祝・大ヒット! みんなで語ろう、映画『このすば』⑥――金崎貴臣(監督)×上江洲誠(脚本)対談

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公開日:2019/11/1

『映画 この素晴らしい世界に祝福を! 紅伝説』 公開中 (C)2019 暁なつめ・三嶋くろね/KADOKAWA/映画このすば製作委員会

 8月に公開された『映画 この素晴らしい世界に祝福を! 紅伝説』が大ヒット! 原作小説は累計発行部数が850万部を突破し、TVアニメから引き続き、映画も絶好調。キャスト・スタッフが一丸となって生み出す、最高に笑えて、観ていていつの間にか元気が出てしまう『このすば』はなぜ素晴らしいのか、徹底的に迫ってみたい。映画の公開直前にお届けした5本のキャストインタビューでも、数々の熱い言葉と『このすば』への深い思い入れが語られていたが、作り手もその温度は同じ。互いへの信頼感と固い信念を携え、アニメーションとしての『このすば』を牽引してきた監督・金崎貴臣&脚本・上江洲誠が明かす、『このすば』のコアにあるものとは――。

どの監督さんも脚本の出来に対して厳しいけど、その中でも金崎さんは厳しい(上江洲)

──映画『このすば』、めちゃくちゃヒットしてるみたいですね。

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上江洲誠:そうなんですよ。

金崎貴臣:実感がないです(笑)。でも、Twitterとかでいろいろ感想をもらえてて、すごく幸せですね。『このすば』をアニメの1期から面白いねって言ってくれた人たちが応援してくれたから、2期が始まって、2期も応援してくれた人たちがいてくれたから、「映画も作ろう」という話になって。映画は2年くらいかかって、お待たせしちゃったし、ぶっちゃけ死ぬような2年間だったんですけど(笑)、「面白かったよ」って言ってもらえて、作ってよかったな、と思います。

上江洲:僕らが潜伏していた2年の間に、お客さんが増えてるんですよ。だから、TVアニメをやってたときよりもリアクションがすごく多くて。お客さんからのリアクションの圧に、わりとくらくらしてます。

──最近の作品の傾向で、TVアニメの放送以外でもゲーム等の収録があって、それを通してキャラクターの一面を新たに知る、みたいなことがあったりしますよね。

金崎:そういうこともあるかもしれませんが、『このすば』は、まず暁なつめ先生の本の作りが面白いんです。大前提として、まずは原作が面白い。で、原作の面白い部分はどこかと言ったら、会話だと思うんですよね。カズマたちのキャラクター性と、暁先生の掛け合いの速さが、非常に強度が高いし、読んでるだけで面白い。それをアニメに再構築するときにどうすると面白くなるの?という部分で、詰め込みすぎちゃうと、途端に薄い感じになるんですよね。会話のキャッチボールがスカスカになる。たとえば、TVアニメ1期のAパートはカズマとアクアだけでいい。めぐみんは、1話には出てこない。たぶん、他のライトノベルのアニメ化作品に比べて、テンポはだいぶゆっくりだと思います。

上江洲:わざとそうしてますね。もっと早く人気キャラが登場する構成は、当然望まれたことでもあったんですけど、監督と僕で話し合って、「そういう作り方はしません」ということにして。監督がおっしゃったように、会話劇が面白い作品であって、キャラクター性がしっかりわかるところまで会話に尺を使わなくてはならないので、アニメでは展開を急がないということを最初に決めてから構成しています。

──なるほど。それって、ある意味勇気がいることですよね。

上江洲:いりますね。それこそ、1話でダクネスまで出してくれって言われたら、僕もやれないこともないんだけど、金崎さんとの話し合いの中で、キャラクターのやり取りをひとつひとつ、しっかり見せていこうって言われて、「それは面白いな、書く甲斐があるな」と思ったんですよ。

金崎:アニメの『このすば』が『このすば』たりえてる部分は会話劇で、その要は、やっぱりカズマ役の福島潤さんなんですよね。僕は、コメディもので重要なのはテンションの上げ下げだと思っていて、観てる人に楽しんでもらうためには、タメがあったり、ギュッとテンション上げる必要があって、その緩急をカットごとに全部計算して作っているんです。福島さんは、そうして作り上げた会話劇を「テンションの上げ下げ」を駆使して見事に演じてくれる。カズマはセリフ量がとても多いし、感情のコントロールがすごく難しい役だったから、オーディションでは納得できる人が出ない限りOKしなかったのですが、3回目の候補テープの中に福島さんがいて、「来た!」って。福島さんはお芝居への取り組み方が熱いし、作品の座長としてもすごくしっかりしてるので、パーティーの他の3人の役者さんともいろんな化学反応が起きて、ノリのある芝居ができてるんじゃないかと思います。

上江洲:『このすば』は、キャスティングに関しては一切の妥協がないタイトルなんですよね。

──役者の話で言うと、たとえばアクア役の雨宮天さんは、『このすば』以前の時点で、いわゆるコメディエンヌ的な資質が見えていた人ではなかったと思うんですけども。彼女がアクアに相応しいジャッジしたのは、どういう基準だったんですか?

