第25回電撃小説大賞《選考委員奨励賞》受賞『逢う日、花咲く。』青海野 灰 インタビュー

文芸・カルチャー

2019/7/7

 応募総数4843作品、本年度の電撃小説大賞で選考委員の心を最も揺さぶった痛切なラブストーリー。臓器提供者の少女と臓器提供を受けた少年の間に生まれる淡く、濃密な恋。出逢うことも、言葉を交わすことも、触れ合うことすらもできない彼女に、彼は無償の献身を捧げる――。この恋の果てにあるのは希望か、それとも絶望か?

『逢う日、花咲く。』イラスト

 

 心臓を移植された少年が恋をしたのは、提供者となった少女だった。決して実るはずのない恋。それでも胸の鼓動をよすがにして〝僕〟は彼女に逢いにいく――。

 日本最大級の新人賞、電撃小説大賞の中で最も選考委員の心を締めつけた本作は、臓器移植と記憶転移をテーマにした恋愛小説だ。

「もともと、ちょっと不思議な恋愛小説を書くのが好きでした。以前から趣味で小説を書いていたのですが、この5年間ほど止めていて、また書きたくなって筆をとりました。心臓をくれた相手に恋をするって、絶対に叶わない恋ですよね。それくらい困難な恋愛を書いてみたかったんです」

 移植手術によって健康体となった少年、八月朔日(ほずみ)行兎(いくと)。しかし誰かの心臓をもらったことに後ろめたさを感じ、無為に日々を過ごしている。

「彼は自分の存在意義を自分の内にではなく、他の何かや誰かに委ねています。生きる理由が見つからない。これはまさに当時の自分の心境でした。昔から生きづらさを感じていて、そんな脆さが彼に反映されていますね」

 少年は夢の中で心臓提供者の少女、葵花として生きるようになる。

「八月朔日と対になる存在として葵花を考えました。彼が内向的だから彼女は外向的にしよう、と」

 その言葉通り、生気に充ちて明るい葵花は彼の心を照らし出す。二人の視点によるパートを交互に積み重ねる構成となっていて、物語が進行するにつれ、葵花がなぜ心臓を提供することに、すなわち命を失うことになったのかが浮かんでくるミステリー要素も加わる。

 鍵を握るのは作者曰く「3人目の主人公として書いたほど気持ちが入った」演劇部の顧問教師・星野だ。

「八月朔日とは違う意味で僕自身の歪んだ孤独を反映させた人物です。時間も場所も異なるところで生きている二人をつなぐ役割を持たせつつ、自分が学生時代に演劇をしていた背景なども盛り込みました」

 男性キャラクターたちには、作者自身の何らかの要素が入っているという。

「彼らが葵花に心情を吐露する形で僕も苦しみを吐き出して、それらに対する葵花の言葉もまた自分に向けたものでした。断筆からのリハビリのような心境でこの作品に取り組みながら、小説を書くことの楽しさを取り戻していきました」

 苦しい時期に書いたものだからこそ、彼らの感じる痛みや孤独、そして喜びが切々と伝わってくる。

「リハビリは終わりました。これからもっと素晴らしい作品を書いて、読者の方々を楽しませたい気持ちで今、いっぱいです」

取材・文=皆川ちか 写真=川しまゆう子

著者 青海野 灰さん

青海野 灰
あおみの・はい●千葉県在住。詩作を経て小説を書きはじめ、インターネット上で作品を発表。その後いったん断筆し、5年ぶりに執筆を再開した本作で第25回電撃小説大賞《選考委員奨励賞》を受賞。システムエンジニアとして働きつつ作家活動を行う。

 

『逢う日、花咲く。』

『逢う日、花咲く。』
青海野 灰 メディアワークス文庫 610円(税別)
13歳で心臓移植を受けた八月朔日行兎は、その直後から自分が女の子になる夢を見るように。夢の中で行兎は16歳の少女・葵花となって、家族や友人に囲まれた幸せな生活を送る。その人生を追体験するうち彼女に惹かれていき、やがて心臓を介して二人の距離が縮まってゆく。


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