25年間描き続ける「手」は海外でも人気! 木梨憲武が考える、親子一緒に楽しめるコミュニケーション【前編】

文芸・カルチャー

2019/7/14

 国内はもちろん、海外でも、展覧会は大盛況! 画家としても活動をしている木梨憲武さんが、これまで大切に描いてきた「手」と「あいさつ」。その2つをテーマに、親と子が一緒に読んで楽しめる“コミュニケーション絵本”が誕生した。うれしいときも、悲しいときも、気持ちがつながる――ページをめくるたびに、みんなの心がまぁるくなる。そんな一冊が生まれてきた過程についてお話を伺った。

「なんで、“手”だったんでしょうね」

 現在の画家活動へとつながることになった、バラエティ番組でのアーティストになる企画から25年もの間、木梨さんはずっと“手”を描き続けている。

「僕はペンとノートさえあれば、マンガを描いていた子どもだったので、“何を描いてもいいですよ”と言われれば、普通ならキャラクターものを描いたと思うのですが、なぜか手を描き続けていたんですよね、いくつも、いくつも……。“ヤバい! 楽しい!”って、夢中になりながら」

『きもちのて』(きなしのりたけ/双葉社)

 そう言われてみれば、生まれたばかりの子が初めて目にする自分の身体は“手”かもしれない。まだ寝がえりもできない状態で、あー、あー、声を発しながら手をかざし、“これは、いったいなんなんだろう?”と考えているのか、いないのか……。『きもちのて』(双葉社)は、誰もが人生の年輪のなかに刻んでいる、そんなまっさらな感覚が入ってくるような絵本だ。

「小さなときって、言葉の意味はわからないけど、“いいこだねー”って褒められているのか、“こらっ”って怒られているのか、そのときのムードでみんな、その言葉を感じていると思うんです。この絵本では、そういうところへ入っていきたいなという、ちょっと大きなテーマがありました。色を見るとか、それぞれのページにある手の形で、まっさらに、自由に感じてほしいなって」

 手をモチーフにしたアート・シリーズ「REACH OUT」。国内でも、海外でも、展覧会では、木梨さんが描く“手”が展示されたスペースには、自然に人が集まってくる。自身の大きなテーマでもある「REACH OUT」で表現しているのは、「人と人との結びつき」。この絵本の制作は、「このモチーフをどうやったら表現できるかも含めて、何か新しいもので感じていただけないかな」という気持ちからスタートしたという。

「子どもとお母さんなのか、友だち同士なのか、カレとカノジョなのか、おじいさんとおばあさんなのか、そうした一対一の場合もあるし、横にいる人、周りの人、大勢の場合もあるし、もしそこで誰かが悲しんでいたら手を伸ばす、一緒に喜びたかったら手をつなぐ。そういう気持ちを、手という形で表現できないかな、というのが『REACH OUT』のスタートでした。この絵本も、作るのは僕ひとりじゃできなくてね、デザイナーさんや編集さんをはじめ、たくさんの人たちとの幾度にもわたるミーティングのなかから生まれてきました。“私はこの手が、こういう気持ちに見える”とか、“この色彩から自分のなかのこんな思いに気が付いた”とか、この絵本の制作に係わってくれた人たち、ひとりひとりの感じ方が重なり合い、つながって、生み出されたものなんです」

 テーマは「手」と「あいさつ」。でも、小さな子どもたちに、あいさつを覚えてもらいたい、という趣旨のものではない。

「“こんにちは”も“さようなら”も、大人にとっては、それを言うのは、当たり前だけど、言葉を覚えていない子や、ようやく“ママ”とか“まんま”と発するようになってきた子たちにとって、“あいさつ”の意味を知り、日常生活のなかで自然にそれができるようになるまでには、まだまだその後、過程がありますよね。うちの子たちはもう大きくなっちゃったけど、僕には小さい友だちがたくさんいて。小さな子たちは、“こんにちは”も“バイバイ”も、その言葉を出すとき、ほんとに意味をわかって言っているのか、ただ規則的に言っているのか、それともいやいや言っているのか(笑)、そういうのが、こちらから見るとわかってしまって、本当に純粋だな、可愛いな、と思うんですけど、この絵本では、子どもたちのなかの、そういう心に届いたらいいなと思いました。そして、危ないと思ったら手をつなぎ、好きだからハグし、可愛いから思わずチューをし、と、この時期の子どもと、ママやパパをはじめとする大人たちとの間にある、人と人とのつながりのスタートとも言える地点に戻りたいな、という想いもありました」

“いってきます たったったっ” “すきだよ らんらんらん。るんるんるん。すんすんすん。”――いろんな“きもちのて”のそばには、シンプルな“あいさつ”と、音で入ってくる楽しい言葉たちがページのなかで躍っている。

「“あいさつ”からイメージを膨らませて絵を描いていったページがある一方、絵を描いていくうちに、あるいは描き終わってから、“この手の重なり方は、このあいさつをするときの感じに見えるかな”とか、絵と言葉、どちらから発想していくのか、ということを決めず、臨機応変に描いていきました。そこに、たとえば“ヤッホー”とか“まいど!”とか、描いた手がたとえているような音の響きの言葉を入れていった。そこにはひとつひとつ、僕自身の、なんらかの思い入れと見え方と感じ方が入っているんですけれど。でもね、読んだ方が、その絵に対して、自分の言葉を選んでも全然いいと思う、というか、そちらの方がいいと思うんです。感じ方やどういう風に見えてくるかは、ひとりひとりみんな違うのだから」

 この絵本は、読む人にとっても、懐の大きい、自由な“場所”なのだ。

「ページには描いてよさそうなスペースがあるから。ほら、こんなに空いているから(笑)。自分で言葉を書いていただいてもいいんです。たとえば“ごめんね”のページを見て、これ、“ごめんね”じゃなくて、ごめんねの先にある“だいじょうぶ”なんじゃないかな?と感じたら、“だいじょうぶ”って、余白に描いちゃってください(笑)」

【後編】は7/15(月・祝)18:00公開予定です。

きなし・のりたけ●1962年、東京生まれ。とんねるずとして活躍する一方、アトリエを持ち画家しても活動している。2018年7月からスタートした「木梨憲武展 Timing―瞬間の光り―」は日本各地を巡回中。日本だけにとどまらず、ニューヨークやロンドンでも個展を開く。キットカット45周年記念パッケージや東アジアE-1選手権2019の大会公式球のデザインも手がける。

取材・文=河村道子 撮影=花村謙太朗