金崎:「ゴッドブロー」です。僕がキャスティングで一番重要視してるのは、感情の起伏をしっかり演じられる人であるということなんですが、オーディションで雨宮さんの「ゴッドブロー」を聴いたときに、もうめちゃめちゃ「ゴッドブロー」だったんです。とにかく突き抜けている(笑)。そこがしっかりしていた上に、日常芝居でカズマを煽るときとかもすごく楽しそうな感じがあって、演じ分けが上手いな、と思ったんです。そういう感情の起伏がある芝居ができることを重要視していて、これは高橋(李依・めぐみん役)さんもそうだし、茅野(愛衣・ダクネス役)さんもそうだし、極端な話、『このすば』でキャスティングしてる人は全員そうです。映画のシルビアさん(渡辺明乃)なんて、最たるもので(笑)。

──(笑)なるほど。

金崎:アニメーションって総合芸術で、絵があって、声があって、音楽があって、この3つがガチッと合わないと、観てる人の感情は動かせない。映画もアニメも、感情ラインをしっかりイメージして作っているので、そこに乗らないパーツが出ると、やっぱりうまくいかないところがあって。だからシナリオ会議でも、僕はつまらないものはOKしないです。上江洲さんと一緒にやるとここまで来られるのは、だいぶ注文が厳しい中で、それに応えてくれるからですね。

上江洲:今、どの監督さんも脚本の出来に対して厳しいですけど、その中でも金崎さんは厳しいですね。『このすば』の場合、「絵のほうで面白くしておきますよ」ということはなくて、完全に脚本の段階で作り込んでます。

金崎:今回、『このすば』の映画で、何が産みの苦しみで大変だったかというと、シルビアさんですね。デュラハン然り、ハンス然り、魔王軍の幹部はみんな、どこか憎めなくて愛せるキャラを作ろうと思っていたんです。カズマたちが戦うべき相手としてカタルシスがあるほうが、アニメとして響くものになるので。シルビアさんにはシルビアさんの正義、芯になるものがあって、そこが決まらないと、その先のシルビアの性格が生まれてこないので、たぶん、1、2ヶ月くらいトライ・アンド・エラーを繰り返して。

 コメディって、笑いだから作り方が簡単だと思われがちなんですけど、僕が思うに、人を幸せに笑わせることほど難しいことはないんです。極端な話、シチュエーションと音楽で涙は誘える。でも、それだけで人は笑わせられない。さらに、これは僕の持論なんですけど、ギャグとコメディははっきり分かれていて。僕の中の定義は、劇中で自然に人を笑わせるのがコメディ。何かを脈絡もなくポンと急にやって笑かすっていう、単発の派手な花火がギャグ。だから、コメディをやるためには、ドラマを作っていって、「ここで笑わせる」ということを全部計算の中でやらないと、クスッとこない、みたいな感じがあるんですね。

作る上で一番大切にしたのは、積み重ねがないものに愛は生まれない、ということ(金崎)

──金崎さんの中には相当明確なビジョンがありつつ、おふたりの間でそのビジョンが完全に共有されてないと、作品にはなっていかないですよね。

金崎:やっぱり、上江洲さんとやった『これゾン』(『これはゾンビですか?』。2011,12年に放送されたTVアニメ)の影響は大きかったかな。それぞれ、引き出しを知ってるじゃないですか。そこの信頼感があるからこそだと思います。

上江洲:『このすば』の今のチームがあるのは、間違いなく『これはゾンビですか?』があったからで。金崎さんと初めて一緒にやらせてもらって、『このすば』はそのチームワークありきなんですね。スタジオディーンさんからTVアニメの『このすば』の依頼があったときに、「金崎さんだったらやりたい」と僕が言って、金崎さんも「上江洲だったらやりたい」と言って。双方が、同じ条件を出してたんですよ。相思相愛で始まった企画だったんです。僕も『このすば』の原作を読んで、とても面白かったけど、難しいな、と。金崎さんが言うように、コメディというのはとにかく作るのが難しくて、コメディの才能がある人じゃないと作れない。で、この内容でやるんだったら、一緒にやるのは金崎さんがいい、金崎さんとだったら一緒に建設的な話ができるので、提案させてもらったんです。

