充実の全14曲、その背景とは――早見沙織『JUNCTION』全曲インタビュー(後編)

エンタメ

2018/12/29

 早見沙織の2ndアルバム『JUNCTION』インタビューの「全曲解説編」、後編はM-8“SUNNY SIDE TERRACE”以降の楽曲をご紹介する。全14曲を反芻すると、まさに早見自身がよく使う「多面的」という表現がふさわしいと感じるが、『JUNCTION』の後半、特にM-10“little forest”以降の楽曲は「日常」や「人生」が描かれていて、とてもポジティブな印象を受け取ることができる。聴き手の背中を押したり、さまざまな気持ちのありようを受け入れ、肯定する背景には、作り手のパーソナルな部分が反映されているのではないか――そんな仮説を立てつつ、話を聞いてみた。

(“Jewelry”は)《大丈夫/信じることがパワー》とお客さんに歌ってもらったときに、本当にしっくりきた

8. SUNNY SIDE TERRACE 作詞・作曲:早見沙織/編曲:大久保薫

 M-2“メトロナイト”と同様、『新しい朝』に収録されていたカップリング曲。既発曲ではあるものの、新しい表情を伴って響き、アルバム後半の幕開けを爽やかに演出している。リリースのとき、「作曲時にカメラアングルを意識していた」と語っていたが、4分弱の中で物語を描きながら、聴く者に鮮やかなビジュアルイメージを想起させる楽曲だ。

――この曲は、非常に「早見沙織的な曲」だと思うんですけども。

早見:わたしが「早見沙織的」を一番わかってないかもしれない(笑)。

――(笑)スマートでおしゃれな曲に、いきなり突き放すような言葉が出てくるところとか。

早見:あっ、ほんとですか? わたし、この曲は「寄り添い曲」だと思ってます。でも、女性と男性とで、聞こえ方が変わるのかもしれないですね。

――ああ、なるほど。女性が聴くと「話、聞くよ?」っていう寄り添いに聞こえるけど、男性が聴くと、お別れを告げられてる感がある、というか。

早見:確かに。女子・男子でくくるのは難しいけど、これは片側に寄ってるのかもしれないです。

――この曲を作るときに、「カメラアングルを意識してた」っていう話をしてましたよね。

早見:固有名詞は出さないですけど、曲を作るときにわりとここ、っていう場所があって。でもそれは、ヒントになっているくらいです。聞こえ方の違いは、たぶんお見舞いする側とされる側の違いだろうなって思います。わたしの中では小説的というか、小説の中の女子像みたいな感じはあるかもですね。小説って、リアルよりもどこか表現めいてるじゃないですか。そういう感じでまとめました。

――「女性と男性で聞こえ方が違う説」は新鮮ですね。たとえば《前に前に進む貴方は/素敵よ》というフレーズをピックアップすると、女性が主人公で自分に言い聞かせているのか、あるいは「サニーサイドカフェ」で同性の話を聞いてあげた、的な物語が見えてくるというか。

早見:そうですね、わりとそういう感じです。

――聴いていて「あっ、ここには入れない」って思った(笑)。

早見:あはは。男子禁制、みたいな(笑)。

9. Bleu Noir 作詞・作曲:早見沙織/編曲:大久保薫

 早見沙織の、メロディメイカーとしての才覚がさらに開花したことを感じさせる1曲。一度聴いたら絶対に忘れないサビのメロディはものすごくキャッチ―だし、じわじわとテンションを上げていく情熱的なピアノのアウトロも秀逸だ。また、筆者はこの曲を聴いて「アシッド・ジャズ的なカッコよさ」を感じたのだが、さまざまな音楽ジャンルのエッセンスが散りばめられた“Bleu Noir”は、聴き手にとっても新しい音楽と出会うきっかけになりそうだ。

――“Bleu Noir”を聴いて、メロディメイカーとしてさらなる開花を果たされたな、と。とにかくメロディが強烈に印象に残るし、アウトロのピアノの展開が情熱的でいいですよね。

早見:よかったです。情熱的になってほしかったから。

――なんで情熱的にしたかったんですか。

早見:曲を作っていて、情熱的、な気持ちに、なり……なったから?(笑)。でも、この曲はアルバムの中でデモを一番多く聴いたかもしれないですね。はじめは半分くらい作っていて、いっぱい聴いて、2番を作っていって、Dメロの《いつか見た フィルムに擬えた》のところができてきて。そして、すごくエモーショナルに終わりたいなって考えてました。

