じで歌えたらいいな、と思ってました。

――このシングルを聴いていると、声優として長年インデックスに向き合ってきた経験は確実に活きていると感じるし、クリスマスソングにしても井口さん自身からアイディアを発信ができているじゃないですか。いろんな活動の中でヒントが生まれて、それを楽曲に詰め込むことができているというか。

井口:そうですね。ほんとにどれが欠けていても得られなかったことだし、声優のお仕事が軸になっているなって、改めて感じます。

――間違いなく、10枚目にして一番聴き応えがあるシングルだと思いますよ。

井口:ありがとうございます。よかった~、次に向けて頑張れます。やっぱり、『Love』(2017年11月リリースのミニアルバム)の存在は大きかったですね。ほんとにいい経験だったし、またやりたいです。

――こうして話を聞かせてもらってると、井口さんがいろんなことを吸収しながらできることを増やしてきた歴史が、改めてよくわかりますね。10枚目にしてこれだけ充実したシングルが作れたのも、少しずつ成長してきたからで――。

井口:はっ! “Grow Slowly”。これからも“Grow Slowly”、ですね。ててーん、決まったぁ!

――自分で言ってくれたので、完璧に締まった(笑)。

井口:ありがとうございます! おあとがよろしいようで(笑)。

前回の井口裕香インタビューはこちら

取材・文=清水大輔