──なるほど。

上江洲:『これゾン』のときにやってよかったなあと思う部分もありつつ、もっとやれたんじゃないかという部分もあって、そこはアップデートするべきだし、『このすば』はそうやって作りましょう、と。『このすば』には、我々が妥協しなかった部分が多いんですけど、それは『これゾン』のときに、気を遣いすぎたり、今思えば妥協してたりしたことがあって。だから、今回は自分たちが納得しない限りは先に進まない、と。脚本の段階で笑える状態になってないものはその先には進みません、絵コンテ描きません、というくらい、厳しくやってます。そうやって頑なに始まったチームなので、このアニメの強度はそこにあると思います。逆に、自分たちで茨の道に入っちゃったので――。

金崎:きつかった(笑)。

上江洲:自分たちで勝手に天岩戸を閉じちゃったので。自給自足で面白くしなきゃいけなくなっちゃったんです。

金崎:言ったからには、ちゃんと面白いものにしないといけないので。

上江洲:だから、映画が完成して、ほっとしましたね。今、『このすば』を好きになってくれた方には、ぜひ『これゾン』も観てほしいです。源流であることがわかってもらえると思います。

──金崎さんがおっしゃった感情の起伏、高低差が重要という話って、まさに『これゾン』を思い出すなあ、と思いながら聞いてました。

上江洲:そう、そこが『これゾン』のいいところだったんですよ。で、『これゾン』のいいところだけは確実にやろう、と。『これゾン』のゆるくなってしまってる部分は反省すべき点として、今回は全部厳しく作ることにしてるんですね。

金崎:ピンポイントに絞りすぎないようにしてますね。コメディのオチの部分というか、笑いの部分って、とがればとがるほど深く刺さるんですけど、穴はすごく狭くなっていくんです。

上江洲:マニアックにしすぎないってこと?

金崎:そう。『これゾン』のときはまだ経験不足で、「いかに刺さるか」に意識がいきすぎていて。

上江洲:そうですね。『これゾン』はエッジが強いです。

金崎:だから、ハマってくれる人はすごくハマってくれるんだけど、観てくれる人を選別してしまうようなところがあったかもしれなくて。そこで、「あ、なるほど」と思ったんです。『このすば』の原作は、カズマのぼやきだったり、ヒロインたちに対するツッコミだったりが面白いんだけど、アニメでそういう部分をファミリー的な感じで描いているのは、作品の間口を広くして、観てくれる人を選別しないようにしたいからなんですね。

 いまどきのライトノベルって、中高生の主人公が異世界に行って、いきなり無双したり、いきなりハーレム的な展開になって、現実世界では味わえなかったことを楽しむのがベースじゃないですか。表面だけ見ると、『このすば』もそれなんです。でも、作る上で一番大切にしたのは、積み重ねがないものに愛は生まれない、ということで。

上江洲:カッコいい!

金崎:ははは。まあ、僕もいい大人なんで、「そんな都合のいい世の中はないよな」っていう(笑)。一緒にいた時間、一緒に何かをやってきた時間を経て、初めて愛は生まれるものだと思っていて。なので、『このすば』の1期・2期では、絆だったり、仲間だったり、要はパーティーとしての信頼感を描いたんです。憎まれ口は言ってるけど、一緒にいてすごく落ち着くんだろうなあ、という空気感は常に出ていて。「信頼してる」って口で言うと、安っぽくなるじゃないですか。でも、普段は憎まれ口を言ってるけど、ずーっと言わなかったことを1回だけ言うよ、みたいな感じまでずっとためてから言うるから、ちゃんとキャラクターの心情に寄り添った言葉になる。たとえば映画ならカズマがめぐみんのことを信じて最後の技を託したり、アクアに「頼んだぜ、相棒」って言うところですよね。アニメを作り始めたときから、とにかく一番気をつけているのは、意味のない、唐突な愛は作らない、ということです。ちゃんと時間を経て生まれてくる絆や愛がホームコメディの基本で、そうでないと簡単に感情移入できない。笑わせはしてるけど、ドラマとしての積み重ねも、裏テーマとしてちゃんとみんなで作ってきたんですね。

上江洲:展開ばかり追うことをやめてるんです。原作は16冊あるんですけど、我々はまだ5冊までしか進んでないから。

金崎:5年もかけて!(笑)。

上江洲:(笑)やっぱり、展開ばかり追うと、キャラクターの人柄が伝わらないんですよね。この作品ではとにかく、キャラクターの人柄をしっかりみんなに伝えたくて。だから1期の冒頭のように、長くキャラクターと付き合う時間を作っていて。そここそが、『このすば』のプロジェクトで一番やりたかったことであり、やり続けてることですね。だから我々、もしアニメの続きが決まったとしても、たぶん1冊分しかやりません!

金崎:ははは。

上江洲:2冊でも多いなあ、と今のところは思っていて。だからね、全部アニメにするには、あと10年くらいかかるんですけど(笑)。