――音楽的には、制作チームの中でいろんなジャンルがイメージにあったそうですね。

早見:大久保さんは、70年代ソウルって言ってました。ジャジーなところもあるし、アシッド・ジャズって言ってる人もいましたね。この曲は、とにかくコーラスが命だと思いました。家で、ひとりでいくつも声を重ねて……ってやってた気がします。謎に気合が入っちゃって(笑)、自分でコーラスを入れてデモを渡しました。

10. little forest 作詞・作曲:矢吹香那/編曲:前口渉

 途中で入る管楽器以外の演奏はほぼギター1本、というシンプルでミニマルな編成が、ボーカリスト・早見沙織の真髄を際立たせている。また、『JUNCTION』の後半に収められた楽曲からは、「人生」という言葉を思い浮かべることができる。その中で、一度立ち止まって再び日常を歩き出す“little forest”の自然体でポジティブな歌詞は、穏やかで優しい印象を残す。

早見:プリプロをやったときに、これまでにも歌ってきたかのようなしっくり感、馴染み感があって。歌っていて、あたたかくていい曲だなって思いました。本番の収録でも――仮で歌ったテイクが、個人的には「この日調子よかったのかな?」と思うような素敵なものになっていたので、録り直すのがちょっと怖い部分があって。それは、もともとの曲が持っている力だと思います。本番のレコーディングでもどんどんよくなっていくし、気づきがあって、楽しかったですね。矢吹さんが作ってくださった曲で、すごく歌いやすいですし、わたしが考えている以上に歌のよさや魅力を第三者の目線で見て、それを引き出してくださった曲だと思います。

――アルバム後半を聴いた印象として、「人生」っていう言葉が浮かびました。日常から、人生全体に広がっていくようなイメージがあって、最終的にまとまるのが“新しい朝”というか。そこへ向けてゆるやかに、しかし確実に助走が始まっていくのがこの曲だなあ、と思います。

早見:確かこの曲は、歌詞を少し変えてもらったんです。もともとは「わたしとあなた」の関係性だったところを、「わたしがわたしに」っていう関係性の曲に変えるのはどうですか?ってディレクターさんが提案してくださって、わたしも「素敵だと思います」と言って、変えていただいて。だからより一層、歌っていても「顧みる感じ」はありますね。

11. Jewelry 作詞・作曲:早見沙織/編曲:倉内達矢

 TVアニメ『カードキャプターさくら クリアカード編』のエンディングテーマ。『さくら』の主題歌として発表された時点で、親しみやすいメロディと明るく前向きな歌詞が沁みる楽曲だったが、『JUNCTION』の中に入ることで、聴き手の人生を眩しいくらいの明かりで照らす、圧倒的なポジティヴィティを持った楽曲として、さらに輝きを増した感がある。『JUNCTION』の構成の妙を堪能させてくれる1曲だ。

――“Jewelry”を初めて聴いてから1年近く経ちます。もともといい曲だと思ってたけど、アルバムの流れで聴くと「こんなにいい曲だったんだ!?」って感動しちゃって。ちょっとじんわりきました。

早見:へえー! その心は?

――いろんな人の人生を照らしてくれるような曲だなって思います。仕事帰りの夜中に歩きながら聴いていて、なんか「頑張ろう」ってなりました。

早見:やっぱり、そういう瞬間が一番嬉しいですね。結局、音楽をやっていて嬉しいことってそれだと思います。この曲は、歩調のテンポにも合いますし。

――確かに。“little forest”以降の曲に「人生」というテーマを感じると言いましたけど、結果“Jewelry”もそれを描けていた曲なんだなって思います。

早見:そうなりましたね。作品への曲なので、さくらちゃんに視点を置いていながら、子どもからの成長途中である少女の過程を切り取ってはいるけれど、ある種それを見ていた人たちの20年、みたいなものもあったと思うので、必然的にそうなったのかもしれないです。この曲は、5月29日のライブで歌って、《大丈夫/信じることがパワー》っていう歌詞をお客さんに歌ってもらったときに、本当にしっくりきました。“Jewelry”が持っている、聴き手としての感動みたいなものを、皆さんに歌っていただいたことでわたしも気づけた、というか。その印象が一番大きいですね。

