元アイドルが人生ドン詰まり、赤の他人のおっさんと同棲!? 奇妙な共同生活で得たモノとは 【大木亜希子さんインタビュー】

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公開日:2019/12/1

■自分自身の失恋エピソードを赤裸々に明かすことができたワケは?

――個人的な感想ですが、結婚を控えた彼女がいながらも大木さんへの好意を匂わせていたフリーランスのカメラマンさんとの失恋エピソードには“男のズルさ”も垣間見えて、心をえぐられました…。執筆中、どのような思いが巡っていましたか?

大木:正直、今回の作品でひときわ心苦しかった部分でもありました。つねに「私を忘れないでほしい」と情念に駆られていた気もするし、とにかく書き上げて「この思いを成仏させたい」という一心で、恋愛で死にかけた当時の思いをひたすら文章に叩き付けていました。

 この本にはササポンとのエピソードがある一方で、もう一つの作品の柱になっているのは、同世代の方々に「恋愛で傷ついた感情はどう?」と問いかけたい気持ちが込めてあります。私の場合は「本当に好きだったのか。どうやら好きだったような…」という相手との話を綴りました。失恋を完全に乗り越えたといえばウソになるものの、今では感謝の思いしかありません。

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――失恋について赤裸々に明かしている一方、30代になる一歩手前で仕事や婚活にもがく大木さんの姿も心に残りました。そして、今年8月には30歳を迎えたわけですが、今の心境はいかがですか?

大木:年齢にとらわれたくないと思えるようになったものの、いまだに一つずつ年を重ねていくことへの怖さはあります。ただ、30代を手前にして生活がボロボロになっていた当時とは違って、「何歳までにこれを打ち立てなければ」という、強迫観念はだいぶなくなりました。

 ササポンとの生活はもちろんですが、もう一つのきっかけになったのは、ひとりっきりのベトナム旅行でしたね。恥ずかしながら、この年齢になるまで航空券すら自分で取得したことがなかったんですよ。だから、自分の描く“大人”になるまでには、ゼロから自分で手配して海外旅行へ行きたいと思っていたので、誕生日の直前に実行しました。

 現地では英語がまったく通じず、街中のタクシーではボッタクられたりと散々な目にも遭ったのですが…。とはいえ、現地に詳しい友人が行き先をコーディネートしてくれたこともあって、大人になったからといってすべて自分で背負い込む必要はないし、「困ったら人に頼るべき」と気づくいい経験になりました。

――人生に“詰みかけた”経験がありながら、周囲の人に助けられながら今を生きる大木さん。最後に、赤の他人のおっさんとの生活を中心に綴った自叙伝について、読者へ向けて伝えたいことは何でしょうか?

大木:今回の作品では「私は人生が詰みかけたけど、あなたはどう?」と、読者へ向けて問いかけています。執筆当初は同世代の“アラサー女子”に向けて書いていたつもりだったのですが、男性からも反響があり、広い年齢層に響く1冊になったという実感もありますね。仕事や結婚に焦って自分への憤りを溜め込んでいた当時とは違い、今は幸せに生きられるようになったのも伝わってほしいし、他人への競争心を捨てて人生を心から楽しむようになる“道しるべ”となればありがたいです。

周囲からは「強い人間」と評価されるものの、自分は弱いと語ってくれた大木さん。“赤の他人のおっさん”をはじめ、人に支えられて生き延びてきたという彼女の経験は、ふだんはなかなか気づきづらい、さりげない人のやさしさがすぐそこにあることも教えてくれる。

取材・文・写真=カネコシュウヘイ