まさに『世界一受けたい授業』! 塾も書店もない村が学力日本一になった驚きの学習法とは

暮らし

公開日:2019/12/1

『「学力日本一!」秋田県東成瀬村のすごい学習法』(主婦の友社)

 2019年度「全国学力テスト」で第1位になった秋田県。その秋田県は2007年に再開された「全国学力テスト」で12年間でなんと10回も1位を獲得している。なかでも、トップクラスの学力を誇るのが人口2600人、村の93%が山林という「東成瀬村」だ。この小さな村には書店もなければ塾もない。それにもかかわらず、世界中からの年間約300回も教育視察団が訪れるという。まさに『世界一受けたい授業』が東成瀬村にあるというわけだ。

 この「学力日本一の村」は、どんな教育をしているのか。東成瀬村が行っている教育のすべてを徹底的に取材し、取り組みをまとめた『「学力日本一!」秋田県東成瀬村のすごい学習法』(主婦の友社)が出版された。本書の取材班であり、担当編集者の加藤文隆さんに、「東成瀬小学校が学力日本一になったワケ」を聞いてみた。

――東成瀬村に注目されたきっかけは?

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加藤文隆さん(以下、加藤):たまたま別の取材で秋田県へ行っていたときに、現地のカメラマンから「東成瀬村って知ってますか? 学力日本一ってことで取材が殺到してるんですよ」と聞かされたんです。それまで東成瀬村自体もまったく知らなかったのですが、弊社の『最新版 やる気スイッチが入る秋田県式家庭学習ノートで勉強しよう!』(主婦の友社)がベストセラーだったこともあり、興味が湧いて、「今から行きましょう!」と東成瀬村へ突撃取材したのです。最寄り駅がないような山間部で、周りには山と畑しかなく、コンビニがたった1軒あるだけ。「日本昔ばなしに出てくるような雪山の中に天才、秀才たちがいるのか」とワクワクしながら向かいました。

――実際に行かれてみてどうでしたか?

加藤:小学校の目の前に村役場があり、アポなしで訪ねたわけですが、すごく好意的に対応していただき、その場で小学校、中学校、児童館を見学させていただきました。この時点で、「国内外から年間300件もの教育視察、取材が来る」というのは納得でした。教育委員会も学校も先生も生徒もみんな驚かないんですよ。普通、カメラを抱えた大人たちが教室に来たらざわざわすると思うんです。でも先生も小学生たちも平然と授業を受けている。日本テレビ『世界一受けたい授業』ではプロレスラーの蝶野正洋さんが現地取材されていましたが、同じことを言っていました。取材慣れしているって(笑)。

――取材慣れしているってすごいですね!でも、取材慣れ=学力が高くなるってわけではないですよね?

加藤:もちろんです。ですが、平常でいられるということは常に「見られること」「見せること」を意識しているんだと思うのです。その「見られること」を顕著に表しているのがノートです。廊下にはたくさんの展示物があり、作文やノートが貼り出されているのですが、字の汚い生徒がいないんです。

――本書では東成瀬村の授業の工夫、独自のノートの取り方、自主学習の方法などが紹介されていますが、特に興味深いのは、家庭学習にも活かせそうな“自主学習ツール”です。

加藤:東成瀬村の小学生たちは、毎日、進んで自主学習をします。その背景には、同校が取り入れている「自主学習ノート(自学ノート)」があります。子どもたちは毎日、宿題とは別に、自分で勉強する内容を決め、この自学ノートを使って家庭学習に取り組みます。自学の内容は復習、苦手部分のおさらい、漢字や計算の練習ほか、何でもOK。注目すべきは、ノートの書き方と自主学習のしかたです。

 自学ノートは、必ずこの5つの構成で書くことをルール付けしています。

(1)日付(◯月◯日)を書く

(2)取り組む内容を書く

(3)取り組んだ時刻・時間を書く

(4)めあてを書く

(5)振り返りを書く

――自学自習は学力を伸ばす。毎日、自学ノートに取り組むことで子どもの学力が上がることには納得できますが、不思議なのは、どうしてすべての子どもが毎日自学ノートに取り組めるか、ということです。

加藤:これにも同校の工夫がいくつか凝らされています。例えば、校内に自学ノートの展示・閲覧スペースをつくり、子ども間で刺激を与え合ったり、先輩が後輩に自学ノートのアドバイスをする機会を設けたり、優秀な自学ノートを表彰する「自学コンクール」を開催しています。なかでも、子どものモチベーションを最も高めるのは、身近な大人がページに目を通してくれることなのかもしれません。東成瀬村では9割が共働き家庭ですが、そのほとんどの家庭が3世帯同居。つまり、おじいちゃん、おばあちゃんが自学ノートを見てあげるなど、子育てに積極的。村人みんなで教育環境を作り上げているのです。

――つまり、学力日本一は子どもたちだけのものではなく、村人みんなで得た結果ということですね。

加藤:そうです。東成瀬村では子どもも大人も人任せにする人がいない。自分の子どもも隣の家の子どももみんなが村の子どもとしていて、子どもたちも「学力日本一! 東成瀬村の子ども」であることを全力で表現しているのです。

 今は、親も子どもも忙しい時代。親が家庭学習を見てやれる時間を取るのが困難な家庭は少なくない。都会ではそれを塾や家庭教師に任せている家庭が多いと思うが、東成瀬村では学校、家庭、地域が一体となって教育と向き合っている。図書費は全国平均の約4倍。村役場が講師を招いて行う村営夏期講習はもちろん無料。また、村には高校がないため、村外の高校への通学費の8割を村が負担する。村人みんなが「子ども一人ひとりが宝」「教育こそが財産」と理解しているのである。

 本書ではテストで10点上がる、偏差値が10上がるといった、特効薬は書かれていない。だが、子ども一人ひとりが確かな学力をつけるためのヒントが多数書かれている。