――『カードキャプターさくら』のファンの方が、さくらを応援してきた20年を肯定するような曲であると同時に、日常の中で触れた人が「よし」ってなるような曲でもあるなあ、と思います。

早見:10曲目以降って、この並びによって、とてつもないエネルギーを持って背中を押してくれてる感じがしますよね。なんかこう……ポジティブ3兄弟、みたいな(笑)。

12. Bye Bye 作詞・作曲:早見沙織/編曲:倉内達矢

『JUNCTION』の収録曲は、普遍的なメッセージを持つ曲から、言葉では形容しきれない感情を描いた曲まで多彩な表情を持っているが、その中でこの“Bye Bye”は、最も早見沙織の人物像がアウトプットされた曲と言えるだろう。また、“Bleu Noir”と同様、メロディに抜群の冴えを見せており、ソングライターとしての進歩を感じさせる1曲でもある。

早見:これは“Jewelry”と同じで、「明るくて前向きな曲を作るぞ」って思って作った曲です。歌詞を書いているときは、感情の出身地がふんわりしてたんですけど、「少し強めに言い切ろう」っていう気持ちを込めました。たとえば、「私が作ってくわ」「私がやってくわ」っていうイメージはあったんですけど、作っているときはそこまでは思い至っていなくて。でも、「この言葉をあえて選ぼう」と思って、言い切りが強めのものをチョイスしたところはあります。個人的には、《ダイキライもダイスキも/これから私が決めていくわ》、これが言えればいいや、と思っていて、それを思いついたときに、「これでこの曲は完成した!」みたいなところがありました。

 この曲では、「いろいろ大変なこともあったけど、自分の手で自分の道を作っていくことで、実は自分が遠いと思っていたキラキラした何かになっていた」ということを言いたくて。こっちがいいかな、あっちがいいかなって思ったりもするけど――こういうキッパリした気持ちって、1年のうち1回くらいは大事じゃないですか(笑)。

――(笑)だからパーソナルに近いものを感じるのかもしれないですね。実際、言ってることは普遍的だと思うんです。だけど、この歌詞に書かれているようなことを思ってない人からは、こういう言葉は出てこないのかな、と。仕事、あるいは人生そのものに対して明確な考え方を持っているから、言い切る歌詞が出てきた、というか。

早見:言い切るのって、大変ですよね。難しいなって思います。バンドメンバーの方とそういう話をしたことがあったんですけど、歌詞も会話も、ひとつの言葉を言ったときに、その言葉のパワーが強くて言い切られてしまうんですよね。たとえば、自分の感情は「黄色でもなくて、ピンクでもなくて、赤でもないんだけど」って思ってるけど、それを「黄色」って言っただけで黄色に断定されてしまう言葉のすごさを感じる、というか。すごくもあり、ちょっと怖くもあり、もどかしくもある。特に歌詞を書くときは、「うわ~、この二文字ですごく決まってしまう~」って思ったりします。

――もうひとつ、この歌詞は自分自身に言い聞かせるような側面もあるのかなって思いました。結果、根底に持っている気持ちが歌詞に現れている、というか。

早見:こうありたいな、と思っているときのわたし像、みたいな感じかもしれないですね。

どちらがいい・悪いではなくて、なるべく自分で自分の考え方を受け入れられたらいい

13. 新しい朝 作詞・作曲:竹内まりや/編曲:前口渉

“little forest”“Jewelry”“Bye Bye”は、ある生き方を肯定したポジティブな楽曲群であるが、『劇場版 はいからさんが通る 後編 ~花の東京大ロマン~』の主題歌である“新しい朝(あした)”は、さらに大きなスケールを伴った「人生讃歌」の趣きがある。アルバム全体を優しく包み、ひとつの筋を通すような、『JUNCTION』の核を成す1曲である。『はいからさん』の主人公・花村紅緒を通し、人生の喜びを綴った歌詞は、何度聴いても感動的だ。

早見:この曲は、ふと電車の中で聴きながら窓の外を見たりしたときに、猛烈に泣いちゃいますね(笑)。この歌を歌えることが嬉しいな、と思いますし、今この歌詞だけを読んでいてもグッときます。素直な気持ちで受け取ると、すごく来るものがありますね。

