【ひとめ惚れ大賞】人の感情を 動かして 〈予感〉を伝えたい『予感の帝国』風間サチコインタビュー
公開日:2019/4/10
私自身が待ちに待っていた作品集『予感の帝国』は、私の画業二十数年間が詰まった集大成です。本の表紙に使われている幅6メートル超の巨大木版画作品〈ディスリンピック2680〉の完成を大きな節目と捉えて、この構想に4年と制作半年を費やした大作が初作品集の
表題作になるようにと、ちょっと無謀すぎるサイズでしたが……頑張りました(笑)。
〈ディスリンピック2680〉に描かれているのは、優生思想を推し進める、架空の国家で開催されるオリンピックの開幕式です。巨大な画面と、キッチリ左右対称の構図で、力の支配と秩序を表現しました。生命すらも統制する全体主義の祭典で、過去にも現在にも未来にもありうるディストピアを表現しています。タイトルの「2680」は皇紀の年数で、西暦では2020年。来年開催の東京オリンピックを何となく暗示させています。
初個展で発表した〈存在の同じ家〉では、典型的な幸せのイメージである画一的なモデルハウス群をドロッと不吉に描き、1990年代後期の疲弊感を表現しました。その後も、現代社会から歴史的な過去の問題まで、広範なテーマを取り上げて制作しています。シンプルに「そんなことって酷い!」と感じることが出発点ですが、入念にリサーチして材料が揃うと、今度はこれらのモチーフを「どう料理し、画面に構成しようか?」という作家のエゴに変わります。憎悪すら作品に利用しようという執念は、帯文に引用したニーチェの「呪詛」に近いですね(笑)。
この作品集では予言者という設定でテキストも書いています。解説するはずの文章が、よけいに解りづらくしている。というお声も頂いてますが……(笑)。このような不思議テキストと同様に、深刻で、滑稽で、不気味。そんな作品で、見る人の心を〈予感〉で満たしざわつかせることができたら幸いです。
|| お話を訊いた人 ||
風間サチコさん 1972年、東京都生まれ。版画家。美術家。武蔵野美術学園版画研究科修了。90年代から精力的に個展を開催。第9回岡本太郎記念現代芸術大賞優秀賞などを受賞。ギャラリーαМ(東京、馬喰町)にて初夏に個展を開催予定。。
取材・文/田中裕 写真/首藤幹夫
インタビュー・対談カテゴリーの最新記事
今月のダ・ヴィンチ
ダ・ヴィンチ 2024年5月号 私の『名探偵コナン』履歴書/『ダ・ヴィンチ』創刊30周年
特集1 祝・連載30周年! 私の『名探偵コナン』履歴書/特集2 雑誌不況の“荒波”を乗り切れるか!? 『ダ・ヴィンチ』創刊30周年 他...
2024年4月6日発売 価格 850円
人気記事
-
1
-
2
井口裕香「地球みたいに丸いおしりが撮れた」。“飾らないエロさ”を意識して生まれたセカンド写真集「MORE MORE MORE」の本気度を語るロングインタビュー
-
3
竹を切るときは慎重に! 翁が光る竹を切ると、中から美しい子ねこが現れて… 【竹取物語なねこ】/みっけ!ねこむかしばなし⑥
-
4
-
5
人気記事をもっとみる
新着記事
今日のオススメ
-
レビュー
TVアニメ第2期決定・累計3300万部『薬屋のひとりごと』。最新15巻は医療ドラマと大人の愛憎劇が見どころ!
PR -
インタビュー・対談
「大切な人を想う気持ちに国は関係ない」台湾人作家が日本の子どもたちに読み聞かせた『ママはおそらのくもみたい』〈レポート&インタビュー〉
-
インタビュー・対談
芸人の描くコミックエッセイはなぜこんなに面白いのか? 矢部太郎とバッドボーイズ清人が執筆後の感情を語り尽くす【インタビュー】
-
レビュー
20代前半の焦燥感、もがき続けたあの時間が詰まった青春小説。上手くいかない日々が綴られる『22歳の扉』
PR -
レビュー
異能力×学園ファンタジー漫画『群青のストレンジャー』。見た目は人間…中身は狼、天使、人ならざる“亜人”の正体とは
PR
電子書店コミック売上ランキング
-
Amazonコミック売上トップ3
Amazonランキングの続きはこちら -
楽天Koboコミック売上トップ3
楽天ランキングの続きはこちら