――この曲が『JUNCTION』にもたらした影響は、ものすごく大きいですよね。

早見:そうですね。この曲は、はじめから場所が決まってた感じです。「こちらへどうぞ」みたいな(笑)。まりやさんとご一緒して、もちろん100%すべてを見ることは不可能ですけど、間近で見させていただいたり、考え方に触れたときに、とても影響をもらいました。それは言葉にはできないし、まだ言葉にはしたくない感じですけど――直接表現にするというよりは、ベースの部分をもらったと思っています。

14. 温かな赦し 作詞・作曲:早見沙織/編曲:前口渉

『JUNCTION』に収められた14曲をたどっていくのは、旅路のようでもある。一度束ねられて、それぞれの場所に向かっていく曲たちのように、このアルバムを受け取った我々も日常を過ごし、ライブ空間を共有したりしながら、新たな喜びや力を得て、それぞれの人生へと帰っていく。“温かな赦し”にたどりつくことで、旅路は報われる。「明日もしっかり生きていこう」と聴き手の背中を押し、癒してくれる名曲だ。

早見:この曲は、ここまでのポジティブっていうキーワードからは一線を置いていると思います。たぶん、ポジティブもネガティブも、ここまでくると些末なこと、というか。

――この曲を聴いてなんとなく思い浮かべたのは、「人生は思い通りにならない、だけどまず肯定するところから始めてみよう」的なイメージでした。受け入れる気持ちが描かれている、というか。

早見:そうですね。でも、これはいろんな受け取り方をしてもらえたらいいと思います、わたしはわたしで、思えば人生は思い通りかな、とも思っていて。ある事柄があって、どうとらえるか・どう思うかで、思い通りになっていないのか・なっているのかも変わるし、それこそプラス・マイナスも変わっていくと思うし。「イヤだったな、苦しかったな」って思うことでも、結果的に「あれがあったからよくなった」って見れば、マイナスではないこともあると思います。それをずっとマイナスとして引きずってしまうのか、気持ちの消化によってマイナスではなくなるのかっていう。それがすんなりできるときと、どうやっても今は無理だっていうときがあって。すんなりできればそれはそれでいいと思うし、すんなりできなかったとしてもそのことを責めたくないな、という気持ちを込めました。

――“Jewelry”って、聴くと一発でチャージされる感じがあるじゃないですか。一方で、“温かな赦し”はじんわり浸透してくる感じがしますね。

早見:確かに。ビタミンCを摂取するのか、たっぷり寝るのかの違い、みたいな(笑)。

――(笑)意図的に作品を貫くテーマとして考えていたわけではないと思うんですけど、結果的にアルバム全体がとても肯定的なメッセージを帯びたものになっているな、と思うんですけども。

早見:そこは、まったく意図してなかったんですよ。だけど、並べてみたらそうなったところもあって、不思議を感じました。わたし自身、そこまでスーパーポジティブ人間じゃないと思うんです。

――早見さんは、多面的っていう言葉をよく使うじゃないですか。多面的というのは、物事をひとつの側面から受け取って判断してしまうのではなく、いろいろな面を見て受け入れられる場所を探すことでもあるのかな、と。それって、すごくポジティブな考え方だと思うんですよ。逆に、物事のイヤな側面だけを見て、「これが嫌いです」って跳ね返してしまうのは、そんなに難しいことではないわけで。

早見:そうなんですよね。それはすごく、悲しみもあると思います。

――その状態が早見さんにとって理想としない像だとしたら、受け入れる姿勢であること、そうでありたいっていう気持ちは、どこかしら作品に投影されるんじゃないですか。

早見:そうだと思います。でも、衝突することで生まれる何かもあるから、それはそれでよさもあると思います。多面的なとらえ方もよい部分はありつつ、「ほんとは否定されるのが怖いんじゃないか」という見方もありますし。それも、どちらがいい・悪いではなくて、なるべく自分で自分の考え方を受け入れられたらいいですよね。「みんなにいい顔をする自分ってイヤだな」ではなくて、はっきり言いたいときは言えるように頑張ればいいし。でも、自分自身の考え自体はあるけど、それが作品の中にどう乗っているのか、どう伝わっているのかは、まだちょっとわかっていなくて。だから、それが伝わってくれているのであれば、安心して寝られますね(笑)。

「全曲解説編」前編はこちら
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取材・文=清水大輔 撮影=中野敬久
スタイリング=鈴木麻由  ヘアメイク=樋笠加奈子(アッドミックス ビー・ジー)